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はぎたにはぎや
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柊生さんとぼく

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たぶん僕が学校で奇異な評価をされている一番の理由は、外国から来たことでも外国との混血だからでもないだろう。
もし僕が他人でも、きっと僕を奇異な目でみる。
……学校にこんな派手な車で乗りつけて登下校をしたら、ついでにあんな馬鹿みたいにでっかい家に住んでいたら。
「……あのさ、ディート、これ、この車……ずっと思ってたけど、もうちょっとどうにかならないのかな」
「残念ですが、どうにもなりませんねぇ」
神津家所有の車ですからぁ、とわざとらしく強調するところがいかにも嫌がらせっぽい。
黒いメルセデスベンツの高級なシートに体をうずめ、通り過ぎていく通学路を横目に、バックミラーに写る運転手の顔を一瞥した。
たぶん、あの女の子達にこいつを合わせたら間違いなく僕なんか霞んで見えるだろう。
一目でわかる西洋人的な役者顔に、昼間はありえない色の瞳を隠すように細身の青いサングラスをかけて、人ごみの中で「目立つ」を超えて「浮く」銀髪を隠しもしないこの男。
「どうにかなさりたいんなら、坊ちゃんご自分で購入されたらどうです。どーせ使い道のないお小遣いもらってるんですし。あ、俺スポーツカーが運転してみたいですねぇ、フェラーリとか。屋根が開閉するとなおグッドですよ」
「誰がお前のために買うか。ていうか、スポーツカーなんて悪化してるじゃないか」
ふざけた提案を一蹴しても、奴は楽しそうにニヤニヤしている。まったく何考えてるんだ。いやきっと何も考えてない。こいつが何も考えてないから、父が悩みもせず選んで僕の下に寄越したのだ。
数多い父直属の配下の一人、ディートリッヒ・ハイネ・ベルヴァルド。
見た目二十代前後のジーパンの似合う好青年だが、実年はちょっと、というかかなり口にしにくい。実際年齢を尋ねられると爽やかな―――いや、胡散臭い―――笑顔で二十五歳です、とよくものすごい年齢詐称をしている。それから、中途半端な僕と違ってどこからどうみても立派な外国人。数年前にわけあって日本での両親代理を失った僕がわざわざ父を尋ねて借り受けた秘書だ。なにかと問題のある両親の代理としてあれこれ世話をしてくれるが、念のため言っておくと、僕は一度としてこいつを保護者だと思ったことはない。
大事なことなのでもう一度言っておこう。
僕は一度としてこいつを保護者だと思ったことはない。
「そういえば坊ちゃん、今日はなんかいつにもまして疲れた顔してますね」
「ん…そうかな?」
「ですよですよ、なんかあったんですか?」
「いや、特には……あー…強いていうなら、クラスの女の子に変なことを言ってしまったから、かな…」
「坊ちゃん…そいつァ男として許せない行為ですよ…女の子にエロいこと言っちゃうなんざ、いくら坊ちゃんが思春期真っ盛りでムラムラしてる中学生だからといっても」
「そ、そういう変なことじゃない!」
「なんですか大きな声出して…隠さなくっていいんですよ、坊ちゃんだって男の子ですもんね。あの父にしてこの子ありってやつですか。可愛い女の子を見つけたら、なりふりかまわずその綺麗な顔を武器に片っ端からその場で即手篭めに」
「やめろ!お前の頭はほんとに万年常春だなっ!」
車なのに思わず身を乗り出して怒鳴っていた。
これだから嫌なのだ。こんなやつを保護者と認めるくらいなら、僕はいっそ母親の腹に帰りたい。
怒鳴られたディートは悪びれるでもなく悪戯っぽく肩をすくめた。反省もしないのだから余計にたちが悪い。
「まだ日も高いのに、僕は変な事件が多いから気をつけて帰れって言ったんだよ。そしたらすごく迷惑そうな顔されたっ、それだけだっ!」
「おや、せっかく坊ちゃんが声をかけてくださったのに、迷惑そうな顔をする女がこの国にいたとは」
「なんだその言い方……」
「驚いただけです。ま、それはそれとしても、別に坊ちゃんは変なこと言ってないと思いますけど」
「なんで…」
「俺が犯人なら真昼間だろうが真夜中だろうが気にせずのど笛食いちぎって血潮を一滴残らず飲み干すからです」
珍しく真面目な物言いだったので、僕は不意に不安になる。
「……まさかお前犯人じゃないよな?」
そういえば被害者はうら若い女子生徒ばかりだし。
しかし僕の不安は大きく外れた。ディートはハンドルを握ったままげらげらと笑う。
「まっさかぁ!俺のやり方じゃないでしょう、バラバラのギッタギタにして体の一部持ち去るなんて品のないこと!やるなら血液だけいただいて、体は美しいまま残しておくのが俺の美学です」
「自分で言うな自分で…」
まぁ、比較になる内容はあれだが、ディートの言うことはおおむね正しいだろう。確かにこいつは用もないのにバラバラになんてしない。
それでは―――いったい誰が、何のために。
バックミラーの中の瞳が、ちらりとこちらを見た。
どこか挑むような、僕を試すような視線。
「坊ちゃんはどうお考えですか?」
「……少なくとも人間の犯行だと信じたいね」
切実に。
……人間の仕業だと思いたかった。
でないと、いろいろと、始末が悪いから。


作品名:柊生さんとぼく 作家名:はぎたにはぎや