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呼び寄せるもの 【腐った隣人】

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 毎夜の子供の泣き声のせいで慢性的な寝不足の日々が続いていた。
 自分ではない、別の部屋の住人が警察や児童相談所に通報なり、相談なりしてくれないかと千尋が思い始めていたそんなある日、買出しから帰る途中に友人から電話が掛かってきた。

「もしもし、香奈?何?」
『ごめんね、今忙しい?』
「別に」
『ちょっと日帰りの旅行に出かけてね、神社でお守り買ってきたの。あとお菓子も。お土産渡したいから会えないかな?』

 お守り、占い、オカルトと十代から頭の中が成長していない友人の幼さに、千尋は携帯電話の電話口から口を話してため息をついた。
 二十代も後半にさしかかり、結婚し、子供もいてもいい年齢だ。
 世間の同じ年齢の女性達は趣味のジム通いや英会話、ヨガにピラティスにエステ、恋愛、婚活に勤しんでいるというのに。
 友人の程度の低さに苛立ちさえ覚える。
 こんな友人と付き合っていたら自分のレベルが落ちる。
 そろそろこの子も友人関係から切るべきかも知れない。
 千尋は苛立つ気持ちを抑えて、携帯電話を再び耳にあてる。

「ごめんね。今からデートだからまた今度ね。バイバイ」

 猫撫で声で一方的に通話を切り、バッグの中に携帯電話を投げ入れる。
 重かった足取りが少しだけ軽くなり、オートロックの鍵を開けて、エスカレーターに乗り込む。
 自分の部屋のある階に着き、視界に白い裸体が目に入り、千尋は目を見開く。

「お母さん、開けて。お母さん」

 力なく玄関を叩く少女。
 ドアを叩かれているのは例のあの部屋だ。
 ちらりと同じマンションの住人から聞いていた話を思い出した。
 千尋の隣の部屋には登校拒否をしている女の子がいるらしい。
 この子がそうかと少女の裸体を凝視する。
 髪の毛は長年切っていないのか後ろ髪も前髪も伸びっぱなし。
 十代前半らしき体は、胸こそ膨らみかけているが、腕も足も牛蒡のように細い。
 このまま無視して回れ右をしてしまいたいが、さすがの千尋も少女に対し同性としての良心が芽生えた。
 同じ階には男の住人もいる。
 母親に虐待され、見知らぬ男にまで悪戯をされたら、あまりにも可哀想だ。
 足音を立てずに、そっと少女に近づく。

「大丈夫?服貸してあげるからうちにおいでよ」

 少女に耳打つ。
 長い前髪の隙間から少女の暗い瞳と目が合い、背筋に寒いものが走ったが、声をかけておいて見放すこともできなかった。