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てっしゅう
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「愛されたい」 第八章 約束の日

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横井は名神高速のインターチェンジまで戻り、立ち並ぶホテル郡の一つに車を入れた。
智子は恥ずかしさよりこれからのことに密かに思いを寄せていた。横井と結婚することが運命じゃなく、こうすることが運命なんだと自分に言い聞かせた。

初めてこういう場所に来て、部屋に入った智子はそれだけで身体がすでに熱くなり始めていた。

新しい下着を着けて来て良かった、そう思った。こんな展開になるとは考えても見なかったが、今は自然に横井を受け入れる準備が出来ていた。

「智子さん、好きだよ」
「智子って呼んで・・・私も好き」
「智子・・・怖くないかい?」
「大丈夫よ・・・ドキドキするけど、優しくしてね」
「うん・・・」

背中のファスナーをスーッと下ろされて、来ていたワンピースが床に落ちた。智子は足をまたいで、そしてかがんで拾ってソファーにかけた。横井は着ていたシャツとズボンを脱いで同じようにソファーにかけた。そして下着だけになった智子をさっと抱えあげて、ベッドへ運んだ。

「行雄さん、明かりを消して・・・恥ずかしいから」
「解った」
枕もとの小さな電球明かりだけになった。横井はゆっくりとそして丁寧に智子を愛した。智子の柔らかな肌は横井を直ぐに限界までに興奮させていた。重なり合って直ぐに横井は果てた。

このまま時間が止まってくれたらいいのにと智子は思った。一つになっている時間がずっと続けばいいのにとも思った。あっという間のことだったけど、絶対に忘れることが出来ない日になった。横井の身体に自分の身体をぴったりとくっつけるようにして心臓の鼓動を聞いていた。

「あなたの鼓動を感じる・・・」
「初めて出逢った時から、こうなる運命だったんだよなきっと」
「そうね、私もそう感じた。今はあなたのことだけ考えることにする。高志が美咲さんと仲良くしてくれたらそれはそれで嬉しい。ねえ?娘さんに逢ってみない?」
「逢いたい・・・逢って詫びたい。許してくれるなら時々逢いたい。智子に頼めるのか?」
「美咲ちゃんね、お父さんに逢いたいって言ってたわよ。本当にそう言ってた。もう逢ってもいいんじゃないかしら」
「智子と逢ってなかったらこうなっていなかっただけじゃなく、娘にも逢うことが無かったんだね。おれは今最高に幸せだよ。本当にありがとう」
「不思議な縁よね。息子とあなたの娘さんが出会っていただなんて・・・それこそが運命の出会いって言うんじゃないかしら」
「そうだな」

まだ30分も経っていないのに横井は再び求めてきた。二度目は恥らうことなく前より大胆になっていた智子であった。


家の前まで送ってもらった。車から降りて智子は横井の車が見えなくなるまで手を振って見送っていた。

「ただいま!遅くなってゴメンね」
「お母さん、お帰りなさい。楽しかったようね。晩ご飯食べたの?」
「楽しかったわ。まだ食べてないの、何か残ってる?」
「温め直すから、着替えてきて」
「ありがとう。そうさせてもらうわ」

自分の部屋に入って着替えた。有里が作ってくれたご飯を食べながら居間でゲームをしている高志の姿が目に入った。
「高志、ちょっと話があるの。来てくれない?」
「なに?ここじゃ聞けないの?」
「大切なことだからこっちに来て欲しいの」
「ちょっと待って、終了するから」

智子は早い方が良いと考えて美咲と横井を会わせる機会を考えていた。
「お母さんね、美咲ちゃんのお父さんを知っているの」
「ほんと!何で?」
「前にいた会社の上司で横井さんって言う人がそうなの」
有里が傍から口出しをした。
「横井さんって、入院していたときによく来ていた人よね?」
「そうなの。離婚してお嬢さんに会えないって話していたから、今日聞いてみたのよ。そしたら美咲ちゃんのお父さんだって解ったの」
「母さんどうしてその人に聞こうって思ったの?」
「この前美咲ちゃんが家に来たときに話したでしょ?ご両親が離婚したって言うこと。そしてお母さんが、お父さんに会わせてくれないって言うことも。それを聞いていて、ひょっとしたらって思えたから、聞いてみたのよ」
「偶然ね、高志の付き合っている子がお母さんの知っている人の娘だったなんて」
「有里、そうなの。本当にビックリしたわ。こんな事ってあるんだって。それでね、美咲ちゃんだけに知らせて欲しいのよ。お母さんに連絡くれるように言ってくれない?」
「明日学校で言ってみるよ。母さんに電話すればいいんだよね?」
「お願いできるかしら」
「解ったよ。美咲、喜ぶかもしれないな」

お腹も膨れて横井との約束も果たせそうになって気持ちが安らいだ。今夜は化粧だけ落としてもう寝ようと部屋に戻っていった。ベッドに横になって先ほどまでのことを思い出していた。

横井の切ない気持ちを察して、すべてを許してしまった。今度は自分が切なくなってしまった。きっとまた逢いたい、また抱かれたい、と思ってしまうのだろう。身体の中に横井との思い出が残っている。こんな感覚は始めて経験する。それほどまでに横井と激しく愛し合ったのであろうか。

学生時代に付き合っていた彼の時よりも今は強く「好き」と言う気持ちが芽生えている。夫とはこうした気持ちが初めから無かったから論外だが、もう引き戻せないかも知れない・・・解っていながら始めた恋に、解っていたように苦しまされることになっていた。

翌日夫と顔を合わせると「話したい事があるから、今日食事が済んだら部屋に来てくれ」そう言われた。
「あなた、何?」
「その時に話すから」そう言って出かけてしまった。
少し気になったが、今は頭の中が横井の事でいっぱいだったから、直ぐに気にならなくなってしまった。

15日からの出勤にあわせて渡された資料に目を通さないといけなかったから、早速テーブルに出してきて読み始めた。分厚い資料は地元の産業の歴史と町の歴史が書かれてあった。少し読み始めたところで、実家のことも書かれてあることに感動した。子供の頃に読んだ記憶が残っている、童話「ごんぎつね」の作家、新美南吉の生家も仕事を始める半田市にあった。多くの人に町の歴史と産業を紹介する仕事がとてもやりがいのあることなのかも知れないと思い始めていた。

夕方になって電話がかかってきた。
「はい、楠本ですが・・・」
「高橋です。おば様?高志さんから聞きました。本当ですか?お父さんと同じ会社に居られたって言うこと」
「美咲ちゃん、そうなの。昨日初めて知って、急いで知らせたかったから高志に頼んだの」
「今からそちらに伺っても構いませんか?」
「いいわよ。高志と一緒に来たら?」
「帰って着替えてから行きます。制服で寄り道は禁止されていますから」
「そうなの・・・じゃあそうして。待ってるね」
「はい」

美咲はきちんとしている子だと智子は感心した。


電話を切って一時間ほどして美咲はやってきた。
「いらっしゃい。二人で話したいから汚くしているけど私の部屋に来てくれる?」
「はい」
智子の部屋に美咲は入った。

「おば様、きれいにされているじゃないですか。私の部屋なんか散らかっていて恥ずかしいです」
「そう、ありがとう。一人だから片付いているのよ」
「おじ様と一緒じゃないんですか?」