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玄塊群島連続殺人 黎明編

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第一章 芦原美禰子の慨嘆



黄金色の陽光が降り注ぐ納端港に、一艘の貨物船が、彩り豊かなビロードの海を引き裂き入港した。無人の埠頭はアスファルトの熱によって生じた陽炎の中で揺れている。時折、生暖かい南風が、港に泊まる数隻の漁船旗をはためかせる。漁船の横に速度を緩めた貨物船が船体を寄せようとすると、監視小屋から迎えの男たちが姿を現し、誘導しようと手を振っている。
 
停船後、しばらくすると船室の戸口に、黒衣の少女が、よろめく様に出てくる。彼女は、手すりに掴まりながら船橋の中ほどまで歩くと、肩で息をし、頭を抑えて蹲ってしまった。荷下ろしをしていた船員が駆け寄ろうとすると、静かに大丈夫と手振りで示し、顔を上げる。その病的に青白い顔は、不均衡に歪んでいる。
 高崎雅道は、埠頭の先端で彼女を迎える。
 「葦原さん、長旅ご苦労様でした。道中色々と大変なことが起きたそうですね。しかし、今はまず、十分な保養があなたには必要なようだ。さあこちらへ。」
 高崎が先に立ち、滞在先の民宿に案内しようとする。美禰子は項垂れるように俯き、それからキッと眼を上げると、小さな、しかしはっきりした声で、
 「申し訳ありませんが、その通りです。数時間私にください。それからすべてを説明します。安眞木の件についても。遭難していた少女についても・・・。」
 失意の淵にある彼女は、慣れぬ暑さに疲れきっており、足元が覚束ない。高崎は手を貸してやる。
「気になさらないでください。ここは、本土とは違います。あらゆる点で。気候だけでなく、ここでの物事に慣れるには、時間がかかるでしょうね。」
 
二人が歩き出そうとすると、船橋からリズムの軽い足取りでこちらへ近づいてくるものがいる。純白のワンピース。深い灰色の瞳。
「こんにちわ。」
こぼれるような笑顔で、少女は手を差し出す。