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新世界

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 レオンは自分の生い立ちを語ってくれた。レオンの両親はレオンが十歳の時に事故で亡くなったのだという。それもレオンと彼の弟のテオを庇うようにして亡くなったらしい。それからは祖父母の許で暮らしていた。今でも、時間のある時は祖父母の実家に帰るのだという。
「祖父は俺やテオが軍人になることに大反対したけどね。士官学校を受験して宿舎に入るまでの間は、それこそ一言も口を聞いてくれなかったな」
「今は仲直り出来たのか?」
「ああ。まあ、いつ軍人を辞めるのかといつも言われるが……。祖父は俺やテオのことを心配してそう言ってくれているのだと思う。無口で無愛想で、偶に喋ったかと思えば口が悪くて、どうしようもない人だけどね」
 レオンは笑いながらそう語る。口が悪いという言葉に、思わず父を思い出してしまった。
「私の父は厳しい人だった。それに私は身体が弱かったから、ロートリンゲン家にとってはお荷物のような存在で……。褒められたことも数えるほどしかない」
「……お荷物だと言われたのか?」
「面と向かってそう言われた訳ではないが、寝込むたびに呆れられ、私には期待をしていないと何度も言われてきた」
 普段は人前で父の話など出さないのに――。
 レオンと言葉を交わしていると、色々なことを語りたくなってしまう。
 父の話を受け、レオンは笑って、祖父と似ている、と言った。
「多分、ルディのことを嫌っていた訳ではないんだろう。むしろ愛されていたんじゃないか?」
「私が父に? まさか。使用人達でさえ、父は私に辛く当たっていると気付いていたぞ」
「祖父がちょうど君の父上と似ているよ。憎まれ口しか言わないんだ。俺は褒められたことなんか一度も無いぞ」
 子供の頃は怖くて寄りつかなかったよ、とレオンは笑いながら話してくれた。私には父が私を愛していたなど考えもつかないが――。
「……私が宰相の試験を受けようと思ったのも、そういう父に対する反抗もあったことだ」
 レオンを相手にすると話しやすい。此方の話を遮らずに聞いてくれ、自分の感じたことを率直に語ってくれる。そのためだろうか。
「そういえば……、ルディという名はミドルネームだろう?フェルディナントと呼んだ方が良いのか?」
「……ルディの方が落ち着く。そう呼ぶのはロイだけだったから……。今はロイも居ないから、ルディと呼ばれるのが何だか懐かしい……」
 猛烈に眠気が襲ってきて、眼を閉じた。レオンが何か話しかけてきたが、それに応えることも出来なかった。


 目覚めると辺りが白んでいた。夜が明けていた。
 少しだけ休もうと眼を閉じたのは、10時頃だった筈だ。慌てて時計を見ると、午前6時になろうかとしていた。私は8時間も眠り込んでいた。
「済まない。仮眠のつもりが……」
 慌てて座席を起こすと、レオンは首を横に振った。
「構わないよ。ぐっすり寝ていたから起こさなかったんだ」
「……済まない。こんな時に」
 こんな状況の下で八時間もよく眠れたものだと、我ながら呆れる。何よりも気恥ずかしかった。
「謝ることないさ。疲れたんだろう。俺も君の身体のことを知らず、無理させてしまったからな」
 レオンは後部座席から、水の入ったボトルを取って、私に差し出した。礼を言って受け取り、その蓋を開ける。追っ手はまったく来なかったよ、とレオンは言った。
「ヴァロワ卿が上手く捜査を攪乱してくれているのだろう。とはいえ、国境に近付けば、そうはいかないだろうが……」
 モニターに映し出された地図を見ると、既に三分の一の距離を進んでいた。この分ならば明後日まで車を走らせればリヤドに到着出来る。その後、車を乗り捨てて山から新トルコ共和国領のマスカットに入国する。一日かかると考えて、あと四日――。
「ルディ。そう厳しい顔をするなよ」
 私の方を見て、レオンは笑みを浮かべながら指摘した。自分では全くそう思わなかったが――。
「……そんなに厳しい顔をしているか……?」
「ああ。宮廷の女性達を騒がせるという美形の宰相の異名が台無しだ」
「……何だ、その異名は」
「俺の国ではそういう噂だ。ムラト大将もその通りの美形だったと言っていたぞ」
 随分と奇妙な噂が流れているものだった。写真や動画といった映像が出回らないと、そういう噂が立つものなのかもしれない。
「……お前こそ、此方では国王に縁のある者という噂があったが?」
「俺が?」
 酷く驚いた様子で問い返す。頷き返すと、レオンは一笑に付した。
「俺の両親はごく普通の会社員だった。両親が亡くなった後、育ててくれた母方の祖父母も鍛冶屋を営む職人の家だったしな。国王とは何の関わり合いも無いよ」
「鍛冶屋?」
「ああ。工場ではなく鍛冶屋だ。鉄の鍛造――、金属を叩いて成形して色々なものを作っている。丁寧な仕事が出来るけど、何分にも生産効率が悪い。帝国ではもうそんな手法は無いだろう?」
「本で読んだことがある。しかしもう随分前に廃れたと……」
 精巧な剣や刀は、しばしばそうして作られると聞いている。実際にその光景を見たことはないが、美術館でそれらの刀剣を眼にしたことがある。
「手でひとつひとつ作ることに、冷たい鉄にも温もりが出て来るって祖父は言うんだけどね」
「興味深いな」
「だから、俺は王家とは全く関係無い」
「根も葉も無い噂だということか。国王の信任が厚いし、表に……国際会議にも顔を出さないから、もしかしたらと思っていたが」
 ああ、成程、とレオンは思い当たることがあるような様子で、私に向き直って言った。
「それは国王が進歩派の俺達に力を貸してくれていたからだ。共和制への移行を望んでいた一派と、従来通りの君主制を望んでいた一派の対立が激しい時期があってね。あの頃は軍部も二派に分かれていた」
「……今の帝国と同じだ」
「何かを変えようとすると必ず反発がある。その頃、国王はまだ国の将来を考え倦ねていた頃だったから、余計に派の対立が深まっていった。元々、保守的な勢力は年齢層の高い上官層で、入隊当初の若手士官はあらゆる面において粛正されていた。俺の場合は、上官が進歩派だったから随分恵まれていて、そのおかげで昇進も出来た。将官となった頃、対立がますます激しくなってきた時、国王が共和制への移行の意志を固めて、一気に形勢逆転したんだ。そして保守の急先鋒であった軍部長官も辞任し、その代わりに立ったのが俺だ。大将となった間も無い頃だったから、まさか長官の任命を受けるとは思わなかったがな。他部の長官のなかでも一番若かったから、国王が色々と気にかけて下さった」
「そうだったのか……。確か二年前に長官となったのだったな」
「ああ。表に出なかったのは、そういうことは全てムラト大将に任せてきたからで……、あとはまあ、俺自身、暫くは自由に動きたかったというのもある」
 当時は、ムラト大将が長官になるものだと思っていたからな――とレオンは苦笑した。
 新トルコ共和国も紆余曲折があったのだろう。
 それにしても、レオンと話していると話が広がっていく。そうした会話が楽しくて、自分の置かれている状況をふと忘れてしまう。
作品名:新世界 作家名:常磐