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てっしゅう
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「神のいたずら」 第八章 母の心配

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第八章 母の心配


弥生はひとしきり泣いたら碧から離れた。自分の涙を拭いてそして碧の涙も拭いてやった。
「お姉ちゃんどうかしていたね・・・ゴメンね」
「ううん、碧も言い過ぎた・・・」
「そんな事ないよ。大学に入れて浮かれていた。碧のこと忘れていた訳じゃないけど、自分のやりたいことに夢中になっていたような気がする」
「お姉ちゃん、碧ねほらブラしてるのよ。知ってた?」
「ほんと、見せてご覧」
碧はシャツを脱いで見せた。

「可愛いじゃない。ママが選んでくれたの?」
「うん、碧解からなかったから・・・」
「今度はお姉ちゃんが選んであげるから・・・一緒に買いに行こう」
「うん、嬉しい・・・お姉ちゃんみたいにピンク色のがいいなあ・・・」
「学校にしてゆけないでしょ?構わないの」
「肇くんに逢う時につけるから」
「そうか・・・もうそんな事思っているんだね・・・前は反対したけど、碧の思いは誰にも止められないかも知れないね」
「ほんと!お姉ちゃん怒らないの?」
「今日ね、碧にも話したでしょ、中学の時付き合っていた先輩のこと」
「嫌な事された人のこと?」
「そう、その先輩早稲田にいたの。バッタリ会って・・・土下座して謝られたの。それで、まだ好きだから付き合って欲しいって言われたのよ」
「それで気持ちが落ち込んでいたのね。嫌だったから、それとも自分の気持ちに未練が残っていたから、悲しくなったの?」
「碧は相変わらず良く解かるのね・・・未練じゃないけど、昔の優しい先輩を思い出して切なくなったの。許せないけど、ゆっくり時間をかければ許してあげられるかも知れないって・・・そのことで気持ちが揺れたの」
「碧は・・・付き合えばいいと思うよ。お姉ちゃん好きだもの、その人のこと・・・すぐに分かったよ」
「碧・・・」

怖いぐらいに気持ちを見透かされた。確かにそうだ。された事は辛い事だったが、それまでは大好きだった人に違いなかった。

碧は弥生が早く上松と仲良くなって欲しいと願った。自分のことを心から心配してくれた姉に恩返しをしなければ・・・と思った。
「お姉ちゃん、今度いつその人と逢うの?」
「まだ逢えないよ碧。決められないから・・・気持が」
「ねえ、おせっかいだけど・・・碧も連れていって。一緒に逢えば怖くないよ」
「そんな事向こうが嫌がるよ・・・」
「自然にさあ・・・同じ方向に出かけるから連れてきた!って言えばいいじゃない」
「碧・・・何考えているの?」
「お姉ちゃん・・・逢わなきゃ始まらないよ。その人なんていう名前?」
「上松さん」
「碧が上松さんにお姉ちゃんのこと絶対にいじめないって約束させるから」
「そんな事言いたいの?なんか保護者連れて逢うみたいじゃないのよ」
「小さな保護者だよ。碧はこれでも・・・正義の味方なんだから」
「あらあら、やっぱり男の子だったのね・・・どうりで強いと思った、ハハハ・・・」
「さっきブラ見せたでしょ!何で男の子なの!いじわるが直ってない!お姉ちゃんは」
「直ぐに怒るね・・・相変わらず。笑って受け流せばいいのに・・・でもなんか私たちらしい会話に戻ったね。碧の気持とっても嬉しいよ。そうしよう・・・か」
「うん、そうしよう・・・何時にする?」
「明日学校で約束してくるから決まったら言うね」

弥生はじっと碧を見た。確かに大きくなって女らしくなってきたと感じた。身長ももう直ぐ自分と同じぐらいになりそうだし、あっという間に胸だって大きくなるだろう。身体が変化しても気持は変わらないでずっとこのままでいて欲しいと思えた。

「碧、部屋にいるの?」次の日学校から帰ってきた弥生は上松との約束を知らせようと呼んだ。
「今行くから・・・」下に降りてきて、弥生から今度の日曜日に逢うからと聞かされた。
「楽しみ・・・お姉ちゃん何着てゆくの?」
「一緒にミニのワンピー着てゆこうか?」
「うん、そうしよう」

由紀恵は珍しく二人で揃って出かけるのをみて尋ねた。
「どうしたの?お買い物に行くの」
「秘密だよママ。ねえお姉ちゃん?」
「そうそう内緒のこと、フフフ・・・心配しないでいいからね。ちゃんと連れて帰るから」
「当たり前でしょ!兄弟なんだから・・・」
「ママ。姉妹だよ正確には」
「上げ足を取らないで!お揃いの服にしたのね。こうしてみればあなた達似てきたわね・・・やっぱり、兄弟・・・いや姉妹だね」
「ほんと!似てる?」碧はそう言われて嬉しかった。
「体付きも似てきたし・・・目元なんかそっくりよ」
二人で顔を見合わせた。
茶色く長い髪の毛、少し青みがかった瞳、ふっくらとした頬骨、抜けるような白い肌、そして高い鼻。大人になるに連れて父親の持つ遺伝子が特徴的になってきた。

「じゃあ、行って来ます」二人は待ち合わせのハチ公前へと出かけて言った。
駅に着くまで碧は弥生と手を繋いでいた。「中学二年生なのに恥ずかしくないの?」弥生はそう聞いたが、碧は首を横に振って、「お姉ちゃんが好きだから」と答えて手を握った。拒否することもなく弥生もぎゅっと握り締めた。

心地よい風が吹く温かい日差しの中、お揃いの姿で歩く二人を男性はみんな振り返り見ていた。碧には大人の色気がある弥生が羨ましかった。弥生にはこれから綺麗になるだろう容姿が羨ましかった。そして二人を強く結び付けていたのは、相手を思う気持とこの世に二人しかいない姉妹だという強い気持だった。

日曜日のハチ公前は、待ち合わせの人でとても混雑していた。
「どこにいるかな・・・」弥生は探した。やがて奥の方で手を振る上松を見つけた。
「やあ、来てくれてありがとう・・・うん?妹さんと一緒なの?」
「そう、こっちに約束があるからと言ったから一緒に来たの。少しぐらい構わないでしょ?」
「もちろんだよ・・・名前なんて言うの?おれ上松です」
「碧です。初めまして」
「こちらこそ・・・へえ〜弥生も可愛いけど・・・碧ちゃん、可愛すぎるよ!幾つなの?」
「13です」
「中二か・・・そうか・・・知り合ったときと同じか・・・」

「先輩、今日は妹と帰らないといけないからあまり長く逢えないの。ゴメンなさいね」
「いいよ、こうしてまた逢えるだけで俺は嬉しいから。碧ちゃんにも逢えたし・・・それと、先輩って呼ぶのは止せよ。名前で呼んでくれ」
「俊一さん・・・でいいのね?」
「うん、俺は弥生って呼び捨てにするよ。構わないだろう?」
「はい・・・」

「お姉ちゃん、私時間潰してくるから二人でお話して。終わったらメールするから・・・じゃあ、上松さんよろしくお願いします」
「行くのか?一人で大丈夫か?気をつけろよ、この辺は変な奴多いから」
「ありがとうございます。優しいのねお兄ちゃんは」
「お兄ちゃん?・・・か。ハハハ・・・そうだな、6歳も上だからな」
「違うよ。お兄ちゃんになるかも知れないから、そう呼んだの」

弥生は驚いて、
「何言ってるの!俊一さん困っているじゃないの!」
「弥生・・・いいんだ。もう離れないから・・・そう呼んでくれても。こんな可愛い妹が欲しかったし」
「やっぱりいい人だ・・・碧が思っていた通り・・・お姉ちゃん、良かったね」