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上田トモヨシ
上田トモヨシ
novelistID. 18525
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短文(別)

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「ごめんなァ」

言って、今にも泣きだしそうな顔で笑ったあいつの顔を、俺はきっと一生忘れることができないんだろうなと、他人事のように思った。

出会った時から変な奴だった。
不思議なイントネーションの言葉づかいで、息を吸うより、意味も目的も不明なことを喋っている方が多かった。
三度の飯より甘い物が好きで、中でも近所の菊乃屋という和菓子屋の大福餅が大好物だった。
いい加減でズボラで、俺が片付けたそばから散らかして回るような、どうしようもない奴だった。
そのくせ、いろんな人に好かれて必要とされて、一歩外へ出れば、あいつを知らない奴はいなかった。
綺麗なものと猫を愛していると言って憚らず、それならどうして俺を拾ったんだと問えば、「先行投資ってヤツや」と言ってはぐらかす。
俺が危ないことをすると烈火のごとく怒るくせに、自分のこととなると階段を転げ落ちようが詐欺に遭おうが構いやしない。
俺の作る飯は、何でも文句を言わず残さず食べる。
ミミズがのたくったような字を書くから、あいつが書いた文字を解読できるのは、この世界で俺だけだ。
寒い日は、愛猫の小夏と俺を自分の寝床に引きずり込んで、「冷え症やさかい」と抱きしめて眠る。
放っておくと、二日や三日は平気で飯も食わないから、死人のように顔色が悪くて、一重のくせに睫毛が長い。
俺の頭を猫にするように撫でるのが好きで、俺の名前をまるで宝物のように呼んだ。
どうしようもない奴だったけど、どうしようもなく好きだった。
だから、最後に俺の頭を撫でた手が落ちる前に受け止めて、必死で名前を呼んだ。
叫んだ。
そうするとあいつは、死人のように青白い顔で、俺が大好きな声で俺の名前をぽつりと、呼んだ。

「ごめんなァ」

言って、今にも泣きだしそうな顔で笑ったあいつの顔を、俺はきっと一生忘れることができない。









(瞼の裏のストロボ)
作品名:短文(別) 作家名:上田トモヨシ