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家に憑くもの

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どのくらい寝ただろうか。翔太は何かの気配を感じて目を覚ました。
目を横に転じると、ベッドのすぐ脇に佳織が立っていた。
「わっ!」
驚いた翔太が半身を起こす。
「何やってんだよ、俺の部屋で。人の部屋に入るときは、声ぐらい掛けろよ。」
俯いて翔太を見降ろしている佳織の右手には、翔太の素振り用の金属バットが握られていた。それを見た翔太は気が付いた。
 ―― あの、金属と木がこすれるような音は、ねええちゃんが金属バットを床に引きずって歩く音だったのか・・・
佳織は無言のまま、ゆっくりと金属バットを振りかぶった。翔太はこれから何が起こるのか理解できずに、大きく目を見開いて佳織を見つめる。
佳織が翔太の頭に金属バットを振り下ろす瞬間、翔太は反射的に跳ね起きてベッドから転がり落ちた。
金属バットが翔太の枕に激しく叩きつけられる。鈍い音とともに、翔太の枕が叩きつけられた金属バットを中心に、二つに折れ曲がる。
「うそだろっ!」
翔太はそのまま転がるように部屋のドアまで動いた。そしてドアに掴まって立ち上がると、佳織を見た。
「いきなり何すんだよっ!頭おかしいだろっ!」
興奮して大声を出す。佳織はベッド脇に立ったまま、ゆっくりと振り向く。ゆっくりと、頭だけを後ろに向けて行く。翔太はその場に凍りついたように、その光景に見入った。
体は向こうを向いたまま首だけをこちらに回し、佳織の顔が翔太の正面を向く。その佳織の無表情の顔が、細かく震える。翔太が見つめる前で、佳織の顔全体が細かく振動しながら、口が開いて行く。顔全体に赤い血の染みが広がって行くように、口だけが大きく開いて行く。
「わわっ、わぇひるちぇぃ」
翔太は声にならない叫び声を上げながら、身を翻して階段に向かった。
 ―― やべっ、あいつだ、先週俺に化けてたっていうあいつだ。
翔太は階段を駆け下りる。階段は途中に小さな踊り場があり、そこから直角に右に曲がっている。翔太は、その踊り場で足を縺れさせた。
「わっ!」
翔太は飛び込み前転の要領で、踊り場から階段に向かってダイビングした。そのまま、3回転して階段下の廊下に叩きつけられる。目の前が暗くなり、背中を強打して呼吸が止まる。頭を振って意識を取り戻し、むりやり息を吸っては吐く。立ち上がろうとした翔太は、すぐに床に転がった。右膝にまったく力が入らなかった。
 ―― くそっ、膝がいっちまった・・・
なんとか片足で這って進もうとしたとき、翔太の耳に奇妙な音が響いた。
コン
コン
コン
翔太は、ゆっくりとだが、リズミカルなその音の正体を突き止めようと、階段を見上げた。踊り場のカーブから、顔中を真っ赤な口にした佳織に化けたものの姿が現れた。手摺に隠れて胸から上しか見えない。
しかし、翔太にはその音の正体がはっきりと分かった。佳織に化けたものが引きずる金属バットが、階段の段差を落ちて一段下の階段に当たる音だった。佳織に化けたものが、金属バットを引きずりながら、一段一段ゆっくりと階段を下りて来る。
コン
コン
コン
「ひえっ」
翔太は小さくマンガのような叫び声を上げると、玄関に向かって必死に這い進んだ。這いながら進む翔太の目の前の床に、紺色のソックスを履いた足が立ち塞がった。翔太が足に沿って見上げると、金属バットを振りかぶった佳織に化けたものがいた。
作品名:家に憑くもの 作家名:sirius2014