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城咲らんる
城咲らんる
novelistID. 32793
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終わらない僕ら

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【11】 YUKIYA



 時刻は午後6時20分。誰もいなくなった教室で、僕は一人、要を待っていた。9月も終わりに差し掛かり、この時刻になると外はすっかり日が落ちていた。教室の電気も消灯している為、廊下から射し込むわずかな光しか室内に届かない。
 窓際の前から2列目の要の机に軽く腰掛け、僕は窓の方に体を向けた恰好で、携帯でゲームをしていた。小さな画面に集中していたせいか、日が暮れて真っ暗になっていた事にも気が付かなかった。
 ホームルームが終わった後、委員会の集まりがあると言って教室を出て行った要の帰りを待って、もう随分と時間が経っていた。近隣の教室も静かで生徒は残っていないようだし・・・おそらく、またいつものように女生徒から告白でも受けているのだろう。
 さすがに暗過ぎるかと、教室の電気を点けるべく振り返ったら、教室前方のドア付近に佇む人影を見つけ思わず叫びそうになる。
「・・・!」
「雨が降って来たな」
 廊下の蛍光灯が逆光となり一瞬誰だか分からなかったが、声を聞いてホッと胸を撫で下ろした。人影の正体は僕が待っていた張本人、要だ。
「おどかすなよ〜。全然気付かなかったー」
 窓辺に背中を預け、要が近付いて来るのを視線で追う。 
「オレ傘持ってないや。要は持ってる?」
「いや、俺もない。まぁすぐ止むだろうから少し様子見よ」
 自分の席へとやって来た要は、慌てた様子もなく自分の椅子に腰掛けた。そういえば、さっき電気を点けようとしていたのを思い出す。しばらくこのまま時間を潰すなら電気を点けようかとも頭をよぎったが、煌々と明かりの点いた教室で要と二人っきりというのもなんだが気恥ずかしいし、僕はあえて電気は点けないでおくことにした。
 要は脇に掛けてあった鞄を机の上に乗せ、何やらガサゴソと中を探っている。帰り支度をしているのだろう。彼の様子をずっと見つめているのもなんだかおかしな気がして、僕は再び、窓の方へと体を向けた。
 僕たち2年生の教室は校舎の2階にある。教室の窓からほぼ正面には校門が見えた。校門付近に設置された外灯に明かりが灯り、雨の粒子が、キラキラと光っているのが見える。傘を差した生徒が数人、校門へと向かう姿があった。
「で、可愛かった?」
 僕は背後にいる要に声を掛けた。
「何が?」
「告られてたんだろ?どうせ・・・」
 日常茶飯事過ぎて飽きれてしまうくらい、要は女生徒から頻繁に告白を受けていた。以前は羨ましいという気持ちもあったけれど、要への想いに気付いた今では、ただただ不安要素でしかなくて、つい嫌味な物言いをしてしまう。
「ユキ、声が怒ってる・・・。『宮野さんと別れて私と付き合って下さい』だってさ」
「女子って・・・強いね」
「でも可愛いよ、一生懸命で。気持ちだけでも伝えとかないと吹っ切れないからって、泣いてた・・・」
「そっか・・・。朱里もオレたちの前では明るく振舞ってるけど、本当はまだお前のこと好きなのかなぁ・・・」
 宮野さんとはあれ以来意気投合し、要と3人で過ごすことも多くなった。彼女は本来ライバルであった僕にも笑顔で接してくれて、今ではお互いに『朱里』『雪ちゃん』と呼び合う仲だ。周囲はおそらく僕を、交際している要と宮野さんの間に図々しく割って入るお邪魔虫だと思っているに違いない。でもそれでも構わないし、むしろそれが宮野さんの画策だった。彼女は僕たちの関係が周囲にバレないよう、引き続き要の彼女のフリを買って出てくれたのだ。
 でも、実際宮野さんは要のことが好きだったわけだから、きっと心中は複雑なんだろうな・・・。
「どうかな。宮野の場合、最初から『恋愛対象』としての『好き』とは違ってたんじゃないかな」
「どういうこと?」
「んーうまく説明できないけどさ、恋と錯覚してただけっていうか、今の関係が本来望んでいたことだったのかな・・・なんて」
 確かに、僕たちの前での宮野さんからは、要に対する未練のようなものは微塵も感じられなかった。僕が鈍いだけかと思っていたけれど、要自身もそう考察しているのであれば、単に僕が鈍いからというだけでもないようだ。
「朱里、甲斐甲斐しくオレたちの世話焼いてくれてるもんね。迷惑掛けっぱなしで。オレ、朱里には絶対幸せになって欲しい・・・」
「うん・・・」
 すると突然、背後から要の両腕が僕の胸へと伸びてきた。背中にぴったりと要の体が密着している。
「要っ! いきなり何っ!?」
 振りほどこうともがくけれど胸の前でがっちりとホールドされた腕はびくともしない。僕はやっと、要に抱き締められているのだと気が付いた。
「いや、俺の態度が素っ気ないって言ってたのをふと思い出してさ」
「変なタイミングで思い出すな! 誰か来たらどうするんだっ!」
「もう誰もいないよ・・・」
 要の囁きがあまりに甘く耳元をくすぐり、思わず抵抗の力が緩んでしまう。僕は観念して要の体に身を預けた。あったかい・・・。思えば、こうして抱き締められるのはこれが初めてだ。照れ臭くて、「これまで通りの関係でいたい」と息巻いたのは僕だけれど、それでもやっぱり、本音はというと、ずっとこうやって彼の体温を近くに感じたかった。僕が言い出したこととは言え、要がしっかりとその言いつけを守り僕に触れて来ないことが、さらなる不安を募らせる要因にもなっていたのだ。
作品名:終わらない僕ら 作家名:城咲らんる