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novelistID. 29058
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深夜

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明日はゴルフだと云う吉川がベッドに入って眠ってしまったのは、ちょうど日付が変わる頃だった。高村は寂しくリビングダイニングの方へ移り、三人掛けのソファーの左端に腰をおろした。テレビをつけると、久しぶりに見る男の俳優が温泉旅行を楽しんでいるのを映していた。名役者は映画のワンシーンのような面ざしで、露天風呂から夕暮れ時の雪山を眺めている。高村もその露天風呂には入ったことがあるような気がすると思っていた矢先、温泉の名称を若い女のきれいな声が云った。だが、それはテレビの音声ではなく、背後からの肉声だった。
 高村が衝撃的なまでに驚いて振り向くと、可奈の笑顔が眼に入ったのは一瞬で、その表情は即座に凍りついた。
「高村さん!お兄ちゃんかと……」
「……ごめんなさい。驚かせてしまいましたね」
高村も硬直した顔を見せながら云った。五年振りに会った吉川一樹の妹の可奈は、以前よりも格段に美しくなっていたこともあって彼は緊張していた。
「本当にお兄ちゃんかと思って……」
「明日はゴルフだと云って、彼はもう寝てしまったんですよ。でも、可奈さんが来ることは云ってなかったけど……」
作品名:深夜 作家名:マナーモード