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てっしゅう
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「新シルバーからの恋」 第五章 破綻

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美雪は近くだと直ぐ逢えると思ったから引越しして来た。気遣いは解かるけど、こっそり仕事帰りにでも寄って欲しいといつも思っていた。徹は仕事柄近所には顔見知りが多いから、美雪の部屋を訪ねる事は憚られた。万が一知り合いに見られたら、大変な騒動になってしまうからだ。

そういう点は心得ている。あくまで美雪とは遊びに過ぎない。どんなに可愛くても溺れる事はない、と行動していた。ある変化が訪れるまでは・・・

保険会社の社内研修は最終日を迎えていた。受講生たちはもう一端のセールスレディーとして振舞えるようになっていた。美雪は自分には出来ないと考えていたが案外向いていると感じ始めていた。年齢はともかく、その容姿が自信の裏付けのようになっているのかも知れない。恵子によく言われる、「法人課では美人は得をする」という言葉に当てはまると思っているのだ。

午後3時が来て全日程が終了した。「お疲れ様でした」と言う講師の言葉に続いて、これからの抱負を一人一人話すことになった。
美雪は「早く契約が取りたい。そのために頑張ります」
悦子は「信頼される保険を販売したい」
そう言った。

短い言葉ではあったが二人の性格を表していると恵子は同席していて感じた。新人たちは一週間の間にそれぞれの親交が高められたので、メール交換などしてたまには会いましょうと話し合っていた。

「ねえ、美雪さん、ちょっとお話したいことがあるの。良かったら週末にでも会って頂けないかしら?」悦子はそう聞いた。
「はい、構いませんけど、どうしましょう?金曜日の夜にします?土曜日か日曜日のほうがいいですか?」
「そうね、休みは主人が居るから金曜日にしましょうか?お仕事何時まで?」
「悦子さんは?」
「私はまだ本社研修だから、5時よ」
「じゃあ、5時半に前のカフェでいいですか?」
「ええ、解りました。では、仕事頑張ってね」
「悦子さんも・・・」

美雪は悦子が誘ってくれたことになぜだか不安を覚えた。徹のことで責められると言う感覚ではなく、相手の物腰から違う話をされるのではないか・・・漠然とだがそんな気持ちに感じていた。

金曜日の午後5時半に悦子は美雪の待っているカフェに入っていった。
「待たせちゃったかな?ゴメンなさい美雪さん」
「いいえ、今来たところですから・・・」

「今日は寒いわね。もうすぐ桜の季節だと言うのに。三月はこういう時があるから油断できないのよね」そんな話から美雪と向かい合った。
「悦子さん、お仕事初めてなさるの?」
「そう、結婚してからはね。美雪さんは?」
「わたしもそう・・・独身になっちゃったから、仕方なくね」
「剛司くんと別れたのね・・・彼も伸子と一緒になるようだから、あなたも辛いわね」
「ええ、初めの頃はそう感じていましたけど、今は平気です。なんだかこの仕事向いているように思ってきましたから、頑張ろうって思っているんですよ」
「へえ〜美雪さんは美人だからきっとたくさんの契約が取れると思うわ。男の人って、解り易いから・・・」
「そうですか?悦子さんは銀行の窓口なんですよね?凄いわ、銀行なんて・・・」
「主人のおかげよ。普通じゃ面接だって受けれないと思うから。でも、保険の仕事銀行でするなんて思わなかったから、ちょっとびっくりしているの」
「私もそう思いましたわ。でも悦子さんはまじめでしっかりとされているからきっと評判いいと思いますよ。私なんか、色気で仕事するなんて陰口もう言われているんです。残念ですけど・・・」
「イヤね、男の人ってすぐに女性のことそういう風に見るから・・・そうだわ、あなたに言って置きたい事があるの。失礼なことを言うかも知れないけど最後まで聞いてくださる?」
「はい、もちろんです。だいたい仰られること解りますから、徹さんのことですよね?」
「そう。この間久しぶりに会ったの。私ね、あなたのこと聞いたのよ。そうしたら、ただ仲の良い友達だって言い張るのよ。ゴメンなさいね言い方悪くて。それは絶対にないだろうって感じていたから、また聞いたの。急に怒り出して・・・私に不倫なんだから、そんなに熱くなるなよ、って言うのよ。変よね?熱くなれないでどうして逢えるの?どう思います?」
「悦子さん徹さんのことが好きなんですか?どんなことがあっても離れないって覚悟ありますか?」
「今は無いわよ。初めて会ったときは、私の家庭は壊れても構わないけど、彼の家庭は壊さないようにしようって思っていたわ」
「それは、徹さんも知っていたの?」

美雪の表情が少し変わり始めていた。

「ええ、もちろんよ。顔見て話したから。なんて言ったと思う?絶対に離さないから、ずっと好きでいるから、って言ったのよ。その人がね、二度目のときにさっき言ったみたいに変わってしまったのよ。何かあるって誰でも思えるじゃない?」
「私うすうす感づいていたの。悦子さんと会ってるだろうって。でも、自分のほうに振り向かせるんだって強く思ったから、強引に誘ったの。先輩のこと中学のときに好きだったのよ。仲良くしていてくれたからきっと好きなんだろうって思っていたのに、高校になったら悦子さんと付き合ったからショックで・・・自分の幼さを卑下したわ。見返そうと女らしくしてきた。剛司に強引に誘われて・・・気が付いたら結婚していた。好きじゃなかったのに暮らし始めたから、子供が出来るともう夫のことは感じなくなってしまったの。解ります?」
「私と同じね。徹くんはお母さんが亡くなってから少し引き篭もってしまったから会えなくなって別れた。思い出すことも無く過ごしてきたのに・・・同窓会の案内が届いて、その差出人が徹くんだったから・・・夫との溝が大きくなりかけていたからあっという間に蘇ってきたの、好きだったって言うことが」
「なんだか私と良く似ていますね、悦子さん。初めは絶対に負けるものかって思っていましたが、良く似たことから始めた恋なんですね。なんだか悦子さんのことを考えたら、自分も同じように見ているんだろうなあ・・・って思えてきました」
「そう、それが言いたかったの。今はいいのかも知れないけど、きっと悲しい思いをするのは美雪さんの方よ。嫉妬で言うのじゃないから、確かだって自信がある。仕事が面白いって感じられるんだったら、打ち込むべきよ。きっとトップセールスになれるわ、美雪さんなら。同じ色気を使うならそちらを優先すべきよ」
「言いますわね・・・色気ですか、本当にありますか?58ですよ。おだてに乗せられているだけじゃないのかな・・・」
「私は60丸出しだけど、あなたは50代、いや40代後半ぐらいには見せれますよ。エステとか行けば尚更完璧になるわよ」
「嬉しい!そんな風に言って下さって・・・じゃあ、ご一緒にエステに通いましょうよ?淀屋橋の駅上がったところにあるじゃない、看板出てたわ」
「本気?」

不倫の話が何時しかエステに行く話しに摩り替っていた。美雪は悦子の話に思うところがあったのか、それからは徹のことを話さなくなった。世間話や子供の話、それに何より孫の話には頷くことが多くなり、楽しく時間が過ぎて行った。

「あら、もう8時よ。帰らなきゃ。遅くなるとは言って来たけど、どうしようかな・・・」