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アキオロボット

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是枝博士はぼくの身体を点検し不具合がないか見極めている。ぼくは時々くすぐったくなって笑う。「ごめんなさい。我慢できなくて」ぼくが言う。そうすると博士も静かに笑って説明してくれる。
「アキオはロボットだから本当はくすぐったくないんだ。でも人間らしくなるようにある部分をさわると“笑う”それも“身をよじって笑う”というようにプログラミングしたのだよ。だから我慢しなくていいんだ」
ぼくはほっとする。是枝博士はとても優しい人だ。


是枝博士はほんとはとても偉い科学研究所の博士だったのだけど、周囲の人と上手く行かなくて病気になり仕事を辞めてしまった。年齢は38歳。でもずっと若く見える。「いつまでも子供みたいな気分でいるからなんだよ」是枝博士はぼくに話してくれた。「だから他の人がみんな醜く見えてつき合うのがイヤになってしまうんだ。私は本当はアキオと同じくらいなんだと思う」そうは言っても是枝博士はぼくよりずっとずっと大きい。他の大人の男の人と比べても大きいくらいなんだから。なので手も大きいし指も長い。ぼくは博士の手にいつも見惚れる。いつも綺麗に洗ってあり、爪は短く切られている。「こうしていないと、アキオを触っている時、大事なアキオを傷つけてしまうといけないからね」そう言って是枝博士はぼくの瞼の内側を見たり口を開けさせて舌の様子を見たりする。「アキオはどこを見てもキレイだ。柔らかくてピンク色で何も汚れていないね。もちろんそう見えるように私が心がけて作ったのだけどね」博士は満足そうに微笑む。そう。ぼくは是枝博士が仕事を辞めてから作った博士だけのためのロボットなんだ。


ぼくは身長152センチ、体重39キロ。12歳、小学6年生のイメージなのだ。是枝博士はこのくらいの男の子が一番好きなのらしい。「変声期前の男の子くらい美しいものはないんだよ」是枝博士はいつもそう言う。そしてぼくは彼だけの研究室の椅子に座る。

部屋には大きな窓があり、淡いグリーンのカーテンがきっちりとまとめられている。窓からは是枝博士の庭の木立や植えられている花が見える。それぞれの季節の花をここから見ることができるのだ、と博士は得意げに話してくれる。ぼくがロボットとして目覚めた時、最初に見たのがこの窓の景色だった。春の柔らかな日差しと木漏れ日。名前は知らないけど、色とりどりの花のいい香りが漂ってくる。是枝博士の家は早くに亡くなった両親から受け継いだものでとても古い洋館だったのを是枝博士が改装し、さらに自分でも手を入れて最高の状態にしたのだそうだ。「この家ほど居心地のいい場所はないよ。アキオもきっと気に入ると思う」その通りだ。ぼくはこの家の庭で犬と遊んだり、博士の手伝いをしながら過ごすのがなにより楽しいのだ。
是枝博士の手伝いというのはそんなに難しいことではない。博士はロボットとして生まれたばかりのぼくの様子を観察し、時には写真を撮り、ビデオをまわす。それに適した動きをする為にぼくは是枝博士の言う通りに動いたり、止まったり、そして身体の調子を見てもらうだけだ。
「これまでにも何体もロボットを作ったけどなかなか上手く行かなかった。私の才能不足でね」博士は少し寂しげになる。「私は外見も気になる質だからね。無論性能が悪くては話にならない。すべてに完璧を求めたいのだ」博士は唇を強く結んだ。ぼくはちょっと不安になる。
「ではぼくは・・・」ここで息をついでしまった。「・・・ぼくはどうなのでしょうか」やや悲しそうにあまりずうずうしくてはいけない。これは博士のプログラミングだ。彼はおとなしくて従順な男の子を求めている。でもあまり極端であってもいけなくて。
博士はぼくの髪を優しく撫でる。彼はぼくの癖のない少し色の薄い髪が気に入っている。「アキオは最高の出来だ。これ以上のものはないよ」ぼくはうれしくなってまた笑ってしまう。
「かわいいね。アキオの笑い方は完璧だ。口角の上げ方も白い歯が少し見えるところも喉の痙攣のさせ方も。もどこをとっても私の理想だよ」博士の好みは細か胃所にまでおよんでいる。
ぼくの外見は彼の一番好きな形なのだと言われた。細い眉やあまり大きくない切れ長の目の濁りのない白い部分、丸みのある鼻、やや大きすぎるような口と尖り気味の顎。「アキオがもし成長するのだったら背が高くなるだろうな、と思うような腕や脚のバランスがいいんだ」だけど大きくはならないぼくの腕や脚は細長くて人形のように見えるらしい。「大人の男は不格好で嫌だ。筋肉も髭もない方がいいのにね」そう言ってぼくの頬や細い二の腕を優しく撫でる。ぼくの身体で博士の指が触っていないところはないはずだ。
「こっちへおいで」5月のある晴れた日、是枝博士は庭の木陰にあるベンチにぼくを呼ぶ。「髪が長くなって女の子みたいだね」博士の声がどこかいつもとは違うのに気づく。ぼくを座らせ、片足を椅子の上に置いて両腕で身体を支えるよう形を作る。博士の目がぼくを見つめ続ける。息が早くなり時々唾を飲み込む音が聞こえる。
ぼくのシャツのボタンを外す指が震えている。
「あの・・・博士」
「な、なんだい?」声が上ずっている。
「ここは・・・あの・・・部屋に入ってはいけませんか」
突然博士が笑い出す。
「どうしたの?アキオがそんなことを言うのはおかしいことだぞ」
博士は立ち上がり、今まで聞いたこともない大きな声を出した。
「アキオはそんなことは言わない。これじゃ上手く行かないじゃないか!」
博士の大きな身体がいつもより大きくなったようだ。自分の髪をくしゃくしゃとかき混ぜなにか小さな声を口の中でつぶやいている。
ぼくは俯いた。
「ごめんなさい・・・あの、誰か来たら恥ずかしくて。恥ずかしい、っていうんですよね、こういう場合は」
少し間を置いて博士はまた笑い出す。でも今度の笑い方はさっきとは違っている。
「私の方こそ、悪かった。そう。恥ずかしい、という気持ちを覚えたんだね。それはとても大切なことだ。人間にとって大切な感情だよ」

是枝博士は優しくぼくの頬を擦った。

「大丈夫だよ。この庭には誰も来れない。高い塀を見ただろう。あれで庭を全部囲っているよ。大きな鍵をいくつもつけている。大丈夫だよ。古い館ではあるけれど、誰か侵入すればすぐ判るようにセンサーを巡らせているのだからね」

ぼくは博士を受け入れる。
受け入れる、というのは博士からの愛情を受け取るということでなにも怖いことではない、と言われた。
一番初めはまだぼくの受け入れ部分が狭くて博士もとても工夫したのだそうだ。ぼくは途中で意識を失ってしまったらしい。キオクカイロが壊れたのだ。
それから何度か、博士はぼくの受け入れ部分を調節して博士の愛情を受け入れた。
終わった後、是枝博士はいつも以上に優しくぼくを撫でてくれた。
ぼくはシアワセだ。

是枝博士はぼくの髪を撫でながら独り言を言うようにささやく。
「ねえ、アキオ。ロボットには三原則っていうのがあるんだ」博士はゆっくりと話し出した。「第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また人間が危害を受けるのを何も手を下さずに黙視していてはならない。
作品名:アキオロボット 作家名:がお