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ネオテニー疾走

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出会いは補習だった。それも、(俺は後で知ったのだが、)手に負えない問題児を集めた補習だ。学校側は、ドロップアウトなんて出来るだけ出したくないので、テキトーに補習をやって、テキトーに進級させてしまおうという魂胆だったのだろう。両手の指の数よりピアスのが多い俺も、もちろんそれに呼ばれた。
 そこでナナメ後ろの席にいた女が、じーっと俺の方を見て顔を逸らさないでいたので、いつもの調子で
「何見てんだ」
と凄んだのが最初だ。女はそれに答えず、まだガンつけてきたので、俺もイライラして、そいつの胸ぐらを掴んで立たせ、
「俺の顔に何か付いてるってか? あァ?!」
と言ったら、やっぱり俺の顔をじーっと見つめて、にこり。
「…ピアスが付いています」
特に怖がる様子もなく、ちょん、と俺のデコピをつついてそう言った。なんだこの女、と思った。
 それ以来、江島輝石は頻繁に俺の前に姿を現した。たまに学校に行ったら、休み時間のごとに教室まで押し掛けるし、どこで嗅ぎつけたのか、俺がバイトしてるうどん屋にまで来た。
 とうとう他校生との喧嘩中にまで現れて、やれ八文字の女がきただのやれ人質にとれだの、そりゃあまあ邪魔以外の何物でもない。と、思ったら、まず肩を掴んだ男を軽く足払いですっ倒し、留めをさすように鳩尾を蹴り上げた。重めの音がした。当の男は、蛙の鳴いたような声を出してうずくまって、それきり動かない。
 細っこくて、か弱そうな女(それも、結構整った顔をしている)が、男一人をいとも簡単にのしてしまったものだから、俺の方よりそっちに気が向いてしまって、自棄になった奴らは一斉に奴に飛び掛かった。
「八文字くん、喧嘩好きなの? やめた方がいいよそんなの」
言いながらも、鉄パイプ(他校生が武器にと持ってきたやつだろう)を拾い上げた江島は、それで次々と男たちを再起不能にしていった。涼しげな顔で鉄パイプを振り回す江島を、俺はぽかんと眺めていた。江島の構えは、そこらの不良というより一人の武士のようだった。あれは剣術か。奴が周り全部を片付け、こっちに駆けてきたので、俺ははっと現実に引き戻された。
「てめぇ! どういうつもりだ!」
 出会った時と同じように、出来るだけ乱暴に胸倉を引っ掴む。奴もまた、出会った時と同じように、にこり。
「暴力はよくないと思います」
「どの面下げて言うんだよ!」
 江島のさわやかな笑顔に、俺はもう勝てる気がしなくなった。言っておくが、江島の見事な剣術をお目にかけたからじゃあない。
いけしゃあしゃあと、きれいごとを言ってしまう(しかもさわやかだ)ような女、恐ろしくてしょうがない。しょうがない。
「まあ、いいじゃないですか。それより、何か食べに行きません?」
「は?」
「ほらほら、何にします? 私は鍋とかいいと思うんですけど」
 腕を引かれ、俺は他校生に連れ込まれた路地裏から、表通りへ歩き出した。


作品名:ネオテニー疾走 作家名:塩出 快