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篠原 めい1

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長い航海から帰ってきた岡田さんは上機嫌だった。とてもいい報せがあるんだぞ、と、僕に、その機嫌の良い理由を教えてくれた。とうとう長年付き合っていたカップルが結婚することになったという報告だった。

「とうとう、あのじゃじゃ馬も年貢の納め時だ。この休みの間に式をすることになったから、おまえも出席しろ。」

「出席してもいいんですか?」

「そりゃそうだろう。おまえの兄貴分と姉貴分の結婚式だ。弟分のおまえが祝わないで、どうするんだ。」

 次の航海から、五代は艦長に就任することになったので、けじめをつけることにしたとのことだ。

「じゃあ、めいはVFに乗艦できなくなるんじゃ・・・」

「ああ、だから結婚式はするが籍は入れないという姑息な手段を使うんだとさ。しばらくは、一緒に居たいんだろう。」

 夫婦になると、同じ艦勤務はできなくなるきまりがあるので、そういうことになっていると、岡田さんは苦笑する。まあ、独り者ばかりの集団に夫婦ものが混ざるのは艦の士気にも関わることだが、以前から公然と付き合っている相手同士なのだから、VFの人間は、何を今更と笑うぐらいだ。散々、惚気られていた僕としても、それは喜ばしいことだ。めいは、岡田さんの知り合いで旧プロジェクトの頃から僕も知っていた。航宙士の資格を持っているし、他にもいろいろな資格を持っている女性だった。同じ艦に勤務したら、生活環境班の主任とメインブリッジのレーダー担当に収まっていて、生活態度の疎かだった僕は、めいに散々にボコボコにされた。

「メシは大事だと何度、教えたら気が済むの? 連行よっっ。」

 と、何度も技術部の部屋から引きずり出され、食事や睡眠を強要された。そういう女性だが、とても面倒見のいい優しい人でもあった。少し年上だったので、「私は、あんたの姉なのよ。だから、私の言うことには頷け。」 などと暴言を吐きつつ、僕の相手をしていた。岡田さんや五代が僕の兄みたいなものだったから、そういうことになっていても笑っているばかりで、めいを止めなかった。もともと、岡田さんもめいは妹分として接していたからもあったし、五代が気になっていためいは、僕を接点にして五代との接触も計っていたのだ。そして、めいの念願は叶って、五代という恋人かできて結婚することになった。それは、とても喜ばしい。

「ちゃんと見てやらないとな。あいつの一番幸せな姿だ。花嫁っていうのは一番綺麗に見えるもんだからな。」

「そうですね。」

 本当に岡田さんは嬉しくて仕方がなかったのか、ずっと顔が緩んでいた。若い頃からのめいを知っている岡田さんにしたら、その成長して幸せになることが嬉しかったのだろう。





 太陽系外周で傍受された通信のおかげで、予定は狂いに狂った。通信についての対処の会議に出席して新造艦の試験航行のスケジュールに、その確認作業も追加してもらえないか、と、僕と麟さんが会議にオブザーバーとして出席して提案したが、一蹴された。どこから発信されているのかも判別できない通信に信憑性などあるものか、という議長の言葉に、僕らと一緒に会議に出席していた五代もキレた。通信の内容は、かなり真面目なものだったし、太陽系から離れた場所からの発信であるのも判明していた。

 つまり、何かは起こっているのだ。地球に直接関係がないことに、予算はつけられないとあしらわれた。キレた五代のほうは、そういうことならば、と、VFでの無断発進を計画してしまった。それが結婚式の十日前のことで、準備が進んで謀反と決め付けられて発進したのが、結婚式前日。僕が合流した時、きちんとめいはVFに搭乗していた。後から遅れて飛び込んだ僕のところへ走って来て、慌てて生活環境部の部屋に隠そうとした。岡田さんから、僕は搭乗拒否を食らっていて、万が一にでも僕が乗り込もうとしたら、追い返せ、と、搭乗口やメインスタッフの人間は命じられていたらしい。だから、見つからないようにめいは、僕を隠そうとした。だが、岡田さんも格納庫へ飛び込んできて、すぐに見つかった。

「それは、うちの人間じゃない。さっさと追い出せ。」

「違います。これは、捨て犬を私が拾ったんです。だから、私のペットですからっっ。名前はポチですっっ。」

 ものすごい理由で、めいは僕を庇った。すぐに、雪乃が来て、さらに追い出せない理由を述べてくれてから、めいにデコピンをしていた。新造艦に対する妨害工作をしてきた僕は、降りたら確実に逮捕されることになっていた。さすがに岡田さんも、追い出せないと判断したけど、いろいろと説教されて叱られた。

「本当に、おまえらはロクでもない。」

 技術部の部屋で二人きりになってから、岡田さんは大きく息を吐いた。ぶつぶつと小言を続けてから、「どうして、こんな時期を狙って出航するんだ。」 と、頭を掻いた。岡田さんは楽しみにしていためいの花嫁姿が見れなくて落胆していたのだ。もう少し時間があれば、または、穏やかな説得をしていれば、こんな緊急発進をすることはなかったし、めいも一番幸せで綺麗な姿になれたからだ。

「・・・あの・・・岡田さん・・・・」

「あんなに楽しみにしていたのに。こんなことになるなんて・・・・あいつら、何か悪いものでも憑いてるんじゃないか。」

「・・・戻ったらやればいいと思うんですが? 」

 確かに、明日の結婚式は水の泡になった。だが、この騒ぎが静まれば、また落ち着いてできることだ。そう言ったら、岡田さんは困ったようなおかしいような複雑な顔で僕の頭を撫でた。

「まあ、そういうことなんだけどな。・・・・・おまえも、ほんと・・・・どうして戻ってくるかなあ。兄の心弟知らずばかりだ。」

「すいません。でも・・・・みんなが行くのなら、僕も手伝いたいと思いました。」

 VFから別の仕事につけられていた僕は、この発進には付き合いたいと駆けつけた。どう考えても五代の主張は間違っていなかったし、今後、その通信の情報を確定させれば、地球にも必要な情報と生り得ると、僕自身も判断したからだ。何よりVFのスタッフの手伝いがしたかった。

「しょうがないから乗艦は許可するが、絶対に無茶したり怪我するような危険なことはしてくれるなよ? 」

「・・・はい・・・・」

「危なかったら逃げろ。」

「それは無理でしょう。」

「無理でも、そうしてくれ。」

「んー、一応、了解。」

 許可が下りたので、へらっと僕が笑ったら、岡田さんに睨まれた。それから、ゴチンと拳骨が落ちてくる。かなり本気だったので、痛くて頭を抱えて蹲っていたら、めいが部屋に飛び込んできた。そして、僕の腕を掴んで、「ポチの回収に来ました。」 と、部屋から連れ出してメインブリッジへ走ろうとした。

「めいっっ、おまえにも言いたいことはあるんだが? 」

「ポチも私も降りません。どっちも大切なご主人様と一緒に居たいんです。以上。」

「それ、ポチじゃなくて、うちの主任に戻ったぞ。」

「どっちもいいんです。ポチでも篠原でも。とりあえず、メインブリッジに連行します。そろそろ成層圏突破しますからメインスタッフが必要です。」
作品名:篠原 めい1 作家名:篠義