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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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ヴァーミリオン-朱-

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 唱えられた呪文により、?メシア?の肢体に取り付けられていた四つのバンドが互いに引き合い、前屈の格好のまま動きを封じられてしまった。
 前屈の姿勢のまま横倒しになった?メシア?にズィーベンが近づく。
「次からはもっと重い枷を付けることにいたしましょう」
 見下す四人の女性にメシアは毒づく。
「ボクのこと苛めてそんなに楽しいかい? 足にも手にも枷を嵌められ、アイマスクと猿轡までされて、キミらのSM趣味にはうんざりだよ」
 アインの大剣がメシアの首に突きつけられる。
「貴様に声は必要ない。口が過ぎるようであれば声帯を切ってやっても良いのだぞ、?メシア??」
「その?メシア?って呼び名もやめてもらえるかな。ボクには慧夢(えむ)ってカッコイイ名前があるんだケド?」
 本当に慧夢の声帯を切ろうと動いたアインの手を女帝が止めた。
「まぁまぁ、?メシア?クンはうちの大事な戦力なんだから、傷物にしちゃ駄目だよ」
「しかし……」
 最後まで言わずアインは口を噤んだ。
 女帝は慧夢に背を向けて歩き出しながら言う。
「ズィーベン、今度からはアタシたちに逆らったら、悶絶して死んじゃうような枷を?メシア?クンに付けてあげて」
「承知したしました」
 女帝の背中に頭を下げるズィーベンや、他の者たちを見ながら慧夢は言葉を吐き捨てる。
「みんな嫌いだよ」
 三人のワルキューレに引きずられ、慧夢はまたあの暗い地下に封印されるのだった。

《7》

 小柄なパーツを組み合わせ、形だけだが少女の傀儡が完成した。
 初めてつくった傀儡ということもあり、関節の接合部もすぐにわかり、作り物だということがすぐにわかってしまう。それでも先代が残した素材が良いために、肌の質感や、肉の弾力は本物そのものだ。
 次にこの傀儡に必要なものは、原動力となる〈闇〉の注入。
 〈闇〉の注入には危険が伴うらしく、つくった傀儡が壊れてしまうこともあるらしい。
 呪架はつくった傀儡を抱きかかえて屋敷の外に出た。
 裸のままの傀儡を地面に寝かせる。胸部の少し上に透明のクリスタルが嵌め込まれている。ここに〈闇〉を注入する。
 柔らかな日差しを浴びる少女の傀儡から、呪架は数歩後ろに下がって気を静める。
 少し離れた場所からはセーフィエルは佇み見守っている。
 ここ数日、呪架は傀儡づくりだけをしていたわけではない。精神界から戻った呪架は傀儡士としての技を磨き、より高みを目指して修行を重ねた。
 傀儡に嵌め込まれたクリスタルに意識を注ぐ呪架。
 軽く右手をストレッチして、呪架は空間に向けて妖糸を放った。
 断絶された空間の傷が唸り声をあげ、徐々に広がりを見せる。
 裂けた空間の先に広がる闇。
 闇色の裂け目から悲鳴が聴こえる。泣き声が聴こえる。呻き声が聴こえる。どれも苦痛に満ちている。
 〈闇〉が世界に解き放たれ叫び声があげた。
「俺の言うことを聞きやがれ!」
 怒鳴りながら呪架は指先をクリスタルに向けた。
「大人しくその中に入れ!」
 〈闇〉が呪架の命令を聞き、クリスタルに向かっているかに見えた。だが、クリスタルの上に来た途端、方向転換をして呪架に向かって飛んで来た。
 向かって来る〈闇〉を見て、呪架の脳裏に吐くほどに辛い過去の残像が浮かぶ。
 朱に染まる母の幻影と、恐ろしい〈闇〉に連れ去られた?向こう側?の世界。
 呪架の心を蝕む恐怖。
 向かって来た〈闇〉を呪架は紙一重で避けた。
 心に隙間を蝕もうとする〈闇〉。
 悲鳴、鳴き声、呻き声、苦痛に満ちた絶叫が呪架の耳を犯す。
 方向を変えた〈闇〉が再び呪架に襲い掛かる。
 呪架は息を呑んだ。
 〈闇〉は支配するものだ。
 決して〈闇〉を恐れてはならない。恐れは心を殺す。
 絶対的な力によって〈闇〉を屈服させるのだ。
 呪架の瞳が闇色に染まる。
 全身から魔気を発する呪架。
「俺の前に屈服しろ!」 叫ぶ呪架の躰に〈闇〉が飛び込んだ。
 〈闇〉の強烈な一撃を腹に喰らいながらも、呪架は恐れなかった。
「俺に逆らってんじゃねぇよ!」
 全身から荒波のような魔気を発した呪架から〈闇〉を飛ばされた。
 そのまま呪架は手を掲げた。
「〈闇〉よ、傀儡の力となれ!」
 呪架が手を下げたと同時に〈闇〉が急落下をしてクリスタルに吸い込まれた。
 透明だったクリスタルの中で闇色が渦を巻いている。
 ついに傀儡士の傀儡が完成した。
 事を終えた呪架は腹を押さえながら地面に膝をついた。
「さっきの一撃でまた臓器が犯られた……」
 歯を食いしばりながら呪架は立ち上がった。
 呪架は完成した傀儡の傍らに膝を付き、つま先から指先、髪の毛の一本一本までをいとおしく眺めた。
 闇色の渦巻いていたクリスタルはすでに純粋な透明に戻っている。〈闇〉が全身に行き渡った証拠だ。
 呪架は少女の傀儡を抱え、力強く抱きしめた。
 傀儡の肌は熱を帯びており、皮膚の下からは血流のようなエネルギーの流れを感じる。
 この傀儡は初めてつくった試作品であるが、それでもあとは〈ジュエル〉さえあれば、エリスの黄泉返りは達成される。
 しかし、その〈ジュエル〉はまだ呪架の手元にない。
 エリスの魂は〈裁きの門〉の奥に幽閉されているらしい。
 呪架はさきほどまでいたはずのセーフィエルを探した。
 辺りにセーフィエルの姿も気配もない。
 すぐさま呪架は傀儡を抱きかかえて屋敷中を探したが、どこを探してもセーフィエルの姿はなかった。
「クソッ、どこに行きやがった」
 せっかく傀儡ができたというのに、〈裁きの門〉のことを知っているセーフィエルが姿を消した。
 手がかりを握るセーフィエルが消えたことにより、呪架の心は苛立ちを覚えずにはいられなかった。
 そして、呪架はあまりのも大胆な強硬手段を思いついたのだった。