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ルック・湊(ルク主)

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喚起5



翌朝ルックは結局ここに来てからほとんど眠れてない、と思いつつ部屋を出た。
そうして皆で集まり、このグリンヒルから出ようと歩いていると、街の広場で大きな人だかりが出来ていた。
何事か、と遠くから様子をうかがうと湊とナナミ、フリックが聞いた事のある、だが二度と聞きたくない声が聞こえてきた。

「いいかぁ!よく聞けよ!ハイランドの皇子ルカ・ブライト様よりの布告だ!!元グリンヒルの市長代行テレーズを捕らえた者には2万ポッチの金と、ハイランド王国の市民権を与える!!!!」

ハイランドの一隊長、ラウドがそう叫んでいた。だが周りは信用できるか、とまだ疑心暗鬼である。

「大金と身の安全か・・・・・密告するやつが現れるのは時間の問題だな・・・」

フリックがそう呟いた時、ナナミが叫ぶように言った。

「う・・・嘘っ!嘘嘘っ!!」

ラウドがイライラとがなりたてているところに、白い軍服を着た歳若そうな、そう、青年よりもむしろ少年としか思えない男が近づいてきた。
そうしてラウドの前に立つと、おもむろに落ち着いた、張りのある声で言った。

「グリンヒルの市民の方々、聞いていただきたい。先日ここであった不法な市長代行探しの取り調べについては、すでにこちらで確認を行い、当事者には罰を与えている。」

するとラウドが憎々しげな顔をしたかと思うと顔をそらせていた。白い軍服の少年は続ける。

「これはハイランドの皇子ルカ・ブライト様からの正式な布告である。約束はこの首をかけても守る。ただし一つ条件がある。テレーズは必ず“生きたまま”捕らえてもらいたい。王国軍は死体に金を払う気はない。」

落ち着いた涼しげな顔立ちの少年は無表情だがはっきりとそう言った。テレーズを捕らえよと言う割に、命だけは救おうというつもりか、“生きたまま”と強調しながら。
それにより、集まっていた市民や兵士がざわざわとし出す。どうやらかなりぐらついている様子である。

「どうして?どうして??どうしてジョウイがあんなところに???」

ナナミはぼんやりとそう呟いてたかと思うと何を思ったか、群衆の中に入っていった。

「おいっ、待てっ!ちきしょう!これだからガキはっ!」

フリックが苦々しげに言う。

「追いかけないと・・・」

湊がそう言った。それによりフリック達は後を追いかける。

ルックはふと湊を見た。
・・・なんだ、今の抑揚のない声は・・・?それに。湊を見ると不思議なくらい無表情になっていた。いや、顔色だけは心なしか、青い。
・・・どうしたんだ・・・?
ナナミはといえば、群衆をかきわけ、前にまで出ていた。
それに気づいたラウドが驚いた顔をする。

「お前はっ。」

そこに湊がかけつけ、つぶやくように言った。

「・・・どうして・・・?ジョウイ・・・君は・・・」

ジョウイ、と声をかけられた白い軍服の少年は身体ごと、ふい、と違う方向を向けた。
ラウドが叫ぶ。

「おいっ、こいつらを捕らえろっ。こいつらは・・・」

するとどこからかフィッチャーの声がした。

「おい、みんな!!!そいつらを捕まえろ!!!スパイだ、スパイだぞ!!!!捕まえたら金がもらえるぞっ」

その声により、広場の群衆に混乱が起こった。それにまぎれて湊らは逃げた。ナナミはまだ心残りな様子だったがフリックにひっぱられ、同じく駆けだす。
とりあえず逃げながらもついでに無理やりででもテレーズを連れ出そう、と昨日の場所に向かう。途中王国軍の兵士達が襲ってくるが、難なく倒していく。ただ、湊とナナミは元気がなかった。ルックはかなり気になっていた。いったいどうしたっていうんだ・・・?
とりあえず森の一角までくると一旦呼吸を整える為に止まる。

「ど・・・どうして・・・ジョウイがどうして・・・」
「・・・。」

「フィッチャーの言っていた“切れ者の指揮官”てのはジョウイの事だったんだな。しかし、王国軍の軍団長におさまっているとは・・・。」

・・・ジョウイ・・・知り合い・・・?ルックは首をかしげた。

その後皆で小屋に入ると、テレーズとシンの他にニナまでいた。ニナはテレーズに早く逃げるよう説得しているところであった。
だがニナやフリック、ナナミの説得にもテレーズは首を縦に振らない。これ以上市民に迷惑をかけたくない、自分の身で混乱が収まるなら、とまで言い出す始末。そうして小屋から出ようとした。

「待てよ!そんな事させてたまるか!!すまないが・・・」

無理やりにでも連れ出そうとしたフリックに対して、テレーズは少しでも触れたら自らこの命をとざす、とまで言った。
そうして、お供します、と言ったシンとともに小屋から出る。
フリックはかなり憤っていた。

「どうして、死に急ぎやがる!生きてこそだろ!!!!」

ルックはフリックを見た。・・・そういえばフリックは恋人である女性を前の戦争で亡くしてたんだっけ・・・?

「だめ・・・死なせない!!あの人は・・・テレーズさんはがんばったのに・・・あんなに皆の為に戦ったのに・・・。食糧が少ないのは分かってたのよ!それでも・・・それでもミューズの兵士を見捨てたりしなかったのよ!!!そんな人を死なせたりできないっ」

ニナが辛そうに叫ぶと後を追うように出て行く。

「まだ・・・まだ・・・なんとかなるかもしれない。行きましょう、湊!!」

ナナミが言い、そして皆も後を追いかけた。学園にもどるとちょうどラウド達が捕らえようとしているところであった。
たくさんの王国軍を相手に戦う湊達に、テレーズは辛そうに言う。

「おねがい・・・私はもう・・・これ以上、皆に迷惑をかけたくはありません。」
「何を言ってるのよ!誰が、誰が迷惑だなんて言ったのよ!!ちょっと、あんたどきなさいよっ!」

そこにすごい剣幕でニナが現れた。後ろには大勢の市民や兵士がいる。ラウド達はついどいてしまう。

「だめです、テレーズさん、捕まったらだめ・・・・。」
「でも私が捕まれば、皆は・・・」
「それで喜ぶとでも!?テレーズさん、みんながあなたを信じて戦ったように、あなたも、みんなを信じて下さい!皆、皆あの戦いで傷ついたんです。あの負けで・・・自分達の手でグリンヒルを敗北に導いたあの戦いで・・・。それなのに、あなたを王国兵に引き渡したら、グリンヒルの市民はもう一度傷つかなければならないのですよ!!戦いに負けてこの街を失っても本当に失ってはいけないことがあるの・・・。それを失わせないで・・・下さい・・・お願い、テレーズさん・・・。」

ニナのその叫びを機に、後ろにいた市民や兵士達も一斉にテレーズを守れ、と叫び出す。
あまりの剣幕に、ラウドは一旦退いた。

「テレーズ様、このグリンヒルの市長はあなたしかいません!!早く、早く逃げて下さい!!」
「そうです、いつか、この街を取り戻して下さいっ。」

そうしてようやくテレーズは約束した。この地に・・・、この地を取り戻し、再びここに戻ってくる、と。
退いたラウドが本隊を率いてきた様子なので、湊達はその場から逃げる。グリンヒルの市民やミューズの兵士が力を合わせて時間稼ぎをしていてくれている間に。
作品名:ルック・湊(ルク主) 作家名:かなみ