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鏡に映った殺人者

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「自分の息子の首を絞めた動機は?」
灰色の壁に囲まれた空間。そこには真ん中に鉄で作られた冷たい机と椅子、横長に張り付けられたマジックミラーしかない。
チャールズはこの空間が嫌いだった。いや、正確に言えば嫌いなのはこの空間ではない。
嫌いなのは、この「取り調べ室」という部屋に来る人間だ。しかも今日は非番だという事で尚の事質が悪い。
今チャールズが問い掛けたこの中年の男。
野球の試合観戦中に自分の息子の首を絞めて殺そうとした。そこをたまたま居合わせていたチャールズが間一髪取り押さえた男だ。
「......」
チャールズが手錠を掛けてから一言も発しない男。その風貌は堂々としたものだった。
半袖の青いシャツにジーンズ、顔つきは真面目さを思わせる。
資料を見る限りでもこれと言った特徴はない。仕事もしているし、近所の評判もいいようだ。
チャールズにはこの男が殺人未遂を犯した動機がまるで分からなかった。
「何か話してくれないか? でないと、こっちも何もできない」
やはり何も言おうとしない男にチャールズは溜め息を一つ吐いた。
これではまるで駄目だ。
チャールズはそう思った。
「そういえば、あなたの息子さんに話しを聞いたんだが、ベースボール観戦前の服装と観戦中の服装が違ったと言っていたんだ。観戦前にわざわざ着替えたのか?」
チャールズは男が自ら口を開くのを諦めて問いかける事にした。
「......刑事さん。あんたは何も分かっちゃいない」
低い小さな声だ。しかしその言葉は答えになっていない。チャールズは呆れて言葉もなかった。
マジックミラーを見て、その奥にいるであろう同僚に助けを求めてみるが無駄な事だ。
こういった厄介な容疑者は誰も相手にしたがらない。
チャールズは肩の力を抜く。
「現行犯で捕まえたんだ。言い訳はできませんよ」
男はまるで無反応。
「仕方ない。あなたの奥さんが来るまで、もう一度お復習しましょうか。はいかいいえ。話したくなければ首を振るだけでいいので」
男は首を縦に振った。
作品名:鏡に映った殺人者 作家名:うみしお