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1章 ハリーの好物



いつもドラコは、怒ってばかりいた。
きつい眼差しに、横柄な態度。
相手を自分より下に見下げて、辛らつな言葉を吐く。
顔の作りは確かにひどく整ってはいるが、それを差し引いても余りあるほどの、容赦ない毒を持った意地の悪い性格だ。
「それがかわいくて仕方がない」という、自分でも理解しがたい気持ちになったのは、なぜだか分からなかった。
あの嫌味な態度は、いつも自分にばかりに、向けられていたせいかもしれない。

彼はめったに怒ることも、激昂することもなかった。
ホグワーツ内で優美な仕草で杖を振り、つねに薄っすらと笑顔を持って対応し、揉め事のひとつも起こさない性格だ。
貴族の濃い血を受け継ぐ彼は、誰にも引けを取らないほど上質のマナーを身に付けていたし、感情を表さず、つねにスマートに物事をこなしていた。
ドラコは年齢の割にひどく大人びた対応が出来る、数少ない生徒のひとりだった。
幼い頃から躾けられたのか、学生らしいふざけたことは一切せずに、逆にそんな子供じみたことをする生徒を少し小ばかにしている瞳で見ていた。
「自分は彼らとは違う」というエリート意識は、少し可愛げがないかもしれない。
逆に煙たがられて、誰もドラコに気安く話しかけたりはしなかったし、彼自身もそんな馴れ馴れしいを望んではいなかった。
ドラコはどんな教授陣からも一目は置かれているほど、秀でた優秀な生徒でもあることを誇りにしていた。


――だけどそれは、ハリー以外の場合のみだ。


彼が目の前に入ると、ドラコは駆け寄ってきて、信じられないくらい容赦ない嫌味を言ったり、喧嘩をしかけたりしてきた。
ひどく意地が悪い声で、きつい釣り上がった薄灰色の瞳で、横柄に腕を組み、胸を反らせて威嚇してくる。
それがハリーと敵対するときのポーズだった。
ドラコはこれで相手が怖気づくとか、ひるんでうろたえるとばかり思っているのだろう。
全くそれが逆の効果になっていることに、鈍いドラコは気づかない。

ハリーは目の前に立っている相手をうっとりと、まるで恋人と再会しているように見つめていた。
きついセリフは愛の言葉に、鋭い眼差しは潤んだ瞳に、反らしたからだは抱きしめられるのを待っているようにしか思えてならない。
いつもドラコはハリーにだけ、感情をあらわにして、子供のように突っかかってきた。
それがひどくハリーには嬉しくてたまらなかった。

自分のことだけを見て考えてくれるならば、相手は誰でもよかったのかもしれないと思うこともある。
だから、相手が男だろうが、自分のことを心底嫌っている相手だろうが、そんなことは関係なかった。


朝の食堂で朝食を食べていると、後ろのスリザリンの席から現れたドラコは、いつものように嫌味を言い始めた。
「英雄殿は大食間だな。そんなもよく、モクモグと食べられるものだな。やはり、バカの大食いというのは、……うぁっ!」
最後まで言い終わらないうちに、強引にハリーに腕をつかまれ、引っ張られる。
思いもしなかった行動にドラコは、前に倒れこみそうになった。

テーブルにつんのめり、ハリーに強く引かれて手をとられ、彼のとなりの椅子に座ってしまった。
ショックで状況がよく分からず、少しぼんやりとしたドラコは、となりで笑っているハリーに気づいて、カッと怒りが湧いてきて、鋭く怒鳴った。
「いったい、なんのつもりだ!」
ハリーはその声に動ずることもなく、相手にカップを差し出した。
「おいしいよ、これ!やっぱ、朝はポタージュだよね。君も飲みなよ」
笑いながらそれをドラコの手に握らせる。
「このコーンの甘さがなんとも、いい感じで、これをパンに付けると、メチャうまでさー♪」
見ると、ハリーのカップには、ふやけたパンが浮いている。
眉間にしわを寄せて、マルフォイはつぶやいた。
「そういう食べ方は、マナーが悪いぞ」
「ふーん、そうなんだ。まっ、仕方ないよ。僕は君と違って、育ちが悪いからなー。食べ物があれば、それでいいだけだよ。食べられるだけまし。食べ物がないのより、ずっとましだよ」
鼻歌を歌いながら、カップの中身をスプーンでぐちゃぐちゃにかき回した。

(うぇっ……)
ドラコは眉間にしわを寄せる。
それはあまりにも見てくれが悪くて、人間の食べ物ではないような気がしてきたからだ。
それを平気で食べている相手が信じられない。
あまりにもドラコはじっと相手のカップを見詰めていたので、顔を上げたハリーと視線がかち合ってしまった。
ハリーはニコーッとまるで邪気のない笑顔で笑う姿に、ドラコは余計に不気味見えてしまう。

(いやな予感がする!)
慌ててドラコは、さっきハリーから押し付けられたカップを取り、それに口をつけた。
そうしなければ、あのゲロような物体を、食べさせられそうな予感がしたからだ。

ドラコが必死でゴクゴク飲むのを、ハリーは目を細め満足そうに見ている。
「そうそう、朝はちゃんと食べなきゃね。だいたい君は、朝食を食べなさすぎるよ。腹がへっているから、イライラするんだよ」
「大きなお世話だっ!」
飲み干したカップをドンと勢いよく置くと、ドラコにしては乱暴な仕草で立ち上がった。

「いつでも朝食のとき、ここに来てもいいからね。君のためにこの横を空けておくから」
ハリーは嬉しそうに、ひらひらと手を振った。
ドラコは鼻にシワを寄せたまま、無言で立ち去ってしまったのに、ハリーの笑顔はずっと続いたまんまだ。

鼻歌すら歌いそうな親友の姿に、隣に座っていたロンが、げんなりした顔でため息をひとつついて首を横に振ったのだった。


作品名:T&J 作家名:sabure