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B.R.C 第一章(1) 闇に消えた小さき隊首の背

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#08.舞い降りるは白銀【BR】



 誰もが、呼吸すら忘れて立ち尽くす。
 動ける者は居なかった。
 言葉を発することが出来る者も居なかった。
 硬質な音が、一瞬にして世界を変えた。
 それは、絶望という黒一色の世界に、希望という白い点が生じた瞬間だった。
 更木の斬魄刀を受け止め、弾いた刀身。ふわりと風に舞う白い羽織。その下、華奢な身体を覆うは見慣れた黒い死覇装。
 狛村と更木の間に飛び込んだ白銀の髪が、揺れる。
 二人の巨体に隠された小柄な姿を目にすることが出来たのは、彼を目の前にする狛村と更木を除いて、砕蜂、市丸、卯ノ花、藍染の四人だけだっただろう。しかし、一瞬にして室内の澱んだ空気を澄んだものに変えた涼しげな霊圧は、この場に居る全員がよく知るものだった。

「てめぇは……」

 更木は隻眼を眇めて見下ろす。それを怯む事無く見返す翡翠に、「けっ」と吐き捨てた。

「興が殺がれたぜ」

 言って、更木は刀を下ろした。

「何者だっ!! 邪魔をするな!! これは中央四十六室の命であるぞ!!」

 それに顔を顰めたのは、白装束に身を包んだ男たちだった。
 彼らはどこからか現れた部外者の存在に気付いているものの、それが誰かまではわかっていないらしい。
 不愉快そうに寄せられた眉間が、乱入者によって彼らの機嫌を急激に下げられたことを語る。
 口々に乱入者にその正体を問い、中央四十六室の名を叫ぶ。だが、その口が動いていたのも、更木が身を翻すまでだった。

「な―――っ」

 二メートルを超える巨体の奥から、ようやく、室内の空気を一変させた正廉とした霊圧の主が姿を表す。
 刀身を露わにした斬魄刀を肩に担ぎ、悠然とした様子で佇む彼は、驚愕に目を見開き言葉を失う男たちを見て、ニヤリと口の端を上げ、勝気な笑みを浮かべた。

「貴様はっ……」
「と―――っ、」

 擦れた男の声を遮るように声を上げたのは、一護だった。


「冬獅郎っ!!」


 驚きのあまりにひっくり返る。そんな間の抜けた自分を呼ぶ声に、突如この空間に現れた日番谷はつい、と翡翠の瞳を一護へと滑らせた。

「日番谷隊長だ―――とは、今は言えねぇな」

 そう言って、ひょい、と肩を上げる。

「な、何でお前……、確か行方不明って……」
「松本」
「って、おい! 無視すんじゃねぇっ!」

 一護へ向けられた視線はすぐに外され、問い掛けはさらりと流される。
 相手にされずに吠えた一護だったが、それにも返答はない。

「隊、長……」

 か細い声が、何とか言葉を紡いだ。それは一護の耳にも届き、彼は喚き立てる口を閉じた。
 猫を思わせる目が大きく見開かれて、ただただ、日番谷を見つめていた。

「おう。苦労かけてすまなかったな」

 今は隊長ではない、と否定しようとした言葉を飲み込み、代わりに以前と変わらない体(てい)で松本を労わった。

「いえ―――、いいえ」

 松本は言葉を詰まらせた後、ゆっくりと応え、首を振る。

「日番谷、冬獅郎……」

 その後ろで、男が唸るように日番谷の名を呼んだ。

「何故貴様がここに居る? 貴様は確かに―――」
「虚圏へ追い払ったのに、って?」
「え?!」

 日番谷の言葉に、副隊長たちと一護、ルキアが目を見開いた。
 日番谷の虚圏追放の話は、隊長たちが口を噤んだため、副隊長以下の者はそのことを知らなかった。
 瀞霊廷を追放された後は、どこかの流魂街で暮らしていると、そう思われていた。

「虚圏からどうやって出て来た?! 貴様が虚圏へ行ったことはこちらでも確認したというのに、何故貴様がいる?!」
「わかりきったことを聞きやがる。虚圏に入った者は、自力での脱出は不可能だってことは知ってるだろ?」
「―――何者かが外から手引したか」
「浦原喜助か?」
「残念ながら外れだ」
「なら、尸魂界の誰かか?!」
「それも外れだ」
「ならば、誰が―――っ!!」
「そう焦ることはねぇよ。直にわかる。―――直にな」

 騒ぎたてる男たちとは正反対に、日番谷は余裕すら感じされる様子で悠々と隊長らの間を歩く。

「く、来るなっ!」

 日番谷が一歩踏み出す毎に、その足下からひやりとした冷気が昇る。

「来るな! 来るな来るな来るなっ!! 我々は中央四十六室の―――」
「中央四十六室、か」

 向かい合う涅と浮竹の間、床に抑えつけられた副隊長たちの一メートル程前で、日番谷は足を止めた。

「そ、そうだ! 我々は中央四十六室の代行だ! 我々の言葉は中央四十六室のもの―――ひっ!?」

 チャキン、と日番谷の斬魄刀―――氷輪丸が、その細い肩から降ろされ、ヒュっと風を切った。
 話していた男は、振られた刀に息を呑む。
 見せつけるようにゆっくりと、日番谷は切っ先を持ち上げた。
 目の前の、松本を抑えつける男の喉へと定められるそれに、男の顔を青褪める。

「き、貴様、何のつもりだ?! 中央四十六室代行の我々に刀を向けるなど、それはすなわち、中央四十六室に刀を向ける事と同義! 今度は追放だけでは―――」

 懐から引っ張り出したのは、先に隊長らに見せつけた、中央四十六室の印が刻まれた布。よほど慌てていたのか、その布には縦横無尽に不格好な皺が走っている。
 その布が、男の掌にほんの一握り分だけ残して、散った。

「な……、んだと……?」

 その散る様は花弁のよう。けれど、男達にはそれが地獄への餞(はなむけ)のように見えた。

「あーあ。なくなっちまったな、お前らの権力」

 彼らの前で、日番谷がほくそ笑む。

「中央四十六室」

 そして、氷のような冷たい声音で続ける。

「四十人の賢者と六人の裁判官で構成される尸魂界の最高司法機関。その裁定に異を唱えることは、例え隊長格であろうとも許されない、絶対の存在。それ故に感情を殺し、掟を尊び掟にのみ従い、公平なる判断が求められる。そんな奴らが、」

 つい、と翡翠の瞳が走る。
 死神たちを抑えつける男たちすべてを見通し、

「娯楽に走るとは、いただけねぇな」

 最後に、その瞳は天に向けられた。
 はっ、として男たちがその視線を追って顔を上げる。
 何事かと、死神たちも天井を見上げ、目を見張った。
 人が居る。
 誰にも気づかれずに、何時の間にか、宙に身を置く男が居る。

「日番谷」

 身を覆う黒いマント。栗色の髪。額に灯るオレンジの炎。それと同じ色の瞳が、白銀の髪を見下ろした。
 瞳だけを向けていた日番谷は、くいと顎を上げて、しっかりと男を捉える。その一連の動作に躊躇いはなく、男と日番谷は浅くない関係であることが察せられた。
 しかし、日番谷―――そして、すっかり口を閉ざしてしまった元柳斎以外に、この男を知る者はこの場に居ない。

「遅かったっスね」
「すまない。だが、話はついた」
「じゃあ―――」
「ああ」

 男は頷き、静かな声で告げた。

「日番谷、限定解除を、許可する」