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てっしゅう
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「神のいたずら」 第十章 約束

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第十章  約束


二学期が終わって冬休みに入っていた碧は、弥生に連れられて渋谷に買い物に出かけていた。お盆休みに母親からもらった名古屋へのお小遣いを使っていなかったので、いつも仲良くしてくれる弥生へプレゼントをしようと思いついたからだ。

「お姉ちゃん・・・碧が好きなお洋服買ってあげる」
「えっ?何言ってるの?そんなお金ないでしょ?」
「あるよ。お盆休みに名古屋へ行った時にママからもらったお金使わずに持っていたから、3万円あるの。いつも碧に優しくしてくれるからプレゼントしたい・・・」
「・・・」弥生は言葉が出なかった。
「どうしたの?お姉ちゃん・・・」
「泣かせるような事言わないでよ・・・人前で・・・」
「出かける前に言ったら、怒られると思ったから・・・」
「何で怒るのよ・・・そのお金は碧が大切に持っていなさい。気持だけ受け取っておくから」
「ダメだよ・・・お姉ちゃんに買ってあげたいから。碧とお揃いで何か買おう?」
「うん、それならそうしてもらおうかな。何がいいかな・・・」
「お財布は?」
「いいね・・・ちょうど買い換えたいって思っていたから。そうしましょう」

何軒か見て回って気に入った財布を見つけた。手を繋いで歩いていると後ろから声をかけられた。
「弥生・・・」
振り向くと明日香の声だった。
「明日香ちゃん!偶然ね、どうしたの?買い物?」
「うん、今日は弟の誕生日だからプレゼントしてあげようって、一緒に来たの。隣って・・・妹さん?」
「はい、碧です。初めまして」
「大学の友達で明日香です。こっちは弟の貴樹、高校一年。碧ちゃんは何年生だった?」
「中学二年です」
「そうなの・・・弥生の自慢の妹さんね」
「明日香ちゃん!変な事言わないでよ」

立ち話も寒いからカフェを探して中に入った。

「碧ちゃん、弥生はねいつもあなたのこと自慢してるのよ。今日会って初めて弥生が自慢するだけの事があるって気付いた。とっても可愛いね」
「本当ですか・・・お姉ちゃん私のことなんて言ってたんですか?」
「弥生・・・言ってもいいよね?」
「もう話してるじゃん・・・」
「頭が良くて、スタイルも良くて、無邪気だけどしっかりしているって・・・弥生と俊一さんのキューピットになったんでしょ?聞いてるわよ」
「お姉ちゃん綺麗なのに自信なさそうだったから、ちょっと後押ししてあげただけ。大した事なんかしてないよ」
「そう・・・今日は何買いに来たの?」
「お姉ちゃんのプレゼント買いに来たの」
「誕生日だっけ?弥生って」
「違うのよ。何も言わないで、買い物したいから付き合ってって言うから来たの。そうしたら、プレゼントしてくれるって言うから・・・驚いちゃった」
「へえ〜素敵ね。お前も見習えよ・・・」明日香は貴樹の頭をコツンと叩いてそう言った。碧はその様子にくすっと笑った。

「笑わないでくれよ・・・」
「ゴメンなさい・・・可笑しかったから」
「貴樹!そんな言い方して・・・もっと優しくしないともてないよ」
「明日香ちゃん、貴樹くんってどこの高校に行ってるの?」
「貴樹、自分で答えなさい」
「麻布です」
「えっ?麻布?すごい・・・じゃあ、東大目指しているの?」
「はい、一応そうです」
「碧と同じだ・・・」
「弥生今なんて言ったの?」
「碧、自分で話したら・・・」
「医者になりたいので東大か慶応に入りたいと思っています。貴樹さんと同じ高校に進学しようと考えていました。偶然だけど、嬉しいです」

弥生はさっきからじっと碧を見つめている貴樹の様子に、少し探りを入れてみた。
「貴樹くんは、彼女いるの?」
「いません・・・これまでにも付き合ったことは無いです」
「そう・・・まじめなのね。麻布だものね・・・仕方ないか」
「彼女は・・・欲しいです。普通の男子ですから」

碧の視線も少し貴樹に向き始めた。

明日香は弟がずっと勉強ばかりしてきて友達も少ないし、彼女だって欠片も見せなかったから、かわいそうに思っていた。自分や弥生のように恋愛をすればもっと楽しい時間が過ごせるのに・・・16歳になって貴樹だって少しはそう感じさせてやりたいと考えていた。容姿だって自分と違って母親似で目元もはっきりとしていて男っぽいと思えるし、身長だって170は超えていたから恥ずかしくないと見ていた。問題は、性格だろう。

「ねえ、碧ちゃんは彼がもういるの?」
「いいえ、居ません」
「付き合ったこと無いって言うこと?」
「ううん、あるよ・・・でも・・・振られた」
「えっ?碧ちゃんを振ったの?・・・そう、悲しかったわね」
「今は平気です。お姉ちゃんに慰めてもらったから」
「ふ〜ん、優しいのね弥生は・・・誰か気になっている人居るのかな?」
「居ませんよ。募集中です!」
「ハハハ・・・募集中か、可愛いね・・・」

「碧!そんな簡単に言うんじゃないよ。安っぽく見られるから」
「だって・・・そうなんだもん」
「弥生いいじゃない。正直で・・・ねえ?貴樹ってどう思う?」
「貴樹さん・・・」碧はじっと見てまた視線を落とした。
「私が言うのもなんだけど、弟はまじめ過ぎるから女の子に声なんて掛けれない。ずっと彼女がいないなんてかわいそうだから、碧ちゃんがお友達になってくれたらいいなあ・・・て思ったの」
貴樹は明日香の顔を見て、
「お姉ちゃん!急にそんな事言って、失礼じゃないか」ちょっとむきになった。
「怒らないでよ・・・貴樹はどうなの?碧ちゃんのこと」
「・・・可愛いって思うよ」
「貴樹さん、ありがとう。碧はお友達からならいいよ。でもまだ中二だし部活も忙しいからあんまり逢えないかも知れない。それでもいいなら・・・誘って下さい」

弥生も貴樹なら碧に相応しいと思った。友達の弟だから安心出来るし、何よりこのタイミングで巡り会えた偶然を大切にしたいと思えたからだ。

「じゃあ・・・初詣にみんなで行こうよ。私は俊一さんを誘う。明日香も彼誘って、6人で行きましょう。どう?」
「弥生、いい考えね。貴樹はどう?」
「うん・・・」
「なんか、はっきりしないねこの子は・・・ちゃんと碧ちゃんを誘いなさいよ」
「一緒に来てくれますか?」

「うん、楽しみにしてるよ。ママに頼んで着物着てゆこうかな・・・」
「いいねえ、あまり着る機会無いから・・・それがいい!」
弥生にとっては成人式の予行演習になる。確か、由紀恵の着物が何枚か仕舞ってあるはずだ。

「私も着てゆくわ。お正月らしいものね。なんだか楽しみになって来たわ」
明日香は貴樹を碧に紹介してよかったと思った。どうなってゆくのかは解からなかったけど、とりあえず正月は一緒に過ごせる。後は二人が気に入れば付き合って行けるかも知れない。秀才である貴樹に不足のない相手でもあったから、何とか仲良く付き合って欲しいと願っていた。

由紀恵は弥生から着物を着たいと言われて、桐箪笥から持っていた振袖を全部出して広げた。碧と弥生がそれぞれに選んで、着付けが出来る友人に連絡して、元日の朝に家に着てもらうように頼んだ。そして美容院も予約した。予約が遅かったので、一番早い時間になってしまった。二人は寝ると遅刻しそうだったから、起きて時間を潰していた。