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海上水泳、のちに潜水

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私は魚の背に乗っていた。見上げれば青一色の空があったが、あちこちに魚の白い腹が見えた。光を受けてきらめく鱗が、とてもきれいだった。

 夢の中で私は、ただ魚の上に乗り上げていた。どこに行こうとか、どうしたいとかそういったものはなかった。私の乗っていた魚はへらべったい魚だった。鱗一枚一枚が大きくて、光にかざせばきっと青い光を乱射するはずだ。

 まぶたのない大きな目が、どこを見るわけでもなくついていた。私は目に足が触ってしまわないかと心配になった。目線を魚の腹のほうにやると、私の足を十分に伸ばしても届くはずがないところに大きな目があって、私はほっとした。伸ばしてみた足を、元のやや曲げた状態に戻した。

 魚は前に進んでいた。怠慢な動きで尾びれをゆらしている。ほとんど揺れを感じないくらいで、私は眠ってしまうかもしれないと思った。

 ふと目にやった地上は、案外近くで遠くにあった。木々は普通に生えていて、ここが水の中でないことは確かだった。水色の屋根の白い家を見て、おもちゃのようだと目を細めた。ぼんやりとすぎていく風景を見つめていたら、海が見えてきた。そこでようやく上空の魚たちが皆同じ方向に向かって空を泳いでいたことを知った。海のにおいでかぎつけた魚たちは、先ほどと変わらない動きで、速さを増した。

 ぐんぐん近づいてくる深い色をした青に、私は何の感慨もなく見つめていた。遠くに地平線が見えて、ここが地上の果てなのだと分かった。このまま海にもぐったら、海の世界があるのだろうと思った。今初めて、海の世界を見たいと、何かを望んだ。

 魚は私の思いを察したように、突如急降下しだした。気づかない内に海の上空にまできていて、他の魚たちも次々に急降下しだした。

 魚が海に飛び込んでいく。低空飛行していた魚や大きな魚がまずさきに海へ沈んだ。まるで戦争のときに戦闘機が敵陣につっこんでいく様を見ているようだった。まぶたのない目が夕日に反射して、魚が無機物のガラスでてきているようだった。普段なら肌が粟立つような光景も、今はただただ見つめるばかりだ。

 私がのっている魚も、ついに海へ飛び込んだ。魚に乗っていた私が水面にたたきつけられるようなことはなく、海水に包まれる感触だけした。背びれにつかまっている手は離れず、私の目は魚の行く先を追っていた。

 泡と青色だけの世界の中、魚は深海へと進んでいく。真っ暗な、真っ暗は、水底へと――――。
作品名:海上水泳、のちに潜水 作家名:こたつ