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飛鳥川 葵
飛鳥川 葵
novelistID. 31338
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クロス  第六章 ~RAGE~

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クロスが再び凶行に出た。今度の被害者は呑み屋帰りの軍人、セシル・バーコフ一等兵だった。勧告を守って丸腰だったが、軍服を着ていたために狙われたようだった。
 会議は荒れた。軍人が襲われたために軍が介入してきたのだ。軍の情報局員、クリス・ヘンダーソンとジャック・オブライエンが会議に割って入ってきて、一枚の紙を見せた。軍は戒厳令を出して、捜査権の移譲を申し出てきたのだ。
 一連の事件の資料は全て軍に没収された。刑事達は怒声を上げたり落胆したりしていた。ロンも例外ではなかった。自分のヤマを取り上げられたのだ。椅子に踏ん反り返り、机を始終蹴っていた。
「カーター刑事、これで終わりなんでしょうか」
「係長がそう言ったろ。終わったんだよ!」
「でもクロスはまだ続ける気ですよ」
「あぁ、そうだろうよ。奴はやめねぇよ」
「極秘に捜査できないでしょうか」
 ロンはやる気でいたので、デービス刑事の申し出は嬉しかった。だがもう次の事件を割り振られてしまった以上、クロスに専念するコトは不可能だった。ロンはオール・トレード商会を思い浮かべていた。奴等ならなんとかしてくれるかもしれない。
「行くぞ」
「どこへですか」
「オール・トレード商会だ」

 ロンとデービス刑事はオール・トレード商会のリビングにいた。ビリーが出した紅茶とスコーンをご馳走になりながら、ロンは一連の事件を順を追って説明した。五件の事件、クロスなる人物、軍の介入、洗いざらい話した。アレックスはそれを大人しく聞いていた。事態は思ったよりややこしくなっていると感じた。
「で、どうしてもらいたいんだ」
「奴を捕まえてもらいたい」
「だが奴は神出鬼没なんだろう? 軍も介入してるし」
「介入してるこそなんだ。軍に知り合いいるんだろう? なんとかできねぇか」
「なんとかって。情報局に知り合いはいるが、情報を引き出せるかは分からんぞ」
「奴はまだまだ殺る気だ。なんとか終わらせねぇと立つ瀬がねぇよ」
「タダでは安請け合いできないヤマだぞ。ややこしいコトになっているんだから」
「オレの金でディータの酒、全部呑んでくれても構わねぇから。頼む。この通りだ」
「私からもお願いします、ウィンタースさん」
 アレックスはため息をついた。最初は手放しで喜んでいたが、思ったより難事件なので二の足を踏んでしまう。だがロンの頼みだ。今後のコトを考えて、受けるよりしようがない。
「分かった。その代わり今後この件には一切関わるな。私が独自でやらせてもらう」
「分かった。恩に着るぜ」
 そう言うと二人は席を立とうとした。
「何か忘れてないか」
「なんだ?」
「前金だよ、前金」
「あぁ、そうか。じゃあ、これで」
 ロンは一万バックス紙幣を一枚差し出したが、アレックスはもっと要求した。仕方なく更に二枚差し出す。おかげで財布は空になったが、アレックスは納得して、帰ってもいいと言った。