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夏風吹いて秋風の晴れ

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弓子ちゃんがやってきた


1階に階段を降りて、玄関に二人で迎えに向かうと、叔父さん叔母さん、弓子ちゃんそれから、この前会った、施設の星野さんと、横には初めて見る20代後半のすらっとした男の人が立っていた。
あわてて、俺たちが頭を下げると、名前を言いながらきちんと頭を下げられていた。
でも、変わった名前のようで、わからなくって、思わず失礼かもしれなかったけど、
「エトウさんですか?」
って、その男の人に聞き返すと、ちょっと笑顔を見せながら、
「ゼドウです。はじめまして・・変わった名前なので・・」
って言われていた。
頭の中では、どんな漢字なんだろうってだった。横では、直美が星野さんと挨拶を交わしているようだった。
「あのう、どんな漢字かくんですか?」
こんなところで、変な質問だったけど、思わず口から出ていた。
「是非もないの 是と、洞穴の 洞です」
「へぇー それで、ゼドウさんですか・・・」
「はぃ」
ものすごーく、何回も説明したことあるんだろうなぁー って聞きながら思っていた。初対面の人には毎回なのかなぁーだった。
すると、それを、横で聞いていた星野さんが、
「えっと、恥ずかしいんだけど、秋に結婚するんです」
っていきなりだった。
直美も、俺も、それを聞いてあわてて、
「おめでとうございます」
って、頭を下げていた。似合いのカップルって感想だった。すると、弓子ちゃんが、
「トラック運転してもらったので、是洞さんに・・こんにちは、直美さん、劉さん」
って俺たちに説明をしてくれていた。トラックはレンタカーのようだった。
「こんにちわ、弓子ちゃん」
「こんにちは」
直美が、弓子ちゃんに、笑顔で挨拶を返していた。俺も横でいっしょに直美と声を出していた。
明るそうな弓子ちゃんの顔がとっても印象的だった。

それから引越しの荷物の運び込みが始まって、直美と弓子ちゃんと星野さんは、2階の弓子ちゃんの部屋にあがって、俺と是洞さんと、はりきっている叔父さんでトラックら荷物を2階に運んでいた。ほとんどがダンボールの箱につめられた荷物で、家具のようなものは無くて、細かい身の周りのものだけって感じだった。それでも、けっこうな量って感じだった。
「ねぇ、劉、あとどれくらい?」
2階でダンボールを運びこんで何回目かに直美に聞かれていた。
「たぶん あと4個ぐらいじゃないかなぁー もう 終っちゃうよ」
「そっか、じゃぁー 大丈夫かな。その辺に全部置けるよね?」
「うん。平気」
思ったよりはけっこうな量だったから、部屋にはダンボールがいっぱいになっていた。
もちろん、弓子ちゃんも、直美も、星野さんも、順番に箱をあけて整理してたけど、荷物の運びのほうがペースが圧倒的に速かった。
「じゃぁー もう少し頑張ってね、劉」
「はいよー」
部屋の入り口で、叔父とすれ違いながら直美に答えていた。
下に降りると、是洞さんが、
「これで終わりです」
って、箱を指差していた。残りは箱が2個と、さっきから気になっていた、銀色の自転車だった。
「自転車はここに 置いていいと思いますよ、車は叔父の1台だけだから・・このへんで・・」
言いながら、その自転車を持って移動させていた。古そうな自転車だったけど、きちんと手入れされている自転車のようだった。
「じゃぁー これ軽いから、2個持っていきますから・・」
箱を2個、すくっと持った是洞さんが、玄関をくぐって家の中に軽い足取りだった。
俺たちの自転車もあったから、玄関に3台の自転車が並んでいた。
「どないだぁー 終わりましたんかぁー」
10m先から、ステファンさんの大きな声が響いていた。
「終りましたぁー ステファンさん、見てて、終った頃に来たんでしょ?」
「なにゆうてますのー 仕事してたんですがなぁー あんさん、言い方気をつけたほうがええでぇー」
こっちに巨漢を揺らしながら、もっと大きな声でだった。
でも、絶対、教会の2階から見てたに違いないって俺は思っていた。こんな行事を、のんびり構えているような性格の人ではなかったし、たぶん自分の部屋から何度もこっちを見ていたに違いなかった。そんな、おっちゃんのはずだった。
「ごくろうさんやな、あんさんも・・」
玄関にやってきて、横に立って、のんきな顔のステファンさんに言われていた。
「でも、あっというまでした」
「そやなぁー 大きな家具とかありませんでしたしなぁー 引越しゆうても、箱ばっかりでしたなぁー」
どう考えても、はっきり見ていたようだった。でも、許されるキャラだからなぁー この変なおっちゃんは・・だった。
「そうですねー 2階の窓から見てのとおりですよ」
大笑いしながら、答えていた。
「見てませんって、ゆうとりますやろ」
「わかってますって・・」
玄関先で、大笑いしながらの俺たちだった。
腕時計を見ると、12時ちょうどになっていた。暑い暑い空が広がっていた。

作品名:夏風吹いて秋風の晴れ 作家名:森脇劉生