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サルバドール
サルバドール
novelistID. 32508
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晴れ、ときどき、カエル

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「あ~あ、何でオレ、モテねえのかなあ」

アラガキがアホみたいにそう呟くのを、オレは隣で黙って聞いていた。オレたちは、24時間営業のコンビニで、いたずらに時が過ぎるのを待っている。時刻は深夜の4時。もう少しで夜が明ける。窓越しに見える空は、暗い雲で塞がれていて今にも泣き出しそうな気配だ。オレたちは、店員の迷惑そうな態度を完全無視で、各々の好きな雑誌を貪るように読んでいる。アラガキはファッション誌を、オレは週刊少年ジャンプを読んでいる。アラガキのそれは、表紙にギャル男が映っている、ホットドックプレス的なやつで、「女を一発でセックスにもっていくためにはどうしたらいいのか」みたいなことが書かれている。こいつはそういうものを読んでは、

「ヤリてえよ。モテてえよ」と、アホの一つ覚えみたいに繰り言を呟く。いつも、そんな調子である。だが、こいつは肝心なことが分かっていない。一つは、こいつが「ヤリてえよ、モテてえよ」という願望から程遠い人生を、20年以上も送っているということだ。友人のオレが直接言ってやるのは憚られるが、こいつには、ルックスもないし、金もないし、車もない。女とアバンチュールするのに必要な最低限の条件を、全然満たしていないのである。それは女も寄りつかねえわという話だが、オレは、そんなことよりももっと深刻な問題があると思っている。それがもう一つのというか、最大の原因なのではないだろうか。

深刻な問題というが、それは難しい話でも何でもなく、至って単純なことだ。世の中には二種類の人間がいる。他人に受け入れられる人間と、そうでない人間のことで、両者の間には決定的な違いがある。それはルックスが良いとか、金を持っているとか、社会的な地位があるとか、そういう分かりやすいことではなくて、他人に受け入れられるようなオーラを持っているか、そうでないかというようなことだ。そして、そういうオーラみたいなものは、個々人に先天的に備わっているものであって、努力で後から身につくようなものではない。人から好かれる人間が努力なしに人脈を築いていけるのは、その人が先天的にそれを持っていたからだし、人から好かれない人がどうやっても人から好かれないのは、その人がそれを持っていなかったからだ。

……結論から言うと、アラガキの奴は後者ってことになるのだが、オレはそんなことを口が裂けても言えそうにない。それは、「おめえはブサイクだし、金も持ってねえからなあ」とハッキリ言ってやることよりもキツイ事実に違いなく、その人間自体を否定することでもあるからだ。まあ、尤も、そんなマジメな話を仮にしてやったところで、こいつのスポンジみたいな脳みそでは理解できるはずもないが……。

「なあ、カズよ。オレはどうしてこんなにモテねえんだろうなあ?」

「それをオレに聞いてどうする? 自分の胸に手を当てて考えた方がいいんじゃないのか」

「何だよ? どういうことだよ、それえ?」

「それはお前自身が一番よく知っているんじゃないか、って言ってるんだよ」

「ハア? それが分かんないから聞いてるんだろうよ」

「だから、それを聞いても、オレには分かんねえっつうのに」

その時だった。オレたちの間を割って入るように、眼前のウインドーに何かが張り付いた。その奇妙な物体は、見たところ、生き物の死骸で、潰れた腹から血液や臓物を垂れ流していた。それがカエルだと分かった時には、既に事態は一変していた。目の前を大量のカエルが通過し、車道や近隣の民家の屋根を悉く埋め尽くした。オレたちが今まさにいるコンビニも例外ではなく、ウインドーに大量のカエルの死骸がひっついたかと思いきや、外のゴミ箱を倒したり、駐車スペースに停めてあった車の窓ガラスをこれでもかというくらいに叩き割ったりした。それは、まさに阿鼻叫喚の世界で、オレたち二人は雑誌を持ったまま、静止するしかなかったし、品出しをやっていた茶髪の店員でさえも腰を抜かして、消え入るような声で何かを呟いていた。そいつはどうやら小便を漏らしてしまったようで、黄色とも透明ともつかぬ汚い液体で床を汚していた。

「お、おい、何だよ、コレ?」

ファッション誌を手にそう言ったアラガキは、いつにも増してアホな顔をしていた。突然降ってきた雨ではなく、カエルを、引き攣った表情で見つめている。他の客も、小便を漏らした店員も、突然のことに何をしていいのか分からないでいるカンジだった。オレはと言うと、どういうわけか、異常なほどに冷静だった。オタマジャクシが空から降るっていうのは知っていたけど、カエルは聞いたことがねえなあとか、天気予報では雨が降るとか言ってて結局カエルが降っちゃったけど、まあ、何にせよ、傘を持ってきていて良かったよなとか、そういうくだらないことさえ考えていたのである。オレは状況を理解してから、読みかけのジャンプに再び、視線を落とした。そんなオレを、アラガキの奴が不思議そうに見てきた。

「お前、この状況を見て何とも思わねえのかよ?」

「え? あ、ああ、随分、降ってきたよな」

「い、いや、雨が降っている体でしゃべってんじゃねえよ。その目こじあけてよく見てみろ、何が降ってるよ?」

「ああ、カエルだろ?」

「ああ、カエルだろ、じゃねえよ、バカ! カエルが降ってるんだぞ。何で空からカエルが降ってくるんだよ?」

「そんなことはオレに聞かれたって知らねえよ。てか、モテるモテないの話をしていたんじゃなかった?」

「あ、ああ、そうだけど、今、そんな話している場合じゃねえだろ」

「そうかもな」

「そうかもなってお前」

オレはアラガキの言葉に被せるように言った。

「お前さあ……」

「何だよ?」

「マグノリアって映画知ってる?」

カエルの死骸で満たされた世界を見ながら、オレは久しぶりにあの映画を観たいと思った。