小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
てっしゅう
てっしゅう
novelistID. 29231
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

哀恋草 第八章 父との再会

INDEX|1ページ/6ページ|

次のページ
 
第八章 父との再会


勝秀の存在を知った一蔵は勝秀が抱いている思いを改めさせないといけないと考え始めていた。刺激しないように穏やかに話し始めた。

「勝秀殿、一蔵ははじめ維盛殿や宗盛どのに鎌倉勢を打ち破ってほしいと願っておりました。さもあらず、義経殿が平氏一族を滅ぼしご自身も鎌倉から追討される御身となり、すべては鎌倉の一存で振舞われた戦・・・敵と思しき義経さまもいまは敵討ちされても意味のござらぬ所作に思うてなりませぬが、間違っておりましょうか?」
「一蔵殿、そのことは勝秀判らぬでもない。戦国の世は勝ち戦をした方に仕える事が生き延びる手立て。義経殿はいまはどうされておるのか知らぬが、もし身を隠してその意志を貫かれるのならば、わしが敵討ちする事が鎌倉を助ける事になろう・・・のう。しかしこの身のご恩ある維盛どのや宗盛殿を死に追いやった罪は消えぬぞ!そうであろう」

勝秀は、個人的な恨みより、平氏の生き残りとしてなさねばならぬ大義を重んじていた。たとえ一人になってもその意志は自分が引継ぎ応えねばならない覚悟を決めていたのだ。

「勝秀殿、私にもその思いはござりまするぞ!商人といえども男でござるゆえ。しかし、その意地よりも守らねばならぬものがござる。それは命でござる。自分の身勝手から決して侵してはならない人の命と家族の命、今一蔵がなすべきことはその命の証を得る事。勝秀様もそう考えられる事が肝要かと、押し付けがましいですが思いまする」

一蔵がその気迫に満ちた言葉に、勝秀は圧倒された。何が彼を突き進めているのか知りたくもなっていた。

「一蔵殿、そなたの思いはこの勝秀の心を動かす力を持っておるぞ。何ゆえそれほどまでに強い意志を貫こうとされるのじゃ?」
「私は大台が峯で今は亡き維盛殿一行に出会い、陰となり力添えをいたしておりました。己の命に代えてまでも家臣と家族を守ろうとなされた維盛殿の姿に感服し、自らも命に代えて御一行の行く末をお助けしようと努めて参りました。しかし、先日何者か分かりませぬが女間者らしき者に、その家族が殺されました。無念を晴らすため、景時様に願い出て、守護職さまに捜索のお手伝いを戴いて京に留まっている次第でござりまする」
「・・・そのようなことがござったのか・・・無念じゃのう。勝秀も力を貸そうぞ。何なりと申されよ、してその女とはどのような顔立ちじゃ?」

一蔵は記憶に残っている全てを話した。そして、殺された藤江は久と仲が良かったことも話した。勝秀は久を知っている一蔵との縁に驚いた。

「何という事じゃ!久と知り合いだったとは!これも何かの思し召し・・・なのかのう・・・して今はどうしておるのじゃ、久・・・は」
「申し上げて良いのかどうか・・・」
「驚かぬ、申してくれ」
「奇なるご縁で、義経様と京に向かわれたにございます。おそらくは後白河様のご別邸にお隠れかと・・・はっきりとは分かりませぬが、弟作蔵の知らせもござらぬゆえ、そこまでしか存じ上げませぬ」
「ならば、すぐ近くではないか!法住寺殿が本宅にお伺いして引き合わせして戴こうではないか。そちもわしも知らぬ仲ではないゆえ・・・」
「そうではござるが、ここのところ鎌倉の警護が厳しく、なかなか近寄れませんぞ」

一蔵は久たちが守護職の屋敷に来ていることをまだ知らなかった。そして、間もなく志乃が法住寺殿へ向かうことも知らなかった。

光は時政からこれからの暮らしぶりについて諭されたことを、守ろうと努めた。それは、久やみよたちの安全につながると思ったからだ。やがて囚われの身であることを屋敷内で知らしめるために、離れに錠をかけて過ごす事を強いた。久とみよは自由であったが、外出は認められなかった。光のいる離れが見える場所で暮らしたし、半日は中に入って光と話し合っていることが許されてもいた。

弥生は志乃が後白河邸に移ると知らされて驚いた。支度をしている志乃に別れを惜しむように話しかけた。

「志乃さん、どうして移られるのですか?殿の機嫌を損ねたのですか?」
「いいえ、違うの。人を殺めたの。成り行きとはいえ、そこの主がここまで追ってきて捕まるといけないからって、配慮からなの」
「そうでしたの。弥生は寂しくなります・・・」
「私は考える所があって、法住寺殿へ行ったら、法皇様に頼んで出家しようかと・・・決めております」
「えっ!そのようなこと、殿がお許しになさらないですよ」
「構わないの。昨日も殿のご寵愛を、断ったし。弥生殿と違って、私はこの暮らしから逃れたいの。普通の人として、手をかけた藤江殿の魂を安らかにしてあげたいの」
「そこまでお考えでしたの・・・弥生も同じですわ。光殿を見ていて心が洗われました。同じ女子として恥ずかしい思いでおります。今は殿より光殿をお守りする気持ちが強うございまするゆえ」

二人は光との出会いによって昔の自分を取り戻すことが出来たと感じていた。特に行きがかり上藤江を殺めてしまった志乃は、そのことの大きさを恥、残りの人生を懺悔の中に委ねる事を固く決意していた。世の中というものは皮肉だ。事の真相を知らされずに裁きがなされたりするものなのだ。日が落ちようとしている東山通りを志乃は一人で法住寺への道を急いでいた。懐に時政の信書を携えて・・・

勝秀は一蔵に自分は法住寺殿でしばらく様子を窺っていると伝えた。何か動きが見えたら知らせるから、毎日同じ時刻にこの三十三間堂の境内に来る事を約束させた。守護職の屋敷に帰ってきた一蔵はなにやら女子が増えたように感じた。良く見ると、その中に久とみよが居るではないか。

「おい!わしじゃ!このようなところで何をしておるのじゃ?」
「おお!これは一蔵殿。久しゅうござりまする」
「久しゅう・・・ではないわ!みよも一緒に・・・ん?光はどうした?」
「居りませぬ。そう思し召し下さりませ」
「なんと言われる?理解出来ぬが・・・」
「話せぬ立場にございまするゆえ、時政殿にお聞きくだされまし」

いぶかしい顔をして一蔵はその場を去った。その足で奥の間へ入り、時政に訳を聞いた。時政は、その方が知ることではない!と知らしめ、これ以上詮索するなら、放免するといいつけた。その夜に久を呼びつけ、今日出会った勝秀のことを話した。

「驚くでないぞ、久どの。そなたの主人、勝秀殿に逢うたぞ!明日も逢う約束じゃ」
「なんと申されました?勝秀様にと、言われましたか?」
「そうじゃ!そこもとの主人、いや夫かのう」
「まことにござりまするか!久はこの屋敷を出られぬ身。せめて文を届けてくださらぬか?」
「よかろう。その代わりとして光のことを教えてくださらぬか?」
「・・・なんという仕打ち、久の苦しい胸のうちを考えては下さらぬのか」
「全ては一蔵がうらみの果たす時まで。藤江は女間者らしきに殺されおった!わしは何としても探さねばならぬのじゃ。光にそのことで聞きたいことがあるゆえ、答えて欲しいと願うのじゃ」

久は藤江の死を初めて聞かされた。間者とはきっと時政が手の者であろう事は判断できた。揺れ動く気持ちの整理に少し時間がかかって、やがて一蔵の耳元で小さくつぶやいた。
「ここに居る。離れに幽閉されておる。これまでじゃ、理由は言えぬ」