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恋愛掌編集

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私と彼の致命的な齟齬


『夏奈が最近会ってくれないんだよ。』
『何か変なこと言ったんじゃないの?』
『分からないんだよ。同じ女性としてなんか分からないか?』
 そんなことを言われても、そんなことは同じ人間じゃないと分からないんじゃないかなと思う。私は『タイミングが合わなかったんじゃないかな。』と返した。
『そうかな。そうだったら良いな。』
 数秒してチャットに彼の書き込みが表示された。とりあえず彼はそう言うことにしておくと思う。本当なら『嫌われているんじゃないかな。』とメッセージを送ってやりたかった。
 私は彼が好きだった。そんな彼が恋人と別れるかも知れない時になるべく仲を取り持つようなことを本当は言いたくはなかった。けれど、彼が嫌だと思いそうなことを言う勇気もない。
『紺ちゃは好きな人とかいないのか?』
 紺ちゃというのは私のことで、私が紺野というハンドルネームを使っていたら仲良くなるうちに彼は「紺ちゃ」と呼ぶようになった。そう呼ばれるのは嬉しいけれども、彼にそう呼ばれる度に何か気恥ずかしい気持ちになってしまう。それはきっと私がそんな可愛らしい愛称とは無縁だったからだと思う。
『いるよ。』
 いますよ。今会話していますよ。彼は本当に気がついていないのだろうか。私はこういう話をする度に何だか胸が痛くなって彼がちょっと恨めしくなる。
 彼は私のことを気の合う友人としか考えてないと思う。でも、私はそんなことも彼に確かめられない。確かめなかったら、もしかしたら好きだって可能性も残っているって思えるからだ。
『告白しないの?』
『私はあいてに惚れさせて告白させようって決めてるんだ。そうすれば夏奈さんみたいに恋愛の主導権を取れるでしょ?』
『こ、怖いな……。』
 本当は伝える勇気がないだけなのだけれど、そんなことは言えなかった。でも本当に惚れてくれたら、私の本当のことを伝える事が出来るかも知れないと思う。
『紺ちゃって面白い考え方するよな。一度あって酒を飲んでみたい。』
『遠いから中々ね。』
 そういうことにしている。本当は会えないほどには遠くはないけれど、きっと彼は私を見れば嫌いになるだろう。
『一度ぐらいは会ってみたいな。』
『会ったら逆に残念かも知れないよ。』
『俺は紺ちゃの性格が良いと思ってるから見た目とかは別に。』
 そうだったら本当に良いのだけれど。
 私は自分の胸を確認する。膨らみなんてこれっぽっちもない。
 顔はそれなりに整っているとは思う。けれど顎のラインを撫でてみると夜になって髭もすこし生えてきた。
 私の股間には女性にはないものがついている。見たくもないおぞましいものが。
『機会があったらさ。』
『そうだね。』
 私の体はなんで女性じゃないのだろう。
 私が女性だったらたとえ顔がどんなだって今すぐ彼に会いに行きたいのに。

作品名:恋愛掌編集 作家名:春川柳絮