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太陽の下を歩けたら~プロローグ~

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『太陽の下を歩けたら』

 プロローグ

 それは十二月のある夜ことだった。
その日はかなり冷え込んでいてここ東京でも雪が降っていた。僕には付き合って三ヶ月の彼女がいる、名前は神崎ゆみ。今夜は駅前広場に十七時待ち合わせの約束をしたが、予定の時間を五分過ぎても彼女はこない。
 「ゆみのやつ遅いなぁ、電話かけてみようかな」
…プルルルルルルゥ、プルルルルルルゥ、……
何度か携帯にかけてみたがゆみが電話に出ることはなかった。
これってもしかしてドタキャン? でもうまく付き合えてると思うしそれはないよな…
その後一時間ほど待っても連絡は無く、僕はイルミネーションで飾られクリスマスムード一色の煌びやかな駅前広場をあとにし、とぼとぼと帰路についた。
 部屋につくと僕はベットに横になり布団にくるまった。その時はそうでもしないと落ち着かない心境だったし、何もやる気が起きなかった。
 どのくらい寝ただろうか? 携帯の時刻表示を見ると二十一時を少し過ぎたくらいだ。
「あれ、親父とおふくろはまだ帰ってこないのか? まぁこの雪だと遅くなるか。」
メールが一通受信されてる、おふくろからだ、
「道路が渋滞してて帰り遅くなります、お父さんは会社に泊まるそうです。涼は先にコンビニとかで適当に夕飯すませといてください!」
はぁ、ゆみからの着信は無しか…
携帯を閉じようとした瞬間、着信音が響いた。
プルルルルルルゥ、プルルルルルルゥ
 「あっゆみからだ!」
電話に出ることに数秒ためらったが通話ボタンを押した。
「あ、もしもし、僕待ち合わせ場所に行ったんだけど、ゆみ何かあった?」
少し声が裏返ってしまった…
「ゴメンね涼くん、ちょっと今いろいろ大変な事になっちゃって。私の家分かるかなぁ場所? 本当に申し訳ないんだけど、今から来れるかなぁ?」
「ああぁ、お前ん家の場所はわかるよ。確か電車から見える赤いマンションだったな。」
「うん、こんな時間でデートもすっぽかしちゃってホントにゴメンね! でも、今どうしても涼くんに来て欲しいの…」
ゆみのやつ、泣いてるのか?
「分かった、今すぐ行く。一〇分くらいで着くと思うから待ってて」
ピッ…
 カーキ色のジャケットをはおり、僕は家の鍵も閉めずに外に飛び出した。ゆみは普段真面目な子で些細な理由でデートをすっぽかすようなことはまずない。そして電話越しに聞こえた彼女の震えるような声。何か凄く嫌な予感がする… 

 外にでるとわずかに雪が積もっていた。空気を吸い込むと喉が少し痛い。
何分くらい走っただろうか、もう靴の中までびしょびしょに濡れてしまった。
途中に踏切がありそこからゆみの住む赤いマンションが見える。築二十年はゆうに超えていると思わせるあの建物に割と清楚なイメージのゆみが住んでると知ったときはちょっと意外だった。
カーンカンカーンカン…
 踏切に引っかかってしまった。一秒でも早くゆみのもとへ行きたいのに、はぁ。
遮断機が上がるまでものすごく長い時間たった気がする。例えるならカップ麺にお湯を入れて三分待っている時のように…って、こんな時に僕は何を考えてるんだろぉ。
 マンションに着くとゆみは駐輪場の屋根の下に立っていた。下は学校のジャージ、上は灰色のパーカーを来てフードを深くかぶっている。
部屋着なのかな? こういう姿のゆみを見るのは初めてだなぁ…
「はぁはぁ、お、遅れてゴメン。踏切に引っかかっちゃってさ」
いきを切らしながらそう言った僕をゆみは見上げるなり微笑みかけた。
「今日せっかくのデートだったのにね。うち、ここの四階なんだ。家の人誰もいないから上がって」
そう言うとゆみは僕を階段へと案内した。寒くて鼻があまり効かないけど、ゆみの身体からわずかに鉄さびのような匂いがした気がした。
階段を昇っている間、僕は一言も話しかけることが出来なかった。経験的にこれは別れ話が脳裏によぎるからだ。
 角部屋の四〇四号室の前でゆみは突然立ち止まり、振り向かずに後ろに立っている僕に語りかけてきた。
「今から言うことなんだけど、多分涼くん聞いたらびっくりしちゃうと思うんだよね。だから…心の準備だけして欲しいな」
やっぱりそう来たか、ふぅ…ここは男らしく率直に聞こう。
「もしかして、別れ話なのかな? だから今日の待ち合わせも来なかったんだよね…」
「あっ違うよ! 変な勘違いさせちゃったみたいだね」
……え、どゆこと? その一言に一瞬で安堵と混乱が僕の心の中で交差した。
「説明すると長いからとりあえず家に入って。マンションの他の住人に聞かれたくないしね」
…ガチャッ
ゆみはドアを開け僕を玄関に入れるなりすぐに鍵を閉めてた。部屋の中は明かりひとつ無く真っ暗で、奥のほうから換気扇の音が聞こえてくる。
これってエッチなシチュエーションなのかなぁ…
…パシッ
ゆみが明かりをつけた瞬間、目の前に広がる地獄絵図に僕の安易な期待はかき消された。
「大きな声ださないでね。今日待ち合わせに来れなかった理由は…これなの」
目の前にある光景に一瞬自分の目を疑った。床に人が倒れていて、そこから円状に血が広がっていた。血がべっとりとついた包丁も傍らに落ちている。顔をみてすぐ中年の男だと分かった。
「これって…、死んでるよな?」
「うん、死んでるよ。私が殺しちゃった…あは、あははははぁ…」
ゆみは壊れたように笑いながらそう言った。彼女にかける言葉を考えている間、僕は呼吸をすることすらも忘れていた。
「これ、ゆみの親父さんか? 一体何があったんだ?」
「コイツは父親なんかじゃないよ、私の叔父。本当のお父さんとお母さんはもういないから…」
小さな声でゆみは呟いた。そういえば付き合ってからというもの、ゆみの家庭のことを聞いたことが無かった。頭の中で自首という言葉が浮かんだが、ゆみの次の行動を見てそれを口にするのが危険だと悟った。床に落ちていた血まみれの包丁を手にしながらゆみは口を開いた。
「私がこの男に何されていたと思う?…今日もデートの支度をしてる時に襲われて、抵抗してるうちに目の前に包丁があったからそれで刺したの。後は夢中でコイツの腹を何十回も刺して…気づいたらこうなってた」
「と、とりあえず冷静になろうぜ…な?」
「涼くんには今決めてもらうよ、私が警察に捕まらないように協力するか、ここで私に殺されるか。だってもう見ちゃったんだもん…ね」
気づくと僕の喉元にはすでに包丁がつきつけられていた。
「なんでだよ…」
「え?」
「なんで今まで黙ってたんだよ、なんでこんな事になっちまうまで僕に相談してくれなかったんだよぉ!」
僕は目から溢れる涙を抑えきれなくなっていた。
「こんなこと、涼くんには言えないよ…嫌われると思って言えなかったよ…」
泣き震えるゆみの姿を見て、僕は決心した。
「わかった、僕が何とかするよ。だからもう、泣くな」
…ボトンッ
ゆみの手から包丁が床に落ちた。
「ゴメンね、私のせいで涼くんまで不幸にさせちゃうなんて。でも私には涼くんしかいないから…」
「おれが不幸? 何言ってるんだよ! ゆみが刑務所行きになる方がよっぽど僕にとっちゃ不幸だよ。それに、協力しなかったらおれ、お前に殺されちゃうんでしょ? あはは…」