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表と裏の狭間には 十四話―様々な変革―

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蓮華とゆりたちの間にも、俺の知らないエピソードがあるのだろう。
まぁ、雫と蓮華の折り合いが悪いのが玉に傷だが。
それだって、同じ家で暮らすとなればそのうち解消………されて欲しいなぁ。
確かに、俺と雫には、いい雰囲気かもしれない。
俺と雫は、ここ一年ほど…………いや、実際は十年以上、二人で生きてきたも同然だ。
俺の両親は、『親』ではあったけど、『家族』ではなかった。
だから。
多分俺たちは、『家族』が欲しかったのかもしれない。
雫が俺にべったりなのも、きっとその辺の影響だろう。
だから。
きっと、こいつらは、俺たちの『家族』になってくれるだろう。
ゆりの言うとおり、ここは温かで柔らかい、ぬるま湯のような心地いい『家』になるだろう。
だとするならば。
俺は、全財産をこいつらに預けても構わないと思う。
でも、それは現実的じゃないしな。
「分かった。俺と雫、二人で十万でいいか?」
「繰り返すけど、無理はしてないのよね?」
「ああ。なんだったらもっと出してもいい。でもまぁ、このくらいが妥当だろ?」
「そうね。ならそれでいいわ。毎月始めに貰うんだけど……どうかしら?」
「ああ、今にでも渡せるぞ。」
「まぁ、明日でいいわ。共用の金庫を開けるわけだしね。」
「そうか。」
「じゃ、この後はそれぞれ適当にゆっくりしましょ。とりあえずは、食堂に戻って皆に解散かけなきゃね。」

その後は何事もなく、普通に風呂に入り、普通に眠った。
しかし。
『事件はいつも、突然やってくる』のだ。
そしてこの翌日。
事は起きた。

翌日。
朝、俺が起きて廊下を歩いていると。
廊下の向こうから、ゆりと蓮華が歩いてきた。
「おっはよう!よく眠れた?」
「おはよう、ゆり。それに、れ―――」
俺は、絶句した。
何故なら。
赤毛。
赤毛のショートカット。
そこから連鎖的に、記憶が蘇る。
整った端整な顔立ち。
短く切り揃えられた綺麗な赤毛。
すらりとした体。
それは、キーワード。
過去の記憶を呼び起こす鍵。
開かれた過去は。
短い赤毛。
細い手足。
端整な顔立ち。
そして、短パンとTシャツ。
男喋りの、活発な少女。
そして何より、俺の親友。
雫の親友。
そして、彼女は、こう名乗っていた――。

「――レン?」

「……………あ。」
彼女は、頭に手をやり、ハッとしたように驚き、しまったというように苦笑した。
そして、彼女は諦めたように首を振ると、昔のような、朗らかな笑顔で。
昔のように、挨拶をした。

「おはよう、紫苑。そして、『久しぶり』だね。まぁ、これまでのこととこれからのことは、おいおい話そうじゃないか。今は再開を喜ぼう。紫苑。また会えてよかった。」

―――レン。
俺の、親友。
蓮華、お前が、レンだったのか?
「レン!?本当にお前なのか!?なぁ!本当なのか!?これは夢じゃないのか!?現実なのか!?こんな素晴らしいことが現実にあっていいのか!?」
「君の取り乱す姿も久しぶりにみるね。まぁ、やっと思い出してくれたか。正直言ってもう諦めていたんだけどね。」
――――――――――あ。
俺は、膝から崩れ落ちた。
あ、はは。
これは、夢か?
もし夢なら、覚めないでくれ。
今この夢が覚めるなら。
俺は純粋な絶望だけで死ぬだろう。
これは比喩表現じゃない。
「ちょっと、紫苑、どうしたの?」
ゆりの声が聞こえる。
でも、それに反応している余裕はない。
だって。
俺は。
今この瞬間に死んでしまいたいとすら思っているのだから。
今、最も幸福なこの瞬間。
今死んでしまえば、あらゆる不幸を経験せずに済む。
それならば、いっそ。
「紫苑。君は今こう考えてるんじゃないのかい?『親友に再会できて最高に幸せな今死んでしまえば、不幸など一切経験せずに幸福に人生を終えられる』とね。」
「ハッ。流石だよ、レン。君の読心も全く鈍ってないようだな。」
「あ、あのさ、紫苑。蓮華が髪を染めてショックを受けてるなら、それは違うわよ。むしろ黒く染めてたのよ蓮華は。家では染めてなかったけどさ。」
ゆり、そうじゃないんだ。
蓮華がレンなら、赤毛なのはむしろ必然なんだ。
昔。
レンと名乗ったそいつは。
俺と雫の親友で。
そして、何処かへ消えてしまった。
それが、今、俺の目の前にいる。
「レン。本当にお前なのか。」
「ああそうだよ。ボクはかつてレンと名乗った君の親友で、君の彼女である雅蓮華だ。君が思い出してくれたのは幸いだよ。これを期に、またこの口調に戻してもいいかな?」
「ああ。最高だよ。」
「…………あれ?」
ゆりが全く状況について来れていない。
だけど、そんなこと今はどうでもいい。
「レン!」
気付けば、俺はレンに、抱きついてしまっていた。
「よかった!………また会えて、本当に良かった!お前だと気付かなかった俺を、許してくれ…………!」
レンは全く動じず、俺の背を宥めるように優しく叩く。
「大丈夫だ。君の事を恨んだりも憎んだりもしていないから安心してくれ。別れたあの日から五年もの歳月が流れているんだ。ボクのことを忘れていても無理はない。なに。これからも君は、変わらずボクの彼氏でいてくれるんだろう?」
「ああ。」
勿論だ。
「しかし、君は昔から男女の差を意識していなかったようだけど、その思想はそのままなのかい?正直、高校生にもなって異性に抱きつかれるとは思っていなかった……いや、彼氏彼女の仲ならそれくらいは普通か。でももうちょい時と場所を考えないかい?」
蓮華に言われて、俺は我に返った。
「あ、ああ。すまない。」
慌ててレンから離れる。
ついついその辺の常識がトんでしまったが、親友であるといってもレンは女子だ。
確かに彼女ではある。だが、やはりTPOは弁えるべきだろう。
「そして、君は、ボクの親友でもいてくれるのかい?」
「ああ。それも当然だ。むしろ、俺のほうからお願いしたい。お前を一度は裏切ったんだ。まだ親友でいてくれるというのなら、それほど有難いことは無い。」
「そのこともきちんと話さなければならないね。でもその前に、もう一つするべきことがあるみたいだね。」
と、レンは俺の後ろを指差す。
「………お兄ちゃん?どうしたの?」
「雫ッ!?」
俺の後ろには、雫がいた。
「朝から大声を出してどうしたの?何かあった――」
雫が、目を見開く。
俺の背後を見て。
「……レン。レン?レン―――本当に?」
「やぁ。君も思い出してくれたのかい?これでやっと、本当の再開を果たせたね。久しぶり、雫ちゃん。」
「レン!」
雫は、一目散にレンに飛びつく。
「レン!レン!レぇええええン!」
「こらこら。そんなに叫ばないでいいよ。ボクはここにいる。もうどこにも行かないさ。」
子供みたいに泣きじゃくりながら、レンに抱きつく雫。
そんな雫を優しく宥めるレン。
「良かった………また会えて…………本当によかった……………!」
そのまま、本当に泣き出してしまう雫。
「やれやれ。この子も昔のままか。それはいいことなんだけど、ボクとしては困ってしまうね。」
レンは、雫を見つめながら、優しい笑みを漏らす。
昔のように。

食堂の、朝食の席にて。
俺と雫、レン、ゆり以外はまだ眠っているらしく、俺たちしかいない。