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南 総太郎
南 総太郎
novelistID. 32770
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『偽りの南十字星』 17

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『偽りの南十字星』 17

缶詰製造設備も所詮機械故に、定期的にオーバーホールが必要である。
況(ま)して、中古の設備ゆえ、尚更調子の悪くなることが多い。

工場が休む日曜日を利用して、作業を開始する。
汚れを取り除き、各部品を油で拭き、組み立て直して再度稼動出来るまで、
数日は掛かるので、その間は工場は休業となる。

担当のシンガポール人、崔(さい)が現地スタッフ数人を使っての作業である。

愈々再組み立てが始ったが、妙な事に必要部品が一個見当らない。
何遍チェックしても、矢張り何処にも無い。

崔は「しまった」と思った。
夜警まで立てて用心していた筈なのに、やられたのだ。

泥棒である。

外部から入って来るのではなく、内部の者が持ち出し、町で金に換えるのである。
どんな小さな物でも、金属であれば買い取って呉れるらしい。
言葉は悪いが、泥棒を飼っているに等しいのが、当時のこの国の、否この会社の
実情であった。

崔は頭を抱えた。
いつまでも、工場を止める訳には行かない。

さりとて、どこの店に売り飛ばしたかも判らぬのに、闇雲に捜し歩く訳にも行かず、矢張り
シンガポールまで買いに行かねばなるまいと覚悟した。

小さな部品一個の為に時間と経費を掛けねばならない。
しかし、こうした不便な場所だからこそ、安価に生産出来ると考えるべきなのか。

何不自由ないシンガポールに育った崔はそう思うのだった。

                                     続