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「山」 にまつわる小品集 その参

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 ワシが物心ついた頃には親父と旅をしていた。
 親父は日本中の山を歩きまわっとってな。山師、いうやつやな。鉱山を捜しまわっとったんや。そう簡単に見つかるもんやない。一獲千金の夢を見てすっからかんになったもんもおる。
 見つけても元手がなかったら事業も興せんよって、会社に採掘の権利を売り付けるんやな。足元みられたら安うに叩かれる、ちゅうもんや。

 福島県には良質の石炭がまだまだ隠れとった。採掘しても採算が十分取れる良質の炭鉱を2カ所見つけてな。その地域では最大を誇る常磐炭田に持ちかけた。
 ところが福島の山は、炭鉱のことを山とゆうんやが、掘れば掘るほどに地下水が湧き出て、しかも温泉で坑内は暑うて過酷な環境やった。
 親父は技術的なことも知っとって、坑内での排水ポンプの設置を手伝った。

 忘れもせんよ。昭和2年といえばワシが14歳の時。
 内郷炭鉱で坑内火災が発生して、死者・行方不明者136人。その内のひとりが親父よ。
 ワシは何がどうなってるのか全く分からんかった。
 生き残った人は全身すすだらけで抗(あな)から這い出てきた。
 石炭の粉塵は火が付きやすい。爆発することもある。
 ポンプのモーターの火花が散っていっぺんに火の海になった、ちゅうことを後で知った。

 炭鉱(やま)の人らはようしてくれてな、会社もワシの生活から学費まで面倒見てくれて。
 やまには時々ワシも入った。
 やまには女の神様がいてやきもち焼くから女は入ってはならん。だが女たちも働かな生きてはいけん。
 女たちは男と同じように上半身裸になって、顔にすすを付けて神様に男と思わせ、同じ力仕事でよう働いとった。事故で死ぬ時も一緒じゃ。

 ワシは高等学校まで行かせてもろた。今でゆう大学やな。
 日本の国力向上には石炭が必要やが、それ以上に鉄の重要性を知ったんや。これからは鉄が主流になると見た。
 そこで願い出て、社長の知り合いの製鉄所で働かせてもらうことにしたわけや。
 それがワシの生まれ故郷でもあった、大阪の堺やった。