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てっしゅう
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「深淵」 最上の愛 第三章

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「ありがとう・・・でも決めましたから」
「そうや、東京の家を売ることにしたよ。弁護士さん通じて処分するから決まったら知らせる。こんなこと勝手に決めてもいけないんだけど、翔太は未成年だから20歳までは俺が後見人になるように手続きする。遺産は、その時が来たらお前に渡すから」
「遺産?家売ってお金に代えるって言うこと?」
「そうや。金額は解らないけど・・・1億ぐらいにはなるやろ。相続税払うから・・・半分ぐらいに減るけど、お前一人だけだから仕方ないよ」
「5000万も・・・20歳で・・・本当なの?」
「うそついてどうする。全部弁護士がやるから安心しろ。書面でしばらくしたら届くから読んで署名して手続きしろよ」
「はい、ありがとうございます」

「おい、話し長いなあ・・・早よしいや。行くで」しびれが切れた水島は催促した。
「叔父さん、ボク仕事に出掛けるから・・・じゃあ、よろしくお願いします」
電話を切って。水島と車に乗って出掛けた。

「なに、話しててん?叔父さんか」
「はい、そうです。一応居場所連絡しました」
「そうか、けどなこれからあんまり会ったりしたらあかんで。連絡も葬式の時だけにしとき」
「そうします。すみません」
「謝らんかてええねん。まだ若いし、しょうがない。まずは男になってからや!気持ちええで〜特別ええ女に会わせたるさかいにな」
「年上ですよね・・・」
「あたりまえや。お前より下やったら・・・犯罪やで」
「犯罪ですか?それも言えるような立場じゃないですよね」
「言うたな!その通りや!ハハハ・・・なれてきたやんけ」
「はい、兄貴・・・」
「なんや」
「ボク・・・自信がありません」
「初めてやろ?当たり前や。かまへん。好きなようにしたらええで」
「怒られませんか?」
「なんで怒るねん。みんなそうや・・・初めてやのにブイブイ言わせたら、怖いで」
「ブイブイですか?」
「そうや。そのうち出来るようになるわ。教えたるから」

車はまだ営業をしていない店の前に着いた。


絵美はもう三ヶ月も経つのに翔太から連絡が来ないので、行方不明者の中に入っているんだと考えた。「生きていて欲しい」から「生きてない」という思いに気持ちが変わり始めていた。両親からも「諦めなさい、辛いけど」そう何度も言われていた。翔太の叔父は絵美と仲良くしていたことを知らなかった。知っていたら、連絡をくれたかも知れない。神戸の翔太が通っていた学校へは叔父からの連絡が遅くなっていて、絵美が尋ねたときはまだ不明だと聞かされていた。

月日は辛さを取り除いて淡い思い出だけを心に残すように変えていた。
東大に入って、卒業前に一種公務員試験に合格し、キャリア組として警察官になった。周りが自分以外男性だったので注目は浴びていた。父親は絵美の任官を誇りに感じていた。自分がノンキャリアだったから味わった悔しさを絵美には感じさせたくなかったので、警察官になりたいと相談を受けた時から、絶対にキャリヤで入れ、といい続けてきた。

それでも翔太のことは深く心に刻み込まれて消えることなく過ごしてきた。恋も、結婚もしなかった大きな理由だった。

出世をして30歳のときに異例の速さで警視正になった。父親は夢が叶って、その日は大泣きをした。妻と絵美に深く感謝し、そして家族の絆やありがたさを心から喜んだ。大阪に転勤するときも、「この次は警視監で地方都市の本部長だな」そう励まして期待をした。父親の期待は結婚にも及んだ。もういいだろう、そう何度も言われていた。そのたびに、今は考えていない、仕事が優先するから、と断っていた。母も寂しかったのだろう、絵美に「女の幸せも手に入れて欲しい」と東京を出発する前に話した。

「お母さん、ありがとう。子供が生める年齢までに必ず結婚するから・・・それまでわがままを許して。元気で暮らしてね。お父さんのこと支えてあげてよ」

新幹線のホームで手を振る両親は今までより少し老けて絵美には見えた。自分のことで心配をかけているんだと辛く感じたが、絵美にはどうしても割り切れないことがあった。15年経っても翔太のことが頭から消えなかったのだ。


身体から麻薬が抜けた真奈美は以前より表情も優しくなり警察には協力的に変わっていた。これからの人生をやり直したいと及川に話していた。今のところ薬物使用以外の容疑が無かったから、書類送検をして初犯という事で仮釈放になった。久しぶりに外に出て空気を吸った真奈美は自分のアパートに帰るのが怖かったので、及川に付き添ってもらい荷物をまとめて実家に帰ることにした。

「警部、お世話になりました。本当に感謝しています。困ったことがあったらまた世話になってもいいですか?」
「ええよ。娘みたいなもんや・・・いつでもおいで。しばらくは家から出たらあかんで、特に梅田へ行くのは止めとき。ええなあ」
「はい、そうします」
「それから、もし籾山から連絡があったら絶対に教えてや。勝手に動いたら命とりになるで。解ったな?」
「もちろんです。なるべく早くどこかへ引っ越しますから、そのときは及川さんだけにお知らせします」
「そうしてや。ほな、気いつけてな」

手を振って真奈美は実家に入っていった。

同じように夏海も麻薬が抜けて穏やかな表情にはなっていた。しかし、真奈美のように協力的ではなかった。森岡が捜査に行き詰まってきたので再度夏海に尋問をさせてもらえるように絵美に相談した。
「警視正、お願いがあります」
「なに?森岡くん」
「夏海を尋問させてください」
「何も言わないよ・・・何度もやったじゃない」
「ちょっと行き詰まったものですから、何か聞き出せないかと・・・」
「いいけど、新しく尋ねること見つけたの?」
「いいえ、そうではありませんが。最初から聞いてもう一度まとめてみようと思っています」
「そう、捜査の基本ね・・・いいわ、許可する」
「ありがとうございます」

取り調べ室に夏海は呼ばれた。
「森岡さん、またですか?何も言うことあらへんよ」
「知っている事始めから話して欲しいねん。ええか、始めからやで」
「しつこいなあ・・・これやから、サツは嫌いやねん」
「そう言うな。仕事始めたのはいつや」
「忘れたわ」
「ちゃんと答えんと・・・拘留期間延長の申請出すで」
「なんや、脅してるのか?」
「弁護士呼ぼか?」
「それはやめて!知ってるやろ・・・意地悪いで」
「ほんなら、話してんか」

何度聞いても同じ事しか言わなかったが、真奈美とは知り合いだったと前言を翻した。

「真奈美はな、一樹会の集まりでお前と同席したことがあると言うてたんや。何の集まりやったんや?」
「覚えてへんわ・・・待ってや、そうや思い出したわ。薬が抜けて記憶力が戻ってきたわ。小野田組長の還暦祝いやったわ」
「そうか、還暦か・・・目出度いわな。籾山もおったんやろ?」
「どうかな・・・下っ端は隅のほうやったから」
「可哀そうな事言うなあ・・・下っ端か。今は違うやろ?」
「組長は東梅田の店とその界隈を任せるって言うてたわ。あんたらにやっつけられた時もそこに行く途中やったんと違うかな」
「まだ他にもあったんか・・・教えてんか」
「踏み込むんか?何も出てけえへんで」