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てっしゅう
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「新・シルバーからの恋」 最終章 夢の始まり

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順次が選んだ車はボルボのエステートワゴンだった。人気車種ではあったが希望の色が直ぐに納車出来ると聞かされ、その場で契約した。暦が9月に入って納車された車に荷物を積み、まずは副島の家に迎えに行き、そこに来ていた昭子も乗せて出発した。

「平川、いい車だなあ・・・匂いが新車だし。奥さん頑張りましたね」
「私は何も・・・夫が勝手に決めましたから」
「お前もいい車乗っているじゃないか・・・」
「レクサスか・・・あれは銀行に返さないといけないんだ。社用車だからな」
「そうだったのか・・・いい身分だったんだなあ、お前は」
「知らなかったのか?」
「ああ、聞いてはいなかったよ。自分で買ったんだと思っていたから」
「言えばよかったな」
「別に・・・俺が乗れるわけでもないし」

ひがみに取れるように思われるのが嫌だったから、順次はあえて行則がレクサスに変えたときに聞かなかったのだ。つまらない事で人は差別を感じてしまう。妬んだら自分が惨めになるから、余計な事は聞かない、知らない、係わらないで歩いてきた。

5人が向かった先は伊勢。美雪は開店する店の繁盛祈願と行則や家族の健康祈願を兼ねて伊勢神宮に参拝したかった。悦子も自分たちもそうしたいと二つ返事で行き先は決まった。大阪から西名阪、名阪国道、伊勢自動車道と乗り継いで昼前には着いた。

外宮を参拝しお腹が空いたところで、伊勢市内の旅館「星出館」で昼を食べた。有機栽培で作られた野菜を中心にしたマクロビティ理念にもとづいて提供されたメニューが評判の食事だ。実は美雪は昭子にここのメニューを研究してもらいたかった。自分のアイディアとしてランチメニューに取り入れようと考えていたからだ。

「昭子さん、いかがでした?お食事は」
「ええ、とても美味しかったですね。マクロビティって身体に良いっていう事なんですよね?」
「そうよ、今度の店ではこの考え方を取り入れてランチを提供したいの・・・出来るかしら?」
「考えてみるわ・・・素敵な考えね。きっと評判になるわよ」

副島は最近の美雪がメニュー作りや店舗経営について熱心であることに感心していた。女っぽいだけじゃなかったんだと、そちらの才能にも恵まれていたことを嬉しく思っていた。ひょっとして言い方が悪いが水商売に向いている人なんじゃないのかと、発見したことを頼もしく感じた。

内宮も参拝して、おかげ横丁でみやげ物を買い、宿がある二見に向かった。伊勢湾を見ながら大きな露天風呂に浸かり女三人は昔話に話題が変っていた。

「昭子さんは初恋はいつ?」
美雪はじっと見ながら聞いた。
「父の転勤があって大阪の高校に転校したの。その時にクラスの子で仲良くしてくれた人がそうだったかもしれないね」
「知れない?好きになったんじゃないの?」
「その子は私が寂しくしてたから、同情してくれたんじゃないかなあ・・・好きな子は他にいたから」
「そう・・・同情ね・・・罪な感情よね、勘違いさせる」
「あら、美雪何やら意味ありげな言い方ね?」悦子は笑いながら言った。
「別に、そう感じたから言っただけよ。お姉さんはどうだったの?」

悦子はちょっと間を置いて・・・
「好きだった人はいたわよ」

昭子は悦子に、どんな人だったの?と尋ねた。
「う〜ん・・・言ってしまおうかな・・・」美雪の顔をチラッと見て、目で聞く様なそぶりをした。

「昭子さん、驚かないでね。悦子さんが好きだったのは・・・徹さんだったのよ。同級生の同じクラスの、ね?」
「同窓会を楽しみにしていたのは、そういうことがあったからなのね・・・昔のことだから気にしないけど、お付き合いされたの?悦子さんは」
「ええ、高校に入ってからね。卒業するまで・・・」
「そうでしたの・・・私はてっきり美雪さんとお付き合いされていたのだと思っていましたのよ」

これには悦子も美雪もちょっと驚かされた。

「なぜ、私だと思われたのですか?」
「最近お会いになったでしょう?相談事みたいなことで・・・仲が良かったんだって思えたから。部活の先輩後輩って言うだけじゃないって思わせられたのよ」
「徹さんが、話したの?そんな意味のことを」
「話す訳ないわ妻の私にそんな事・・・あの人会社退職させられたでしょ・・・ショックだったのか夜ふらっと出かけて行った事があったの。何も言わなかったから心配になって電話したんだけど・・・携帯電源が切れていて・・・駅の方まで歩いていったら徹さんの車が公園の角に止まっていて・・・乗っていなかったからどこかにいったんだろうってその時は帰ったけど、夜になって電話がかかってきて、今から帰るって・・・近くに居たんだとそんな気がしたの」
「いつ頃の話か覚えてらっしゃるの?」美雪はもうまともに顔を見て言えなかった。

「ええ、同窓会の少し前だったと思うわ」

それは、美雪の家に来たときだったかも知れない。鮮やかにあの日の記憶が甦ってきた。
「昭子さん・・・会っていた相手が美雪さんだと思っているのね?」悦子は場合によっては、はっきりと話そうと決めていた。
「ええ、お近くに住まわれていると知って確信しましたの」
「もしそうだとしたら・・・どうされるの?」
「どうもしないわよ。済んだ事だし、徹さんは居ないから」
「仮にも奥様が居るのに他の女性と会っていたなんて許されることじゃないって思えるけど・・・」
「悦子さん、あなたご主人が誰か女性と会っていることが解ったら、どう思われます?」
「えっ?・・・主人が・・・知らなかったことにするわ、多分」
「そうでしょ?ご一緒ですわ」

「徹さんは私には優しかったの。結婚するときも自分の不遇だったことに負けないで、頑張って幸せにするって言ってくれたしね。ずっと信じてきたのよ今まで・・・娘に孫が出来てちょっと気持ちがそちらに行っていたからあの人寂しく感じていたのかも知れないって、今は反省しているの」
「昭子さんって・・・強い方なのね。私は主人が浮気ものだったから、いつも寂しかった。それに自分が好きで一緒になったわけじゃなかったから余計にそう感じられた。そんな時にねいつも先輩のこと思い出していたの・・・」美雪は言ってしまおうと話し始めた。

「浮気者のご主人って、剛司さんのこと?」
「ええ、そうよ」
「剛司さん私にはいい人に見えていたけど・・・そうだったの」
「友達としては良かったのかも知れないけど、夫婦としては相性が悪かったみたい」
「徹さんはあなたのことがきっと好きだったわよ」
「ここに居る悦子さんと付き合ったのよ。私は告白したけど・・・無視された」
「ずっと心の中に満たされなかった気持ちが残っていたのね、美雪さんは・・・」
「そうなのかも知れない・・・時々思い出しては、逢いたいって思ったから」
「徹さんはご両親亡くされて心のどこかに甘えてこれなかった自分が居たのよね。時にそれは人の優しさになって現れ、また別のときは嫉妬になって現れていたの。私には優しさになって現れていたように感じられるけど、美雪さんってひょっとして悪い面の方を御覧になったんじゃない?」

美雪は徹が優しくしてくれたのはそんな反面があったのだと知った。そして、怖かった徹も実はその裏返しだったことも。