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南 総太郎
南 総太郎
novelistID. 32770
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『偽りの南十字星』 22

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『偽りの南十字星』 22

藤和産業シンガポール駐在員事務所長は村田の後任の宗像光男が引き継いだ。
彼もインドネシア・パイナップル社のシンガポール支社長を兼務している。

宗像は缶詰畑とは縁がなく、営業部門を統括する業務部の課長だった。
缶詰部門には村田の後任候補者がなく、他部門を当たった結果の人事だった。
当初、未経験者でどうかとの意見も出たらしいが、結局宗像に決まった経緯がある。

宗像も最近の上層部のガタツキには気付いていたが、詳しい事は知らされず、現地に赴任して
初めて異常事態の内容を知り、愕然としたのだった。

宗像の知る限り、数十億円の損失は他に例を見ない筈で、藤和にとっては史上最悪の事態
にあることは確かだった。しかも、この数字は赤字垂れ流しのネシア・パイン社が存続する限り、
日増しに増大するばかりで、此の侭では会社は倒産しかねない。

或る日、シアンターの本社から連絡があり、至急ジャカルタに飛んでくれとの指示を受けた。
支社長でもある故、本社の指示には従わねばならない。
用件を聞くと、それはジャカルタのホテルに着いてから話すと言う。
兎も角出張の準備に取り掛かった。

ジャカルタへは1時間飛べば着く。
交通量の多い大通りに面したホテルの一室に納まった。
ベッドに寝転ぶと、コーランが街のどこかのスピーカーから朗々と流れ出した。
時々音痴もいるが、これは素晴らしい歌唱力である。

ホテルに隣接したビルに取引銀行の支店がある。
近くには日本大使館もある。
便利な場所だ。

暫くして、電話のベルがけたたましく鳴った。
村田だと言う。
従来付き合いが無いので、初めて聞く声である。
宗像とは齢も余り違わないが、相手は今や一応社長の立場にある人間ゆえ、敬語を使って
応対した。

用件の内容は、大至急BKPMへ行き、日本人スタッフの就労ビザの延長許可を取る事だった。
スタッフの一人が現在地元警察に捕まり留置されていると言う。

「そりゃ、大変だ」
と、宗像はホテル入り口のタクシー乗り場に走った。

BKPMの受付で申請に関する帳簿を調べると、あるべき名前が載っていない。
そもそも申請していないのだ。
これでは、いくら待っても延長許可が下りる筈が無い。
ホテルに戻り、シアンターに状況を報告した。

誰が申請するのかと聞けば、ネシアパートーナーの仕事だと言う。
それじゃ、という事で、宗像はジャムティワンの自宅へ急行した。
屋敷街の一角に漸く発見し、庭に入って行った。


                         続