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舞うが如く 第2章 4~6

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 今度は一間半ほどの間合いまで、
琴のほうから詰め寄りました。
間髪をいれずさらに数歩、琴が詰め寄りにかかります。
勢いに押されて、退く武州の剣客の背後には、
早くも、道場の板壁が迫ってきます。

 そこで数呼吸を整えたのち、
床を激しく蹴った武州の剣客が、ほぼ真正面から、
琴の面を狙って、木刀を繰り出しました。
軽やかに右に交わした琴からは、
踏み込んだ足元を、なぎ払うように木刀が走ります。

 大きく跳躍をして、
かろうじて剣先をかわした武州の剣客が
着地の瞬間に、勢い余ってわずかに体制を崩しました。
その瞬間を見逃さず、琴の木刀が
今度は、下段から上段へと走ります

 左小手をかすめた琴の木刀が、
さらに鋭く斬り返されて、武州の剣客の木刀を払い落とします。
再び斬り返された木刀が、武州の剣客の
がらあきとなった胴をめがけて、一直線にと走りました。

 「それまで」

 良之助の一声に、
わずかな隙間を残して、
琴の木刀が静止します。

 「兄上、いつのまに。」

 「それまでである。
 本気で打ち込んでは大怪我となろう。
 武州のお武家にも、
 また長い道中を無事に帰ってもらうのが一番である。
 嫁をめとりに来て、大怪我をしたあげく、
 手ぶらで帰ったとあれば
 地元に戻ってから、ただ事では済まなくなろう。
 もう、充分と思われる。」

 「おそれいりました。
 噂以上の使い手ぶり、実に御見事。
 完敗でござる。」

 「いえ、こちらこそ、
 大変な失礼をいたしました。
 おなご如きと思って、油断なされたのが、
 当方には幸いいたしました。
 お申し込みはありがたく思いますが、お約束通り、
 琴は、私よりも強いお方のところでなければ、お嫁にはまいりませぬ。
 本日は、幸いにして私の勝ちと言うことで、
 また後日の立会いなどを、楽しみにお待ちしたいと思います。
 ご指南をいただき、誠にありがとうございました。
 これにて、本日は失礼をいたしまする。」

 汗をぬぐうまでもなく、
武州の剣客に向かって、深く一礼をすると、
琴は道場を後にしてしまいます。
良之助も黙って道場を後にしました。