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篠原 めい3

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りんは、マメな性格なので買ってきたものを、そのまんま机に置くようなことはしない。ちゃんと皿に移すぐらいのことはする。で、それを用意して戻ったら、聞きたくない話になっていて、早々に酒の肴だけテーブルに置くと台所へ退散した。あの話が終わるまでは、台所で勝手に酒を飲む。

「拉致なのに殺人未遂って、どういうこと? 」

「ああ、それはね。遺族の方たちが、篠原君の言うことと議員からの情報に食い違いがあることに気付いて確認して、篠原君のほうが正しいって判ったから、和解したからよ。遺族の怒りの矛先は、当然、議員に向くでしょ? それが、篠原君の所為だと八つ当たりをしたわけ。殺すつもりはなかったんでしょうけど。」

 だいたい、新造艦建造プロジェクトの責任者が、VFの元技術部主任で、今回の謀反に参加したのは、一部で有名な話だ。それすら知らずにいたのだから、遺族の方も、かなり切羽詰っていたのだろう。その謝罪に赴いていた鈴村夫妻がいてくれたから、その暴行も阻止してくれた。板橋の母親と鈴村夫人で、議員を突き飛ばして、篠原を庇ってくれた、という話も続けて、雪乃は、二缶目を空にした。

「雲隠れするような生き物だったら、こんなに心配しなくていいのよ。ほんと、雲隠れさせておいてよ? 雪乃。」

「無理なことを言うわね? そんなのできるわけがないでしょう? 退院したら、すぐに職場復帰するつもりだと思う。」

「わあー相変わらず、おバカさん全開。」

「あなたも、人のことは言えないと思うけど? 」

 愛しい男が謀反を起こし、それについていっためいも、大概におバカさんだ、と、雪乃は笑う。

「そっくりそのまま返してあげる。篠原が行くからついていく、って理由は、私より酷くない? 」

「しょうがないでしょ? 篠原君、私がいないと生きていけないんだから。」

 ごちそうさま、と、めいは大笑いして台所へ声をかけに走る。血なまぐさい話は終わったので、りんを呼び戻した。あっちは、勝手知ったるなんとやらで、勝手に高い酒で一人で酒盛りをしていた。

「りん、説明して。」

「ようやく終わり? 俺に聞かせるなよ。」

 グラスと酒瓶を手にして、りんも居間に移動する。大して難しいことではない。ただ、人間は何人か必要だというぐらいのことだ。

「IDカード自体には所在を知らせるビーコンはない。携帯端末が、それを担っているからさ。それから小額の支払に関しては、生体認証もない。カードだけで決済ができる。さて、それを鑑みた場合、答えは出てるだろ? 」

 ニヤニヤとりんは、女性陣ふたりを目の前に口元を歪めている。やんちゃな悪戯小僧は、やはりそういうことに詳しい。





 数日後、五代が官舎とは別に借りているマンションに男女ふたりがやってきた。どちらもサングラスをかけている。マンションの前には、張り込みとわかる黒い車が鎮座している。それを横目にエレベーターで上階へ上がる。部屋に辿り着くと、めいが待っていた。

「お疲れ様。」

 扉を閉めたら、奥から五代も顔を出す。結婚はしていないが、同居は始めた。ここで引き篭もっている限りは、監視役のほうも何も言ってこない。そこに目をつけた。官舎では、知り合いが多い代わりに敵も多い。変装なんぞしたら見破られる可能性が高いが、民間のマンションなんてものは、となりに誰が住んでいるのかも把握していない無関心な世界で都合がいい。

「手伝わせてごめん、雪乃。」

 五代も居間に戻りつつ謝る。篠原の許へ通う女性ということになると、雪乃か愛しかいない。愛は休みが不定期だし、こんなことで手を煩わせるわけにもいかないから、必然的に雪乃しかいなかった。

「こちらこそ。なかなか監視を外せなくて、ごめんなさい。長官が手を回してくれているのだけど。」

「それは仕方がない。」

「さあて、とりあえず、本日の行動予定の説明をさせてもらう。五代、めい、聞いてくれ。」

 サングラスを外したりんも居間に入ってくる。五代とめいを無事に、ここから監視抜きで脱出させる方法の説明が始まる。




 五代が住むマンションは、裏口もあるが、きちんと表玄関から男女は出てきた。滞在時間は一時間。どちらもサングラスをしているし、軽いコートを着ている。男のほうは毛糸の帽子を目深に被り、金髪の長い髪の女性と話をしながら通りを進んでいく。黒い車からの反応はない。
 駅まで、そのまま辿り着き、そこからは電車に乗り込む。近くのターミナル駅で降りた。その東側の出口に待っていた知り合いを見つけて手を挙げて近寄る。
「・・・なるほどな。」
 その男が差し出したIDカードと携帯端末と、帽子の男が懐から取り出したIDカードと携帯端末を交換する。
「そうしていると誰かわからないな。」
「そのための変装なんだそうだ。」
「映画でも観て来るから病院を出たら携帯を鳴らしてくれ。・・・・雪乃、あまり叱るなよ? あいつ、ヘロヘロだからな。」
「わかってるわ。ソフトに説教してくるから。」
 サングラスをずらして、ぺろっと舌を出して笑っているのは雪乃ではない。めいのほうだ。そして、帽子を被っているのは五代である。各人のIDは、ある程度まで追跡可能なものだ。どこかで支払いをすれば居場所は確定する。だが、高額でなければ、支払いはカードだけをチェックするだけで、当人であるという生体認証まではチェックされない。五代の家にりんと雪乃が遊びに行くのは、友人だから問題はない。ただし、りんは病院に出向くことはないから、そこからは橘のIDカードで動くほうが不審ではない。そういうわけで、二段階のカードの交換を計画した。わざわざ、金髪のウィッグを準備したのは監視者を誤魔化すためだ。携帯端末はGPS機能が搭載されているから、各人のカードと同様に交換する。これで連絡すれば、橘からりんへの連絡という記録しか残らない。
「ここから、タクシーを使え。場所は、これ。」
 橘が場所のメモも渡す。橘はいつもそういう経路だから、ここで落ち合った。記録に残るものが普段通りであれば、チェックも素通りになる。
「すみません、休日に。」
「気になるだろ? 俺もりんも暇だからいいさ。」
 りんが病院に行かないのは有名なことだから、どうしても橘のIDカードが必要だった。逆に、五代を個人的に訪問するほど親しいわけではないから、そこはりんのカードだ。帰りは、この逆の順路になる。外出が難しい五代のために買い物をして戻って来たという体裁のため、どこかで買い物もしてくる予定だ。現在、五代のマンションにはりんと雪乃が待機している。そこに、五代とめいは存在している。カードの情報では、そうなっているからだ。
「時間はあまりないぞ。さっさと行け。」
 橘は、そのまま人ごみに消えていく。時間としては二時間というところだ。五代たちも、急ぎ足でタクシー乗り場へ足を進めた。




作品名:篠原 めい3 作家名:篠義