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でんでろ3
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novelistID. 23343
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騙されない屋

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「さぁさぁさぁ、御用とお急ぎでない方は、ちょっと、寄ってらっしゃい、見てらっしゃい。騙されない屋の屋台だよぉ。屋台と言っても、そんじょそこらにある、品物を売って、お金を頂く屋台じゃぁない。何を隠そう、不詳この私、『おぎゃぁ』と、この世に生れ出て以来、一度たりとも他人に騙されたことが無い。そんな私を、見事騙した方には、金一封を差し上げようじゃぁ、ありませんか。さぁ、腕に自信の有る方も無い方も、ドーンッと一発、私を騙してみませんかぁ?」

そんな口上を聞いて、集まった客の中から、声が上がる。
「おぃおぃ、『はい、これから、騙しますよ』と言われて、騙されるバカなんざ、居ねぇよ」
「野暮は言いっこなし、と行こうじゃねえか、お客さん。難しいほど、勝った場合の戻りも大きいってことでさぁ。私を騙したつわものには、賭け金の10倍を差し上げようじゃありませんか」

これには聴衆もざわめいた。
「じゃあ、300円かけたら、1000円貰えるのかい?」
「お客さん、どういう計算してるの? 300円だったら、3000円でしょ?」
「やーい、騙されたー。わざと、間違ったんだよー!」
「えっ? うっ! いや、でも、残念ながら、今のは、賭け金を賭けてないから、賞金は無しだ。0円は、何倍しても、0円だからね」

これを聞いて、聴衆は、またも、ざわめく。
「せこいな」「あいつ、大したことないんじゃないの?」「いやいや、そう思わせるためのサクラかも知れん」

そのとき、くたびれた背広を着た目つきの鋭い中年男が、ズイッと前に出てきた。
「500円、賭けようじゃないか」
男は500円玉を1枚、ぱちりと置いた。
「実は、私は宇宙人なんだ」
「お客さん、馬鹿言っちゃ、いけねぇよ。そんなの信じる訳ないでしょう。はい、500円は頂きます」
そう言って騙されない屋が、500円玉をポケットに入れたその瞬間……。
「賭博の現行犯で逮捕する!」
男が、そう鋭く叫んで、騙されない屋の右手首をガシッと掴んだ。
これには、聴衆も驚いたが、騙されない屋はまったく動じない。
「お客さん、演技力は買うけどね。あんたはタダの営業マン。ごく普通のサラリーマンだ」
どうやら、それは、本当だったらしく、中年男はバツが悪そうに引っ込んでいった。

「よーし、今の俺の持ち金、全部、1万と2456円、全部かけて挑戦だ!」
1人の男が、札3枚と小銭を屋台に叩きつけた。
「ちっちっちっ、お客さーん、甘いねー。上手く人影に隠れて、やったつもりっだったんでしょうが、全部見てましたよ。お尻のポケットに、1万円札が入ってますよね。あんたの、所持金全部は、2万と2456円でしょう?」
「うっ、くっ、くそうっ。しょうがねぇ。賭け金はくれてやる」

「さぁさぁ、他に居らっしゃいませんか?」
騙されない屋は上機嫌だ。
「ちょっとはやるのか?」「でもあの程度で、結構嬉しそうにしてるってことは……」
聴衆たちは騙されない屋を値踏みしてざわついている。

「賭けるのは物ではいけないのかね」
和服を着た初老の男が、風呂敷包みを大切そうに、騙されない屋の前に置いた。
「私は骨董屋をやっているんだが、たまたま、今日、この古伊万里を仕入れてね。仕入れ値は7万円だが、10万円で売ろうと考えている。だが、賭け金としては7万円で結構じゃよ」
これを、聴いた聴衆は、口には出さなかったが、「この勝負は成立しない」と思った。まず間違いなく、その古ぼけた皿には大した価値は無いだろう。もし、勝負を受けて勝っても手に入るのはガラクタ同然の皿。しかし、負けてしまった場合には、70万円も持って行かれてしまう。まぁ、そのくらい簡単に見破って断るだろう、と思っていると……。
「まぁ、あたしゃ構わないんですがね、お客さん、本当にいいんですかい?」
「何がだね?」
「とぼけたって無駄でさぁ。この古伊万里は本物だ。偽物なのはお客さん、あんたの方だ。あんたは骨董屋じゃなくて、ただの収集家。だろ? 違うかい?」
「そ、そこまで、分かっていて、なぜ勝負を受けなかったんだ?」
「賭けるのは金だけって決めてるんでさぁ。性分でね。そこんところは、曲げられねぇ」
聴衆は、騙されない屋の心意気に感心した。

そのとき、1人の太った男がのっそりと前に出てきた。
「賭け金の上限はいくらだい?」
しゃべり方まで、ゆっくりしている。
「10万円ですが……」
「では、それで頼もう」
男は、持ち主のように太った財布から、1万円札10枚をキッチリかぞえて、騙されない屋に渡した。
「ただし、仕掛けがちょっと大掛かりでね。家に帰って用意してくるから、ここで待っていてくれ」
そういうと、太った男はその場を後にした。

さぁ、10万円の大勝負。勝てば100万円となれば、勝負の行方が気になって見届けたいのは、やまやまだが……。皆さん、そんなには、暇じゃぁない。30分後くらいまでは7割ほど残っていた聴衆も、1時間後には1割弱。さらに、3時間たったときに、数名の者が居たのは、多いと見るべきか、少ないと見るべきか。

日も沈みかけたころに、やっとこ太った男が戻ってきた。
「さんざん待たせやがって。商売にもなりゃしねぇ。とっとと用意してきたものとやらを見せやがれっ!」
「えっ? そんなものないよ」
「はぁ?」
「ただ、家帰って、風呂入って、ビール飲みながらテレビ見て、ゴロゴロしてただけだよ」
「何だと、この野郎っ!」
「でも、そうやって、怒ってるってことは、俺の言ったことを信じてたってことだよね。まんまと騙されたってわけだ」
「……うっ、あっ、ぐっ、こ、これは、騙されたふりをしたっていうか……」
これを、聴いた聴衆は怒ったね。
「おいおい、俺たち、この瞬間を見るために、何時間待ったと思ってるんだ? 往生際が悪いぞ。それで食ってるプロなら潔く負けを認めな」
「うーっ、く、くそう。持ってけ泥棒」

こうして、見事、太った男は100万円を獲得したのだった。

                           (おしまい)
作品名:騙されない屋 作家名:でんでろ3