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 虎徹さんにヒーローを辞めて欲しいか、そうでないか。そんな事を質問されたとしたら、答えは辞めて欲しくないの一択だ。だけれど、僕が辞めて欲しくないです!と泣きついたところで結局、もし、虎徹さんがヒーロー辞めるのを止める!なんて事を言ったとすれば、それは所謂僕の我侭を虎徹さんに叶えてもらってるという、そういう事になる気がして、そんな事は口に出せないでいる。
 実際問題、虎徹さんは辞めるって皆の前で言い切ってしまったし、挙句に僕の方もアレやこれで事後処理にも追われているのだから、正直引き止めるなんてそんな事を悠長にやってる余裕もなく、そして自分自身がこれからどうやっていけば良いのかすら、まだ良く分かってないのだから山積み問題が多すぎてどうしようもない。
 今、僕が出来るのはマーベリックの残したあれやこれやの事後処理を完了させて、ヒーローとしての仕事をして、それから自分の時間を作って、家に寝泊りをしている虎徹さんと残された時間の消費をする、という事だけだった。
 虎徹さんは、ヒーローを辞めたら実家に戻ると言っているから、結局このシュテルンビルトから居なくなってしまう。ヒーローの引退を決めた虎徹さんに「もう、こちらにはこれから居ないんですよね?」と聞いたとき、あの人は笑いながらそうだな、と答えて「実家に戻るからな」とそう言ったのだから、その事は間違いなかった。
 
 お別れ会と称した仲間内だけのパーティの席の話だ。
「十歳になる楓は実家に居るし、NEXTの養成学校に通わせるのは一先ず義務教育を終えてからの方が良さそうだし……な?」
そんな風に笑う虎徹さんは、ヒーローの顔と親の顔を両方持っている人だった。
虎徹さんのその声に、まあ、僕も大学卒業してからアカデミーに入りましたし、と言えば、目を丸くしてお前はすげーなーと虎徹さんは笑っていた。
「イケメンで、高学歴で、挙句に高収入で、羨ましいわ~」
 おどけて笑う虎徹さんに、貴方の学歴に関して僕は知りませんが同じヒーローで貴方もそこそこのイケメンなんじゃないんですか?なんて微笑めば笑い声が返ってきた。
「お世辞言っても、俺はなーんにも出せないから、そういうの言うなよ」
 けらけら、と笑う虎徹さんはそんな風に言いつつ、僕の頭を子どもか何かのようにぽんぽんと撫でると、でもありがとうと笑った。
 お世辞でもなんでもなく、思ったことを、と声に出そうとして虎徹さんは、ふっと視線で笑うと周りの皆を見回して一言声を上げた。
「長い間、楓……えっと俺の娘と一緒に居る機会もなかったし、俺がヒーロー辞めてもこの街にはお前等が居るし、安泰だと思ってる。これからもがんばってくれ」
 行き成り、そう声を上げた虎徹さんに、回りを見渡せばブルーローズが少しだけ唇をかみ締めて、でも引き止める事なく素直に頭を縦に振った。
 そんなブルーローズに、自分がどれだけ子ども染みて虎徹さんを引き止めたがっているんだか、と頭を振りつつ思わず笑うと、隣にいつの間にか居たファイヤー・エンブレムにふっと笑われた。
「どうしたの、ハンサム?」
 なんて、彼女らしい彼女なりの言葉掛けで言われた言葉に僕は頭を振るとなんでもないです、と答えたのだったが、彼女はふふふ……と笑って「なんでもない顔には見えないわ」とそんな声を上げる。結局のところ、彼女の態度に僕が肩を竦めれば、まあいいわ、と声が上がりそれで話は進むことも無かった。
 皆が盛り上がる中で、少しだけ離れてその話を見ていると、なんだか自分はどうしたらいいんだろうな、そんな事を思っていた。ヒーローに成り立ての頃の様に他のヒーロー達とビジネスとプライベート、なんて切り分けて付き合うなんて気持ちは無くなっていたのだけれども、今まで生きていた事や、両親の事、そしてマーベリックの事にウロボロスの事。両親の犯人を見つけるために、直線距離の延長線上にあるものだと思っていたその事柄は、意図的にマーベリックの手によって仕組まれた引かれたレールの様で、結局それを我武者羅にやってきた僕には、僕、という確固たる自分自身が無い気がして、そんな僕がこの場でどこか浮ついた存在に思えて、どうしてもその場に入れない、とそんな事を思いつつ、ワイングラスを手の中で遊ばせていた。
 そんな時だ、ふいに服の後ろを摘まれた気がして振り向くと、そこにはアポロンメディアのチーフメカニックである斉藤さんが居た。
「バーナビー」
 小さい声の彼の声は聞き取りにくいけれど、彼は確かに僕の名前を呼んだ。
「なんです?」
 僕と彼との身長差の所為でどうしても有能なメカニックが僕を見上げる様な形になる事が少しだけ気になって、向こうのソファーにでも座りませんか?と声を上げて、そちらに促せば、こくり、と頭を縦に振った斉藤さんは、ソファーに腰を掛けると一言だけ声を上げた。
「寂しくなるね」
 その言葉に、虎徹さんの事ですか?と声を上げれば、斉藤さんはポカンとした顔で僕を見る。それから数度瞬きをした。
「本気かい、バーナビー」
 小さく漏れる斉藤さんの声がそう言葉を紡いで、そうじゃないんですか?と僕が返せば君の事もだよ、と斉藤さんは声を上げた。
「僕は、君たちのスーツを対で作ったんだ。君も、タイガーも、ヒーローを辞めるってのは、少し、物悲しいね」
「スーツは無くならないじゃないですか」
「でも、それを着る人間が居なくなると、スーツは単なるガラクタ、そうでなければ思い出かオブジェになっちゃうね、僕はね、君たちがヒーローとして活躍している様が好きだよ」
 そう斉藤さんは肩を揺らして笑うと、みんながタイガーを忘れた事を覚えてるかい?と声を上げた。
その声にええ、と頭を軽く縦に振れば、ふと思い出すのは記憶が蘇ったあの瞬間の事だ。「バニーちゃん」と呼ばれるあの声がとても、癪で、今でもやっぱりたまに癪で。虎徹さんが付けてくれた愛称である「バニー」という名前の方ならいざ知らず、「Little-bunny」なんて子どもみたいな言い方にあの時は一気に腹が立って、兎に角腹が立ったのだ。あの時は本当にあの人をサマンサおばさん殺しの犯人だとしか思ってなかった僕は彼が僕の事をそう呼んで、思わずカッっとなった所まで思い出して思わずのた打ち回りそうな気持ちになる。知らない人に、「バニーちゃん」だなんて呼ばれたくなくて、思わず頭の中の沸点がこう、一気に気持ちの臨界点を突破したときのあの気持ち。それを思い出すと思わず本当に頭がどうにかなってしまいそうだった。
 そんな僕の内心を悟られないような顔で僕は斉藤さんに覚えていますよ、と声を上げれば、斉藤さんは僕はね、あの時ヒーローTVを見ていたんだ、と声を上げた。
 どこか照れくさそうなその声に斉藤さんを見れば、斉藤さんは手元の細いグラスを両手の中でころころと転がしていた。
「あの時だけじゃないけどね、ヒーローTVを見ていたのは」
 斉藤さんは尚も続ける。いつも、見ていた、と。自分が作ったスーツがどう動くかいつも見てる、と彼は言いつつ、出来るだけ中の人間に負担がないように、だけれど出来うる限りの最高のものを、と思って日々改良しているとそんな声を上げた。
作品名:Average value is a top! 作家名:いちき