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南 総太郎
南 総太郎
novelistID. 32770
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『偽りの南十字星』 9

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『偽りの南十字星』 9

陳英明はシャングリラホテルのロビーに設けられた広いラウンジに
腰を下ろした。
東京からの来客との待ち合わせで、銀行から廻って来た。

先刻聞いた藤和産業のパイ缶事業の話には大いに興味をそそられる。
パイナップルに詳しくはないが、偶々妻の兄からの製造設備一式の
売却先探しに頭を痛めていた矢先だけに、願ったり適ったりと言った
ところである。

陳の知識では、フィリピンやマレーシアはパイン栽培に歴史を持つだけに
後発企業が入り込むチャンスは少ないとみている。
タイはタピオカの栽培が盛んで、パインがあった処で、量的には余り望めまい。
残るは、インドネシアとなる。
既に相当量生産されているらしい。
勿論、生食用ではあるが。
となると、それをより高値で買い取るか、さもなくば自家栽培をするか。

兎も角、缶詰工場を造るだけでも、土地の手当てから始めねばならず、
ましてや農園開発までもとなると、莫大な資金準備が必要となるだろう。
いずれにせよ、藤和がどれほどの腰の入れ様か、に掛かって来よう。

「やあ、陳さん、お待たせしました」
明るい声が近づいて来た。

「シャワーを浴びてました。長旅だったもので、スッキリしました」
陳は腰を上げ、巨漢の紳士を迎えた。

「桂木さん、お久し振りです。その節は大変お世話になりました」
「いやいや、お世話になったのは、私共ですよ。あの契約のお蔭で会社も
復配出来ましてね、会長も社長も陳さんのお蔭だと感謝しております。
呉れ呉れも宜しくとの事でした」

桂木は、日本の重工業界を背負う巨大企業の専務取締役である。
今回の出張は言わばお忍びで、陳とのゴルフが主たる目的である。
尤も、帰途台湾に寄る用事もあるとは言っているが。

時折、こうした客が多忙な陳を訪ねて来る。
いずれも日本を代表する程の超一流企業の重役連中ばかりである。

当然ではあるが、陳は決して嫌な素振りを見せない。
華僑特有の最高の接待を以って相手を遇する故、益々好感を持たれる。
それが、次の商売に寄与すると言う仕組みである。

しかし、最初からこうだった訳ではない。

地元の貿易商社で働き始めてからと言うもの、どれ程努力したか。
16歳だった英明は商売の仕方、商品の知識、貿易の知識、加えて英語、
タイ語、マレー語(インドネシア語)の習得に一方ならぬ努力をした。
それらが実を結んでKL(クアラルンプール)の支店長にもなれた。
後に運命的な出会いがあって、一匹狼のフィクサーとしての道を歩む
事になったのだが。

その出会いの相手とは後に某国の首相となった人物である。

                                   
                                    続