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飛鳥川 葵
飛鳥川 葵
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クロス 第二章 ~TRY~

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昼食後、ビリーはマルティーノ通りの中央広場にいた。靴磨きをしてもらうため、マラキーを探していた。実を言うと、マラキーは情報屋だった。広場の角が彼の指定席だった。まだ来ていないようなので、広場の大噴水に腰を掛けて待つコトにする。夏場ならば子供達で溢れかえる大噴水も、冬場なのでさっぱりだった。
 平和なのはいいコトだ。アレックスは仕事が来ないので嫌がるが、ビリーはのんびりと過ごしていたい。朝昼晩の食事を作って、掃除をして、洗濯をして、花の世話をしてのんびりとしていたい。仕事なら簡単なものでいい。なんでも屋なので平凡な仕事もやって来る。どこそこで買い物を手伝って欲しいとか、電球が切れたから替えて欲しいとか、そういった類のものもある。そういうのでいい。誰かの役に立つ仕事がいい。大きなヤマはいらない。誰かはぶうぶう不平を言うが、ビリーは誰かの役に立ちたいのだ。自分がバイオロイドという中途半端な生き物であるが故の悩みだった。自分の存在意義が欲しいと思うのは罪だろうか。
 ぼんやりとそんなコトを考えていたらマラキーが現れた。早速靴磨きをしてもらいに行く。
「こんにちは」
「おや、ビリー。久し振り。念入りに磨いておくかね?」
「お願いします」
 マラキーは靴墨とブラシにストッキングを取り出して、泥を落としてから磨き始めた。
「今日も綺麗に晴れましたねぇ」
「おかげで冷えて堪らんよ」
「そうですね。私には外気温を感じるコトができないので残念です」
「そういやあんた、難儀な体しとるもんなぁ」
 ビリーは苦笑した。マラキーは自分がバイオロイドだというコトを知っている。情報屋と信頼関係を築くにあたって、隠し事はいけないと思って告白した。最初は面食らっていたが、普通に接してくれている。ありがたいコトだ。
「最近何かニュースありましたか」
「やっぱりそう来たかい」
「すみません。親分がデカいヤマやりたがっていて」
「なんだかよく分からんが、警察の連中、ピリピリしとるわい」
「ピリピリ?」
「なんぞ厄介な事件でも起きたんじゃろ。そこら中でデカを見るわい。ワシんとこにも聞き込みに来おった」
「なんて?」
「最近怪しいガンマンを見なかったか、とな」
「ガンマン……。なんでしょうね。親分が喜びそうなヤマな気がしてなりません」
「そうだな。ほい、もう片足」
 言われた通りに足を代える。怪しいガンマンってなんだろう。銃撃事件でも起きたのだろうか。ニュースでは一言も言ってなかった。
「ニュースでは何も言ってませんでしたよ」
「箝口令でも敷かれとるんじゃないかね」
「それはビッグニュースだ。ロンは何もないと言ってました」
「ロン・カーターかね。ワシんとこに来たのは奴じゃよ。まぁ、普通のデカは来ないわなぁ」
「他に何か言っていましたか」
「銃を持って暗い夜道を一人で歩くな、と言っておったの。残念ながら、そんな物騒なもん持っとりゃせん」
「そうですか。マンハントでもあったんでしょうかねぇ」
「物騒な話じゃわい。ほい、完了。ピカピカじゃ」
「ありがとうございます。じゃあ、これ」
 マラキーは出された紙幣を見て驚いた。千バックス紙幣が三枚もあったのだ。靴磨きの相場の十倍だ。
「いいのかね」
「いいですよ。情報料ってコトで割り切りましょう」
「そういうコトなら」
 ビリーはマラキーに靴磨きの礼を言って立ち上がった。
 次は中央広場の西にある歓楽街クラウディア通り、通称レインボー・ストリートに向かった。名の由来は、この通りの煌びやかなネオンの洪水である。
 レインボー・ストリートはどこも閉まっていた。夜の街だからしようがない。ストリートの中程にあるクラブ・ダンテも閉まっていた。扉を叩くと、中から眠たそうな顔の冴えない男が出てきた。ここのサンドイッチマンだ。
「ヨハンはいますか」
「あぁ? ヨハン?」
「えぇ、そうです」
 扉が閉まった。しばらく待つコトにする。こういうコトはこの時間帯、この辺りではしょっちゅうだ。
「誰?」
 裏口の方から声がしたので、名を告げた。
「ビリー! 元気だった?」
 ヨハンはここの客引きだ。夜ごと女をクラブ・ダンテに誘(いざな)い、至福の時を与えるのが彼の使命だ。
「ヨハンこそ。こんな時間に訪ねてきてすみません」
「いいよ、いいよ。で、何? どした?」
「情報が欲しいんです」
「どんな?」
「なんでも。特に警察関連」
「警察ならさっき来たよ」
「何か言っていましたか」
「用心棒いるだろ? そいつに暗い夜道を一人で歩くなって。鼻で笑い飛ばしてたけどな、連中」
「そうですか。用心棒にだけですか?」
「そう、用心棒だけ。物騒なもん吊るしてるからじゃないかなぁ。安全週間かなんかのパフォーマンスじゃないの?」
「そうですか。ありがとうございます。少ないですけど、これ」
 ビリーは三千バックス差し出した。ヨハンはしばらく眺めていた。
「少ないね、ホント。しゃあないか。大した情報じゃないし」
「ごめんなさい。今、金欠なんです。親分が仕事選ぶものだから」
「相変わらずなんだね、アレックスは。また何かあったら連絡するよ」
「ありがとうございます。その時はもっと支払いますよ」
「おう。またな」
 ビリーはヨハンにもう一度礼を言って別れた。どうも警察は銃にこだわっているらしい。何故だろう。やはりマンハントだろうか。今一つ確証が持てないビリーは、もう一つ情報屋を当たってみるコトにした。
 一旦広場に戻り、少し西に歩く。マルティーノ通りの南側、花屋が建ち並ぶ内の三軒目のフローレンスに着いた。女主人のマリアが忙しく働いていた。大きな花飾りを作っているところだった。
「マリア、忙しいところごめんなさい」
「あら、ビリー。いらっしゃい。また新しいお花が御入用?」
「それもあるんですけど、その花飾りを作り終えるまで花を選んで待ってます。用件はそれから」
「そう、ありがとう。結婚式の二次会のお花飾り頼まれちゃって。それも急に。もうすぐ終わるから」
 マリアは忙しそうに、ああでもないこうでもないと、花を抜き差ししている。ビリーは今度部屋に飾る花を選ぶコトにした。
 冬だというのに店内には花が溢れかえっていた。きっと温室育ちの花なのだろう。ビリーは鉢植えにしようか、切り花にしようか迷っていた。花を育てるのは楽しい。世話をした分、より綺麗に咲くからだ。店内をぐるりと巡る。店頭には切り花が、壁には鉢植えが並んでいる。奥の作業台では、マリアが花飾りの出来映えをもう一度確かめている。
「ねぇ、あんた。これを大至急、ベローナまで届けに行ってくれないかしら」
 マリアが奥の部屋に向かって声を掛けた。のっそりと熊のような大男が現れた。旦那のリッキーだ。ビリーは軽く会釈をした。
「相変わらずほ細っこいのう。じゃあ、ちょっくらベローナまで行ってくらぁ」
 いってらっしゃいと二人が言う。ベローナは高級レストランだ。ビリーは一度も行ったコトがない。そんな所へリッキーが大きな花飾りを届けに行く。店の人はどんな顔をするのだろう。想像したらおかしくなって、思わずビリーはクスクスと笑ってしまった。
「いやぁねぇ。あんた何想像してんだか。さぁ、何が御入用?」