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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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傀儡士紫苑 in the Eden

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「愁斗と申します」
「年齢は?」
「一三歳になります」
 それを聞いてアヤは少し驚いた。思っていたより、年齢が低かったからだ。外見よりも、大人びた物腰が年齢を高く見せていたのかもしれない。
 一三歳というと中学生だろうか。だが、この場所から学校に通っているとは考えづらい。
「あなたはどこに住んでいるの? この屋敷?」
「そうです。主人に仕える使用人ですから」
「学校は通っていないの?」
「僕は死人ですから」
 と返され、アヤは理解に苦しんだ。
 死人?
 まさかそのままの意味ではないだろうが、どういう意味なのかアヤには理解できなかった。
「立ち話はここまでにしましょう。風邪をひくといけません」
 と、愁斗は言い、廊下の向こうに顔を向け大声をあげる。
「アリス、お客様を部屋に案内してくれ!」
 呼びつけられ姿を見せたのは、メイド服を着たブロンドの少女だった。年齢は愁斗よりも明らかに低い、七、八歳くらいだろうか。しかし、この少女も妙に物腰が落ち着いている。
 やって来た少女を愁斗が紹介する。
「侍女のアリスです。この者があなたを部屋にお連れします」
 紹介されて、蒼い目を細めてニッコリと笑うアリス。肌は透き通るように白く、毛穴も染みもなく、創られたような端整な顔立ちをしていた。
 ややアヤは困惑した。
「この子は日本語がしゃべれるの? ?次女?だと言ったけど、あなたには似ていないわ」
 勘違いしたアヤは軽率に似ていない兄弟だと指摘した。すると、アリスは子供とは思えない艶笑を浮かべ、流暢な日本語を話した。
「?次女?ではなく、メイドという意味の?侍女?でございます」
 アリスは宙に指で二つの漢字を書き比べた。日本語だけでなく漢字も精通しているらしい。
 外観から感じていたが、この洋館は少し可笑しな感じがする。日本人の子供と外国人の子供が、この屋敷の主に仕えている。まだ見ぬ屋敷の主に、アヤは不気味さを感じずにいられなかった。
 アリスは手を廊下の先に差し向けた。
「お部屋にご案内いたします。どうぞこちらへ」
 歩き出すアリスのあとを、アヤは周囲を見回しながらついていく。
 屋敷の中は外観と同様、西洋風の造りになっていた。長く伸びる廊下には刺繍の施された絨毯が敷かれ、壁には風景や人物を描いた絵画が飾られている。資産家ということは安易に想像できた。
 ゲストルームに案内されたアヤはアリスにシャワーを勧められた。
「シャワーを浴びて、お着替えをなされた方が宜しいかと思います」
 その言葉とタイミングを見計らっていたように、愁斗が服を抱えて部屋に入って来た。
「生憎ドレスしかないが、これを着替えに使ってください」
 ドレスを手渡され、アヤはそのドレスに疑問を抱く。
「誰の物?」
 愁斗が答える。
「この屋敷の主――紫苑様の物です」
 主は女性だったのだ。
 そういえば、まだこの屋敷の主に会っていない。
「主にあいさつしたいのだけど?」
 アヤの申し出にアリスが間を置くことなく応ずる。
「主人はすでにお休みなっております」
 わざわざ起こしてもらうのも悪く、アヤは主人との面会をあきらめた。
 愁斗もアリスも部屋を去ってしまい、アヤは部屋にひとり残された。
 ケータイをポケットから取り出すが相変わらず圏外。部屋には電話機もネット環境もない。
 アヤは気分転換のためにも、とりあえずシャワーを浴びることにした。

 コックを捻るとシャワーが勢いよく出た。
 目を閉じたアヤは噴き出す熱いシャワーを顔面で浴びる。
 バスト八八センチの豊かな胸と、肉付きの好い尻の上を水が滑り落ち、アヤは甘い吐息を全身から漏らした。
 熱いシャワーを浴びて疲れが取れ、頭もすっきりしてきた。
 すると、車に残してきた屍体のことや、この屋敷の住人たちのことが気になりはじめた。
 屍体は機会を見計らってどこかに埋めたい。それには住人たちの眼を欺いて、屋敷をこっそり抜け出さなければならない。
 外は大雨だ。
 雨の中で作業はできるだろうか……。
 地面は雨で掘り返しやすくなっているだろうが、山奥で、それも暗闇の中で作業をするのは危険な気がした。
 せめて車が使えればヘッドライトで照らすか、車を少し離れた場所に残して車のライトを目印にする。そうでもしなければ暗闇の山中で迷ってしまいそうで不安だった。それほどまでに、外は闇そのものだったのだ。
 だからアヤは自分を町に送ってもらうのは昼にして欲しいと提案した。朝が来れば少しは明るくなるだろう。そのチャンスを逃してはならない。
 シャワーを止め、アヤはバスルームを出た。
 脱衣室には濡れたままの自分の服がある。シャワールームで洗おうかと思ったが、そんな面倒なことする余裕はない。乾いて明日になったらそのまま着てしまおうと考えた。
 それまでは用意されたドレスを着るしかない。
 躰を拭いて下着を着けないままドレスに袖を通した。
 白く質素なロングドレスだ。肌が露出されているのは、カットされた首の辺りだけだった。これならば下着を穿いていなくても問題ないだろう。
「ロングスカートなんて子供のとき以来だわ」
 膝に当たる生地をうざったそうに歩き、アヤはまだ濡れている頭にバスタオルを乗せた。
 頭を拭きながらアヤはある疑問を引きずっていた。
 車のトランクに残してきた屍体よりも、今はこの屋敷のことや、あの二人の子供のことが気になる。
 特にあの少女が薄気味悪かった。
 今考えても端整すぎて人間味に欠けていたのだ。染みもない、骨格の歪みもなく、左右対称の顔をしていた。人間はどこかバランスが崩れているからこそ、人間に見えるのだ。
 髪の毛を拭いたバスタオルを長椅子に投げると、アヤの足は部屋の外へと向かっていた。
 トランクに屍体を積んでいることにより、アヤは疑心暗鬼になっていて、なにからなにまで不審に思えてならなかった。
 使用人やメイドと称して現れたのは子供。
 なぜ、この屋敷には子供しかいないのか?
 まだ大人に会っていない。
 アヤは屋敷の中を散策することにした。
 もしかしたら車を盗めるかもしれないという淡い期待もあった。
 こんな怪しい場所はさっさとおさらばして、あの屍体をどうにかしなければならない。
 静かな足取りで息を潜めながら廊下を進んでいると、明かりのついていない暗い廊下があった。
 曲がり角から薄暗い廊下を伺う。
 Tの字になっているらしい廊下の先を、横に進む明かりが見えた。ランプを持った愁斗と、その後ろにはドレス姿の女性だ。
 あの女性がこの屋敷の主だろうか?
 確かめたい気持ちもあったが、なぜか近づいてはいけない雰囲気を感じた。真っ暗な廊下を進む二人に不気味さを感じ、見てはいけないものを見てしまった気分になったのだ。
 それでも目を離せずにいたアヤは目撃してしまった。
 ――顔がない!
 瞬く間であったが、女性の顔がちらりと見えた。が、そこには顔がなかった。のっぺらぼうだったのだ。
 アヤは思わず漏らしそうになった声を呑み込み、暗がりでよく見えなかったせいだと自分に言い聞かせた。