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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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香港の夜

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私が教育関係の仕事に就いたのは三〇歳を過ぎてからであった。
 春休みになり香港に行くことになった。参加者は九名で女性は二名であった。特別にJTBから案内役が付いた。というのも学校はいいお得意さんだからである。
 修学旅行も最近では入札になっていた。多少その関係もあったのかもしれない。
 二泊3日の旅であった。
 北京ダックの食事から始まり、公園やらを見て回った。其の夜は夜景を見た。
 翌日は買いものであった。ジャッキイチエーンの店でバックを買った。関税の関係もあり国内よりも安いと聞いていた。洋酒も買い、土産用にタイガーバームを買った。
 妻に頼まれた香港レースも買った。
 夜になり男はクラブに行くことになった。クラブのカウンターで軽くカクテルを飲んだ。
「地下に女の子がいます。お一人づつ選んでデートして下さい」
JTBの案内が言った。誰もが顔を見合わせた。
「時間がありますから・・・」
確か私は三番目位かと思う。赤いじゅうたんの敷かれた階段を下りた。そこにはチャイナドレスを着た女性たちがいた。一五名ほどはいただろう。
 髪の長い、目の大きな女性の手を握った。
「ありがとう」
少しイントネーションは違っていた。
 女性は
「案内する」
 と言い外に出た。私たちの先に同僚が見えた。
 女性は夜の街を速足で歩いていた。
 私は食事前であり、食事に行くのかと思った。彼女は小さなホテルに入った。
 そして小さな部屋に私を案内した。ようやく私は理解出来た。内心ヤバい事になったと考えた。同時に不安を覚えた。先に行った同僚はどうしたのだろう。
「だいじょうぶ、ここにくる」
彼女は私の顔色を感じ取ったのだろう。
 「すぐでいい」
 私には何を意味しているのか解っていた。
「何か飲もう」
「わかった」
彼女は冷蔵庫を開けたその時、ドアがノックされた。
「しんぱいしないで」
何を言っているのか理解できなかった。
 小さなドアについた小窓から話をしていた。外の人は男であった。言葉は解らない。
「ぱすぽーとみせて」
私はパスポートの大切さを注意されていた。何が何だか分からないが、パスポートを取りだした。
「けいさつ、にほんじんならだいじょうぶ」
私は手入れだと気付いた。小窓から1メートル離れてパスポートを見せた。
「だめ、まえ」
少し前に進んだ。男の喋る声がした。男の手が見えた。
「わたす」
 パスポートがなければ帰国できない。
「だいじょうぶ、しんじて」
私は彼女の大きな目を信じた。もし取られたら追いかけようと靴を履いた。
「OK]
彼女からパスポートが戻された時は安堵した。心臓の鼓動は音を立てていた。
 隣の部屋のドアのノックの音が聞こえてきた。隣は誰がいるのだろう.同僚の顔が一人一人浮かんだ。
「どうぞ」
ワインを一気に飲み干した。
「じかんなくなる」
「シャワーを浴びる」
私はシャワー室に入った。またまた不安になった。この油断した時に何もかも持っていかれたら・・・・
彼女は裸になろうとしていた。蒼いチャイナドレスが膝のあたりまで下りていた。
前に屈んだ肩から長い髪が垂れていた。
私はシルクのパジャマを妻の土産に買い足した。

作品名:香港の夜 作家名:吉葉ひろし