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南 総太郎
南 総太郎
novelistID. 32770
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黄金の秘峰 下巻

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「お袋、俺が子供の頃、祖母ちゃんと一緒に寝ていたことがあったかな?」
「ああ、お前はお祖母ちゃんっ子だったからね」
「やっぱり、そうか。じゃ、祖母ちゃんが俺に話して呉れたんだ」
「何をかね?」
「ウチが足軽の家だったってこと」
 譲次はこの言い伝えも俺の代で終わるだろうと思った。

譲次は図書館で多田家なるものを調べてみようと思った。
それには地元の資料が豊富な場所でなければならない。 
早速甲府駅近くにある県立図書館を訪ねた。
歴史のコーナーでそれらしい本を引っ張り出しては見るものの、
参考になるような文字は目に入って来ない。
結局、また武田信玄にまつわる数多くの研究書を手に取ることに
なった。
武田二十四将は最強と言われた武田軍団の中核を為すものだが、
それが有名になったのは、ずっと後の江戸時代の中期と知って意外に思った。
その勇将の中に多田という姓を発見した。
足軽大将の一人だと言う。
この足軽大将の多田満頼という人物が多田家の先祖で、逃げ出し
た小松某はその家来だったのではなかろうか、などど想像してしまう。
(そうだ!)
折を見て、多田家の仏壇も調べさせて貰おう。
何か掴めるかも知れない。
 
来始めると不思議なもので、あれほど疎遠だった実家にも殆ど毎
週末、譲次は顔を出すようになった。
母の澄子も、すっかり其の積もりで食事の支度をしておいて呉れ
る。
お互いに永年の一人ぼっちの、侘しい食事には飽きていた。
譲次は、目の前で楽しげに箸を動かす年老いた母を見ていて、い
つまでも孤独な状態に親を放置しておいてよいものかと自問した。
茶碗のご飯を掻き込みながら何故か急に胸が熱くなり、目頭が潤
んでくるのだった。
(甲府に戻ろうかな。しかし、働き口があるだろうか?)

「佐和ちゃん、お宅のお仏壇調べさせて呉れないかな?」
「えっ、お仏壇?いいですけど、どうしたんですか?」
「一寸調べたい事があるんだ」
「いつ?今?」
「都合が良かったら、すぐにでも」
「じゃ、待ってます」
「オーケー、直ぐ行く」
小松家から多田酒造までは徒歩で精々十分という近間である。
近隣の家々の軒には、恰も申し合わせたように干し柿がぶら下が
っている。
午後も今頃の時間は未だ比較的暖かい。
休日とあって、多田酒造の構内はシーンと静まりかえっている。
居間に通されてソファーに深々と腰を下ろすと譲次は佐和子を待
った。暖房の利いた部屋は暖かく、セーターを脱ぎたくなるほどである。
 和服姿の佐和子が現れた。
いつもながら、美貌と貫禄を備えた女社長振りである。
「いらっしゃい。お仏壇とは面白い調査ですね」
「うん、実は佐和ちゃんも知っての通り、例のコピーの掛け軸の和
歌を解読しているんだけど、それに関連して面白い伝説を耳にした
んだ。伝説に一軒の百姓家が出てくるんだけど、それがどうもウチ
のことらしいんだ。そればかりじゃなく、その百姓家に逃げ込んだ
足軽が実は武田の埋蔵金に関わった人間だというので、ウチの仏壇
を調べたら多田家家臣と書いてあったんだ。もしかして、お宅の多
田家じゃないかと思って」
「なるほど。面白いですね」
「調べさせて貰って良いかな?」
「良いですとも。じゃ、どうぞこちらへ」
廊下を歩いて奥の方の八畳ほどの仏間に通された。
一間も幅のある立派な仏壇が鎮座している。
小松家とは余りにも違う大きさに、譲次は圧倒された。
一番手前の新しい位牌は健一郎のものである。
譲次は線香をあげ手を合わせると暫し瞑目した。
様子を見ていて佐和子が口を開いた。
「兄も譲次さんに見付けて頂いて感謝していると思いますわ」
譲次は仏壇に近づき奥の方に手を伸ばすと一枚の位牌を取り出した。
金泥で塗られた立派な位牌である。
院号付きの長い戒名が書かれている。
次々に調べてみたが、一番古いものでも享保年間のもので、天正、
文禄或いは慶長のものは見当たらなかった。
「佐和ちゃん、戦国の頃のものはないね。でも、これは間違いなく
由緒ある武家の家柄に違いないと思うな」
「じゃ、譲次さんは私の家来じゃなかったんですか?残念ですわ」
「ああ、残念だろうね。俺は助かった。あははは」
「じゃ、居間のほうでゆっくりして下さい。暇でしょ、今日は?」
「うん、明日はこっちから直接出社してもいいし」
「今、お酒の準備をしますから」
「ああ、有難う。一寸手を洗わせて?」
「はい、どうぞ。洗面所はこちらです」
上背のある恰幅の良い佐和子の後に従いながら、譲次はおやっと思
った。
(大きいと思っていたが、こうしてみると俺の鼻くらいしかない。
女の人って意外に小さく可愛いいんだな!)
居間の深々としたソファーに戻り、何故か良い気分の自分に気
付く。
庭の立ち木の何処かでヒヨドリが頻りに
「イイヨ、イイヨ」
と、囀っている。
ワゴンを押して佐和子が入って来た。
何だか沢山壜が載っている。
「譲次さんは日本酒がお好きとか。私は酒屋の娘のくせに洋酒党な
んですのよ」
「この前、電話したとき飲んでたみたいだね」
「ああ、あの時。飲んでました、コニャックを」
「コニャックは何が好き?」
「矢張りへネシーXOかしら」
「ああ、甘口で女の人には向いてるかも」
「それをオン・ザ・ロックで」
「掌の温もりで暖めるのではなく?」
「ええ、私って、太ってるせいか冷たい方が好きですわ」
「京ちゃんも洋酒党だったな」
「そう、二人揃って罰当たりね」
 佐和子はそう言いながら、生酒の四合壜を手に取るとグラスにな
みなみと注いだ。
「はい、譲次さんには当社の最高級の原酒を試飲して頂きます」
 そう言って、譲次にグラスをそっと手渡した。
 白く柔らかい佐和子の指先が譲次の指先と一瞬重なった。
 佐和子は軽くあっと言って、ゆっくり手を引っ込めた。
 譲次は始めて触れた佐和子の指先の感触にドキッとした。
 他人の女性の肌に触れたのは生まれて初めてだった。
 動悸が外に聞こえんばかりに激しくなっている。
 それを、ぐっと抑えるようにして、 
「あっ、有難う。俺は専ら生ばかり飲んでるから、これは有難い」
 と至って平静に振舞うよう努めた。
「矢張り、お酒好きには生でしょうね。コクがあるから」
「其の通り。これを飲みつけると普通の酒は飲む気がしないよ」
 佐和子もコニャックのグラスを傾けながら、
「こうして、昼間からゆっくり飲むなんて珍しいわ」
「そう?俺なんか休みの日はしょっちゅう昼酒どころか朝湯に入り
ながら朝酒もやってるよ」
「まるで、小原庄助さんみたいですね。身上潰すかも」
「潰すような身上がないさ。佐和ちゃんこそ気を付けて」
「私?そうね、呑み助の私こそ心配ね」
「ところで、京ちゃんは結婚してるの?」
「いいえ、まだ独り者よ」
「大きなダイヤの指輪をしてたから」
「ああ、あれはイミテーションよ。あれが本物だったら大変よ。
あらら、譲次さん、何か京子の事誤解してるでしょ。お金持ちのパトロンがいるとでも」
「厭らしい金持ちの爺がいたりして」
「言っちゃお、言っちゃお。京子が怒るわよ」
「止めてよ。「京」に行けなくなっちゃうよ。我々、安サラリーマ
ンにとっては、銀座でも数少ない味方なんだから」
作品名:黄金の秘峰 下巻 作家名:南 総太郎