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南 総太郎
南 総太郎
novelistID. 32770
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『偽りの南十字星』 20

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『偽りの南十字星』 20


藤和本社の役員室の一室で、藍川専務が永田常務と相談している。

藍川は、社長からネシア・パイン社の巨額の赤字は藤和本体の屋台骨を
揺るがす惧れがあるので、これ以上増えぬ内にネシアから撤退すべきでは
ないかと言われたと言う。

確かに、タイの生産開始とその安値攻勢は想定外だったので、この新情勢
下では本体の安全を計る為、残念だが撤退も已む無し、と永田も考える。

早速、ネシア・パイン社の村田社長宛てに指令が飛んだ。
村田は、当然だろうと受け止めた。

社長に就任すると同時に、この赤字垂れ流し会社は、藤和本体の命取りになり
かねないと直感した。
現地入りして目にする総てが、どれも難問題ばかりだったのである。

その事は既に社長宅に夜電話して、直接伝えた。

村田は、社長の媒酌で結婚して以来、役員連中を通さず、持ち前の図々しさで
社長に直接ものを言っているらしい。
社長も又、彼の率直な意見を黙って聞いている節がある。
社長からの極秘命令でも受けているのだろうか。

メダンからジャカルタへはガルーダ航空の国内便に乗る。

スチュワーデス達は良家のお譲さんが多いと聞くが、乗客への態度の横柄さには呆れた。
モデル嬢まがいに、ポーズなど取っちゃって、乗客を睥睨(へいげい)している。
そればかりではない。
物をテーブルに撒いて歩く、それも、全員ではなく、適当にパラパラと。
コーヒーや紅茶も数十人に対し、4,5個だけ作り、適当にばら撒く。
村田は幸い配られた口だが、見ると小さなパン一切れに緑色の生の鷹の爪だった。
とても、口にする気にはならず空腹を我慢した。
コーヒーや紅茶には縁がなかった。

ジャカルタ空港から、古い小型タクシーに乗ったが、その神風並みのスピードには
ヒヤヒヤさせられた。壊れた吸殻入れからは蚊が飛び出すし。
ネシアではマラリヤ蚊に刺されぬ様、くれぐれも注意が必要である。

取引銀行のジャカルタ支店を訪れた。
相談の結果、現地人の顧問弁護士を紹介された。
弁護士に同行を願い、投資調整庁(BKPM)を訪問、撤退したい旨申し入れた。

ところが、回答は「NO]だった。

BKPMの言うには、当該合弁事業はインドネシア政府も特に注目しており、
中止する事はできない。
かねて懸案のジャワ島人口集中の緩和策としてスマトラ島などの他島に産業を
興す政策を採っており、その観点からインドネシア・パイナップル社は模範的な
モデル事業として期待されているからだと言う。
相手はお役所だけに、こうなると、交渉の余地は全くない。
どこの国でも同じだろう。

村田は、本社に結果を報告した。
本社の役員連中の慌てる様子が目に浮かぶ。
藤堂社長も頭を痛めているだろう。
村田は、社長宅へ電話を入れようと思っている。
自分なりに、或る考えがあった。


                     続