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独立都市リヴィラ ep.1 迷い込んだ子供

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そこは暗い荷馬車の中だった。

 あたりに積まれた木箱が、絶えずカタカタと音を立てる。規則的な振動のほかに、不規則にガタンと大きな揺れも生じる。何か小さな石にでも乗り上げたのだろう。木箱が大きく揺れるたびに、箱の中で複数の石が擦れる音が聞こえる。

 その揺れ続ける木箱と木箱の間に、二人の子供が小さく座り込んでいた。 

 二人の子供は同じ帽子を被り、よく似た顔立ちをしている。服装はよくある旅装束だが、汚れが目立ちくたびれていた。片方がくせ毛の少年で、もう片方は真っ直ぐに伸びた長い髪を持つ少女だ。

「ねぇ、勝手に乗っちゃって本当に大丈夫かな……」

 少女が連れの少年に声をかける。周囲に音が漏れるのを気にしているのか、それはひどく小さな声だ。

「大丈夫だ、あいつらまだ気づいてない」

 同じく小さな声で、少年は言う。

 少女の不安を取り除こうとしっかりとした口調ではあるが、声の震えから彼も不安を感じていると分かる。

「でも……もし見つかったら……」

 少女は帽子の端をつかみ、さらに小さくなるようにぎゅっと下へと引っ張った。彼女の体が小さくふるえているのが、隣にいる少年に伝わっていく。

「そのときは、……」

 言葉を切って、少年は視線を下へと落とす。そうなったとき、自分に何ができるだろうか。

 彼は少女の手を強く握った。

「……なんとか、なるよ。だから安心しろ、ルシエラ」

 握りしめた手がふるえているのが、彼女にはよく分かる。

 それでも励まそうとしてくれる彼に、心が痛んだ。

「うん……。…………ごめんね、ユリウス」

 絞り出すようなルシエラの声に、ユリウスは沈黙で返した。

 カタカタと荷馬車は揺れ続ける。この場所には彼ら二人しかいない。馬車の隙間から差し込む光が、二人を照らし出した。

 この馬車がどこに向かうのか、彼らにはそれも分からない。

 そんな不安を抱え、子供たちはそっと肩を寄せあった。

 お互いのふるえを感じながら、それが少しでも止まるように。

 大きな音を立てて、馬車が揺れた。そしてまた規則的に馬車は揺れ続ける。

 幼い彼らはそれが永遠に続くような気がした。

 



 ◆




 独立都市の愛称を持つリヴィラは、大陸唯一の都市国家だ。都市は高い塀に囲まれており、外部の侵入を拒絶している。それでも不思議と圧迫感も威圧感もなかった。

 都市の入り口は東西南北に分かれている。その中でも街道に面した東門は、毎日のように人々が出入りするにぎやかな場所だ。行き交う人々は行商人たちのキャラバンであったり、反対に一人で気楽に各地を回る旅人だったりと多種多様だ。立ち振る舞いや言葉遣いなどからも、決してこの近辺の人間だけがこの場にいるのではないと分かる。

 もちろん、こうした人の出入りは自由ではない。各門にはリヴィラの警備隊員が配備され、人の出入りを管理していた。

 赤と白を基調とする隊服に身を包んだ隊員たちは、今日も各自の持ち場で仕事にいそしんでいた。

「行商許可証、確認終了しました。積み荷の確認が完了するまでしばらくお待ちください」

 東門の一角で、警備隊服を身にまとった男が、都市へ入ろうとする行商隊の入国審査を行っている。審査は許可証などの確認するための隊員一人と、荷物を確認する隊員二人の三人一組で行われる。今日は二組の警備隊員が待機していた。

 一つの行商隊が審査を終えて門の中へと消えて行くのを見送り、先ほどの男はほうと息を吐く。平均より少し高めな身長と、この地方でも珍しい黒の髪色が合わさり、その男はほかの警備隊員たちの中でも一際目立った存在だった。身体はほどよく鍛えられているが、決して屈強な戦士という感じではない。どことなく柔らかな表情は、見る人に親しみを与えていた。

「あ、イツキー」

 その彼に、とある男が声をかけた。

 イツキと呼ばれた警備隊員はその声の主をさっと確認する。

 馬車の御者に声をかけてから、その男は小さな馬車から飛び降りこちらに近寄ってくる。馬車の様子からどうやら行商用の荷馬車のようだが、一台だけで規模はとても小さい。

 その男の外見はイツキとはまるで正反対だ。背はイツキよりはるかに小さく、体つきはどちらかと言えば細身。髪は明るい金色だ。

 イツキは人懐っこそうな彼の顔を見て、ふっと笑う。

「あぁジーンか。ほら、許可証だせよ」

 その言葉とともに少々乱雑に出された手を見て、ジーンと呼ばれた男は苦笑する。

「お前、扱いが雑すぎるだろ」

「そりゃ別に丁寧にする必要もないからな」

「ひでぇなおい」

 意地の悪い顔をするイツキの言葉に、ジーンは文句を言いながらも笑う。気の合う友人同士の会話なのだな、と周りから見ていてもそれが分かる。

 ジーンは洋服のポケットから許可証と積み荷の内容が書かれた羊皮紙を取り出し、イツキに渡した。イツキの横に並ぶとまるで小さな子供のような彼だが、リヴィラ出身の優秀な商人の一人である。取り扱いは布だの服飾に関連する品ものだ。

 イツキは渡された許可証を丁寧に確認し、同グループの警備隊員たちに羊皮紙を渡す。隊員たちはリストと実際の積み荷が正しいか、馬車の中を点検しだす。都市内に不審物を持ち込ませないための処置だ。

「はいよ、荷の確認が済み次第通れよ」

「はいはい。しっかし久々だなー。二か月ぶりぐらいか」

「そんなもんだな。旅先で迷子にはならなかったか?」

「子供扱いすんじゃねえよ。背が低いのは仕方ねえだろ」

 ふてくされたようにジーンはふいと顔をそむける。

 ジーンはこの世界でいわゆる小人と呼ばれる種族の人間である。成人しても普通の人(特別な特徴を持たない種族の人間を指す)と比べると子供のような大きさまでにしか成長しない。リヴィラではさほど珍しくもないが、よその国ではほとんど見かけない存在であり、ただの子供だと思われることも少なくない。

 この世界には様々な特徴ごとに種族が分けられてはいるが、世界中の人がその区別を正確に理解しているとは言い難い。基本的に別の種族が同じ町で暮らすことは少ないし、種族によっては絶対数が少ない者たちもいるため、そもそも出会う機会がないのだ。

 そんな中でリヴィラは多種族が暮らす場所として知られていた。

「まったく、この身長だといちいち子供扱いされるし、ちょっと人ごみに紛れただけでも前が見えなくなるし。厄介だ」

 ジーンは深くため息をついた。

「そうだな、靴の底上げるにも限界あるだろうし」

 愚痴を言うジーンにイツキはそう言う。

 自分の生まれに文句をつけるつもりはないが、やはり不便を感じてしまうのは仕方がない。

「そういやイツキ、知ってるか?」

「? 何を」

 まじめな顔をしたジーンの唐突な問いに、イツキは首をかしげる。

「いや……なんか最近半獣人が奴隷商から逃げ出したんだってよ」

「半獣人?」

 この世界に存在する種族には、「獣人」と呼ばれる者たちがいる。言葉通り、獣の姿を持つ人のことだ。二足歩行する犬や猫を想像すると分かりやすい。