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予言者

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予言者



 そこは柿崎裕道が初めて入った小さな喫茶店だった。カウンター席には四人しか座れない。あとは四人用のボックス席があるだけなので、客として迎えられるのは合計八名である。狭い店に大きなジュークボックスがあり、巨大なスピーカーシステムがあり、ゴムの木があり、午後四時をさしている柱時計があり、油絵がある。壁や椅子は濃いグリーンで、それ以外はダークブラウンだから、良く云えば落ち着いた雰囲気と云える。
「ここに座ってください」
ボックス席の若くて可愛い女性が、彼女の前の席を指定した。柿崎が云われた通りに座った理由は、ほかに誰も居ないからだった。逆らって険悪なムードになることは避けたかった。
「来週の土曜日の朝、火山が噴火するよ」
そう云って、少女は柿崎に向かって微笑んだ。
「そうでしょう。ぼくもそう思っていました」
「あなたも?」
「十月二十二日の午前八時二十七分に、最初の爆発があると思います」
「見に行こうね。一緒に」
「冗談はこれくらいにして、きみの名前は?」
作品名:予言者 作家名:マナーモード