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てっしゅう
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「愛されたい」 第七章 真実

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「だってね、口を押さえていたの、って言うんだよ。最低!」
「有里!謝りなさい。そんな事無かったんだから」
「そうだよ、謝れ!」

有里はちょっと怒った表情で、
「高志、本当のこと言いなさい!帰るときの美咲ちゃんの服、来た時とちょっと違っていたのよ。お姉ちゃん気付かなかったとでも思っているの!」
「うそ!そんな事・・・解るわけ無いじゃん」
「バカ!ほら本当の事言ったじゃない。あなたもウソが下手ね」

有里の勘の鋭さに智子はドキッとさせられた。本当に美咲を見てそう感じたとすれば、観察力がすごいと思えるし、これから横井との事も十分に気をつけないと気付かれるかも知れないと有里の顔を見つめてしまった。

横井と逢う土曜日がやって来た。悩んだあげく、新しい下着を買って身に着けた。最後までは絶対にしないと決めてはいたが、新しい下着は買ってしまった。お気に入りのワンピースと、雨が降っていたので薄手のカーディガンを羽織って約束の時間に間に合うように家を出た。

「有里、同級生と会ってくるから遅くなるかも知れないの。ご飯の用意頼める?」
「いいよ、やっておくから。ゆっくりしてきて」
「ありがとう。じゃあ行ってくるから」
なるべく普通に振舞おうとして余計に言葉に力が入っていた。

せっかくの初デートだというのにこの雨はなんだか二人の先行きを予言しているようで冷たく感じた。約束のファミレスには10分ほど前に着いた。ドアーを開けようとすると近くに停めてあった車から横井が降りて走ってきた。

「おはよう。車で待っていたんだ。中に入らずにこのまま出かけよう」
「はい、宜しくお願いします」
「なんだか堅いね・・・もう上司でもないし友人でもないんだよ。おれのこと行雄って呼んでくれないか」
「行雄さん・・・ですか?なんだか恥ずかしいです」
「可愛いなあ、智子さんは。そういうところがたまらないんだけどね」
「変なこと言わないで下さい・・・もうおばさんなんですから」
「ダメだよ!自分からそんなこと言ってちゃ。今日の服装みたいに可愛く振舞いましょう、ね?」
「うん・・・」

横井は真新しい車に乗っていた。会社を転勤して通勤に車が必要になったから思い切って買ったのだ。智子も気になっていたハイブリッドカーであった。
助手席に座ると横井はシートベルトをはめてくれた。こんなことをしてくれた男性は今までいなかったから、なんて優しいんだろう・・・そう感じた。
スカート丈が短いことに加えてワンピースだったから、座ったことでまくれ上がってもう下着が見えそうなぐらいになっていた。慌てて智子は前にハンドバッグを置き手で裾を引っ張った。

くすっと笑って、横井は見ないような素振りを見せた。智子はもう恥ずかしくて真っ赤な顔になっていた。横井は結婚して子供が二人もいる智子がそんな表情を見せたことにちょっと驚いた。そして同時にうぶなところに強く性欲を刺激された。

車は駐車場を出て都市高速に乗り中央道を中津川方面に走らせていた。
「今日はなんと言って家を出てきたの?」
「同級生に会うって言ってきたの」
「同級生か・・・なるほど」
「行雄さんと同じ半田にいるのよ。私も来週から仕事に通うから、これからは会ってお茶したり出来るねって話していたのよ」
「本当の話なんだ!そりゃ家の人も信じるね」
「うん、そう思うわ」
「悪い人だ、智子さんは・・・」
「あなたがそうさせたんじゃないの!そんな言い方しないで」
「怒らせちゃったかな?ゴメン。今日の智子さんは可愛いよ。その洋服も素敵だ。綺麗な足も見せてもらえたし・・・」
「うそ!誰にでもそんなこと言っているんでしょ。どこが綺麗な足なのよ!恥ずかしい事言わないで欲しいわ」
「ううん、本当にそう思っているから言ったんだ。一緒に仕事していたときより痩せたよね?違うかな」
「入院して確かに痩せたわ。でも綺麗なんかじゃない」
「控えめなんだね何でも智子さんは。そういうところが好きだなあ。今の女性はみんな積極的だったり、厚かましかったりするからおれには新鮮に映るよ」
「私は、世間知らずなだけ。それにあなたとこうして逢っているのよ。厚かましくないって言ったら、ウソになる。積極的じゃないって言ってもウソになる。違う?」
「なるほど・・・そうかも知れないなあ」

長いトンネルの手前にあるインターチェンジを出て、車は紅葉が始まっている冬にはスキー場になる場所に着いた。ドアーを開けると少し肌寒く感じた。土曜日にしては考えられないほど駐車場に車は停まっていなかった。この雨だからだろう。助手席に回って傘を差し出して降りるようにドアーを開けてくれた。まるで映画のシーンのように。

差し出された手を智子は握った。ちょっと力を入れられてすっと車から出た。大きな傘に二人で入る。ドアーがロックされる音がした。
「雨が降っているけど少し紅葉見物しよう」
「ええ、そうね。せっかくですものね」
横井の腕が智子の肩に掛かる。少し力を入れて身体を引き寄せられた。智子はそっと手を横井の腰に回した。ゆっくりと歩き出す。誰も見ていない。こんなふうに二人が引っ付いて歩くことは経験が無かった。二人だけの世界がそこに広がっていた。

「こんなことをしている自分が信じられない。なんだか怖いわ」智子は横井の顔を見上げながらそう言った。

「おれは真剣なんだ。逢ったばかりでこんな事言っても信じてもらえないだろうけど、真剣なんだ」
「私には家族がいるのよ。真剣になんかなれないわ」
「今は逢っている時だけでいいんだ。でもいつかは本当の夫婦になりたい」
「本当にそう言ってるの?」
「ウソじゃない。直ぐじゃなくていいんだ。これからの智子さんとの時間がそうなってゆくと思いたいんだ」
「行雄さん・・・私はこうしているだけで十分幸せに感じるの。こんな映画のシーンみたいな経験が出来て、優しいあなたとこうして身体を寄せ合って歩いて。今はそれ以上は考えられない」
「だから今じゃなくていいって言ってるじゃない」
「ダメって言ったでしょ・・・困らせないで」
「これ以上好きになるなって言うこと?」
「私は、好きよ。行雄さんのこと好き・・・だけど、わきまえていたいの。こんな関係なのに変な事言ってるみたいだけど、最後までは・・・イヤ」
「智子さん・・・好きなのに何故そんな事言うの?」
「何もかも壊してまで夢中になってはいけないのよ。わたしはそう・・・」
「何も壊したりしない。約束する。だから智子さんのこともっと愛したい・・・」
「私だって・・・愛されたい。行雄さんのこともっと愛したい。約束して!こうして逢っている時だけそうするって」
「どういうこと?」
「割り切りたいの」
「一緒にはならないって言うこと?」
「なれないの。なりたいって思ってもなれないの。だからせめてこうして逢っている時間だけあなたの事感じていられたらそれで満足できる。幸せなの」
「ご主人に愛情感じてないって言ってたのはうそだったの?」
「ウソなんかじゃないよ。でも、離婚はしないの。子供のためでも、世間体のためでもないの。自分へのけじめなの」
「意味が解らないよ。なにが自分のためなの?」