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家に憑くもの

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女は急いで庭の反対側に移動し、家の北側を覗き込んだ。
「大丈夫だよ、そっちには何もないから。」
男の声に女が応える。
「祠があるわ。」
その声には心配そうな気配が滲んでいた。
家の北側には、真っ赤に塗った1メートルほどの鳥居と、同じ色の50センチほどの高さの小さな祠があった。その祠は、落ちて来た瓦が当たったようで、屋根の端が破損していた。
解体業者の現場監督らしい初老の作業服姿の男が走って来た。
「どうもすみません、操縦ミスで-」
男が息を切らせながらヘルメットに片手を掛けて謝るのを女が遮る。
「気を付けてよ。それにこの祠、なんで養生してないの。」
女の声には、裕福な家庭で育った者独特の高慢な気配が感じられた。
「本当にすみません、これからします。」
初老の現場監督は平謝りだった。ゆっくりと近づいてきた男が現場監督に助け舟を出した。
「だからこんな古い祠、この機会に壊せばって言ったんだよ。」
男の言葉には、女への軽い反感が込められていた。
「だめよ。この祠は何代も前からある祠で、代々家の守り神になってるんだから。」
「迷信深いんだな、古い家系の人間ってのは。」
「あなたにはわからないの。」
女が決めつけるように言う。男は処置なしと言った風に背を向けると言った。
「わかったよ、そろそろ帰ろう。」
女は現場監督に念押しすると、気が済んだように歩き出した。
「あなたは明日、福岡に戻るのよね。」
「ああ、おまえ達は家が建つまでしばらくアパート暮らしだけど、俺は当分2DKのマンションで一人暮らしだからな。」
「一人だからって、変な気起こさないでよ。そのうち、見張りに行くわよ。」
女に生返事をすると、男の関心は、部下からのメールに向かっていた。男は、返信の文章を頭の中で考え始めていた。

作品名:家に憑くもの 作家名:sirius2014