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てっしゅう
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初体験 「思い出の夏」 第一話

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昭和43年四月井上雄介は高校に入学した。坊主頭だった中学校からやっとのことで髪が伸ばせることが嬉しかった。
学校に届けられた化粧品メーカーの試供品を貰って生まれて初めて整髪料をつけて登校した。クラスメートたちも同じようにしてきていた。

「雄介も塗ってきたんだな」
「おう、お前もそうなんだろう?」そう返事を返したのは前の席に座っている伊藤明徳(あきのり)だ。
「髪伸ばすんか?」
「いいや、このぐらいでいいんだ。ほら今流行っているアイビーにしたいんだよ」
「アメリカントラッド・・・ね?VANか?」
「そうだよ。かっこよくないかい?」
「地味だなあ・・・俺はJUNの方が好きだなあ」
「なら髪伸ばすんだろう?」
「怒られない程度にね。ビートルズヘアーにすると注意されるだろう?職員室で髪切られるって言うぜ」
「本当かよ!やりすぎじゃないのかい?」
「まあ、規則だから仕方ないよ。俺たちには関係ないけど」

この年、まだ若者はロングヘアーに憧れていた。グループサウンズやビートルズの根強い人気がそうさせていた。
雄介は早くからアイビーに憧れて高校に入ったら、夏休みにはバイトしてVANの服を買おうと思っていたのだ。

雄介は男子校に居た。中学の時に仲良くしていた同級生の女子たちも今は会わなくなっていた。
今年はメキシコオリンピックが開かれる年だった。前回の東京大会ではテレビに釘付けになっていた雄介だったから今回も体操男子と女子バレー、それにマラソンは期待していた。夏休みに入って学校で募集のあった郵便局の区分け作業アルバイトに申し込んで8月1日より大阪中央郵便局に毎日通った。朝9時15分から午後3時まで休憩45分の5時間勤務
で時給95円だった。一日475円で25日働いて11875円になった。休まずに通い続けて最終日に職員の人から、
「また冬休みに来いよ」と誘われた。
「ハイ、お願いします」と答えてさようならをした。

家に帰ると母親が、「バイト代は貯金しなさいよ」と言ってきた。
「買いたいものがあるんだよ。半分だけ使わせて」
「仕方ない子ね・・・弟たちにも何か買ってあげてね、お兄ちゃんなんだから」
「解ったよ・・・一緒に買い物に連れてゆくから」
「なら・・・いいよ。半分だけだよ」
「うん」

雄介には2歳下と4歳下の弟が居た。中学2年生と小学校6年生だ。
いつも一緒に遊んでいたが高校生になってからは弟たち二人だけで遊ぶようになっていた。母親は兄弟が仲良くするようにいつも話していたから、雄介がお金をたとえ自分のアルバイトで稼いだとしても、勝手に使うようなことはさせなかった。
父親は子育てに無関心でいつもお気に入りのジャズレコードばかり聴いていた。自慢のステレオが居間にドンと置いてあり、タバコを吸いながら聴くのが趣味だった。母親は父親の事に関しては何も言わなかった。家の事、子供の学校のこと、近所付き合いそして内職と常に忙しくしていた。それは雄介にとって身体を壊さないかと心配させるほど活動的だった。

雄介は夏休みにアルバイトで知り合った女の友達が居た。手紙のやり取りだけの付き合いだったが、お互いの写真を机の上の写真盾に入れて毎日眺めていた。彼女もそうしていると信じていた。

冬休みになってその彼女も同じように郵便局へアルバイトにやってきた。半年振りに会っていろんな話をした。3時に仕事が終わって帰るまでの少しの時間を地下街にあった喫茶店でお茶をして気持ちを確かめあっていた。名前は平野佳恵と言って神戸にある女学園
の1年生だった。丸顔で雄介にとっては可愛いと思える女子であった。初めて男女交際する二人にとってはまだ好きと言う感情はなかった。
郵便局が最も忙しくなる年賀状の区分け作業が本格化してきた。どんどん運ばれてくるハガキの山は区分けしても区分けしても減ることは無かった。当然約束の時間を超過して作業を頼まれ雄介は仕事をしていた。帰る時間がもう真っ暗になっていたこともよくあった。最終日の7日に佳恵を誘ってお茶に行った。

「いや~疲れたね。やっと終わったって感じがするよ。平野さんは疲れてない?」
「ううん、大丈夫」
「そう、良かった。また明日から会えなくなるね。手紙書くから、返事頂戴ね」
「ありがとう、必ずする」
「バイトのお金はどうしているの?全部お小遣いになるの?」
「一応はね。雄介さんは貯金しているの?」
「俺か・・・母親がうるさいんだよ。貯金しろとか、弟にも何か買ってやれだとかね」
「おかあさん心配しているんだわきっと。家は何も言わないけど貯金しているよ」
「ふ~ん、洋服とか買わないの?」
「あまり出かけないから、要らないの」
「休みの日は家に居るの?ずっと?」
「殆どね・・・雄介さんは?」
「そういえばこの頃は家に居ることが多いなあ・・・中学の時は釣りが好きで山にフナ釣りによく行っていたから、家には居なかったけどね」
「釣り?へえ~そうなんだ。私は何も趣味が無い。ねえ?私って暗いって感じる?」
「別に・・・どうして?」
「小学校とか中学の時にクラスの男子からそう言われていたの。今は女子高だからみんなと仲良く話せているけど、男子とは苦手だったから」
「俺とは普通に話せているよ。気にすんなよ。もっと笑顔になったほうが可愛いって思うけど、無理にそうする必要は無いよ」
「やっぱり・・・ね。笑顔・・・か。母にもそう言われる。女の子は愛嬌無いと可愛くないって」
「性格だから仕方ないよね。俺は気にしないから・・・だって・・・佳恵さんは可愛いもん」
「佳恵って呼んでくれたね・・・嬉しい・・・雄介さんのことが・・・」
「俺のことがなんだい?」
「雄介さんは私の事どう思っているの?」
「どうって・・・友達だよ。仲良くしたいって思っている」
「友達・・・」
「いけないのかい?」
「ううん・・・そうね、ずっと仲良くしたい」
「ああ、ずっと仲良くするよ」

春休みに梅田に出かけて会った佳恵は可愛い服装をして来た。この頃男子はアイビー、女子はミニスカートが流行していた。
今まで女として意識しなかった佳恵に今は性を感じる雄介であった。ちょっと恥ずかしくなる表情を浮かべながら、佳恵と一緒に歩いて地下街に行った。最初に入った喫茶店での話題は前年11月から始まっていたフジテレビの「夜のヒットスタジオ」だった。

「ヒットスタジオ見てるだろう?」
「ええ、見てるわよ。みんな見てて学校で話題になっているもの」
「佳恵さんはどれが好き?歌?ドラマ?相性診断?」
「相性診断よ。いしだあゆみさん森進一って言われて泣いちゃってたね、見てた雄介さんも」
「もちろんだよ。俺好きだからね、ブルーライトヨコハマは」
「そう・・・あゆみさんのファンなのね。スタイルいいものね」
「そうなんだよ!ミニスカートがとっても似合う・・・」
「男子はそうなんだね、そういうところばかり見ている気がする」
「違うよ!テレビだからそう感じるだけだよ」
「ほんとう?」
「ああ、いまは佳恵さんだけだよ、俺には」
「ウソ!可愛い子なら誰でもいいんでしょ?」
「何でそう思うの?」
「だって・・・好きって言ってくれないから・・・他にいるんだと思ってる」