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見えない

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「さ・・・とき?」
 それがたぶん森主なのだろう。だが、外見は寸分違わずサトキと一緒だった。唯一違うところといえば、その頭髪が季節はずれの新緑色をしているだけだ。
 なぜ彼女があぜんとしているのかわからない馨は、彼女の視線を追った。まがまがしい雰囲気が流れてきて、彼は体を硬くする。
 光が収まると、森主が目を開けた。目は綺麗な青色で、そこもサトキとは違う。彼はトンと足をつくと、その焦点を梓に合わせた。彼は唐突に手を広げる。
「ああ、会いたかったよ!葵の娘」
 葵とは言うまでもない、梓の母である。馨には目もくれず、森主は梓の元へまっすぐ向かう。邪気がよってきたことを感じ、馨は思わず二人の間に割り込んだ。祓い屋として、梓を守るべきだと判断したためである。それに、相手はパッと見ただけで男にしか見えない梓が女だとわかった。それもまた、怪しさを感じる。
 初めて視界に入ってきた馨の存在に、森主は驚くこともなく淡々と彼を見た。にらんでいるようにも見える。見えている人間なら、恐怖で脚をすくめるところだ。見えていない馨にすら、恐怖心を植えつける事が出来た。
 震える小さな声で、馨は梓に尋ねる。
「今、どの辺にいる?」
「君の十歩前くらい」
 同じくひそひそ声で話していたのだが、その会話は森主に聞こえていた。
 唐突に登場した馨には驚かなかったのに、森主はこの会話で目を丸くする。馨に話しかける。
「・・・お前、俺が見えないのか?」
「祓い屋なのに」という言葉が来ると読んで、馨は梓が見ている方向をにらんだ。彼の視界にあるのは、ただの何百年生きたのだろう巨木だけである。しかし、次に森主がこぼしたのは、ただの独り言。
「今の俺は、大体の人間には見えるというのに・・・!」
 そして盛大に笑い出した。腹を抱えて笑う彼は、狂ったように見えて、二人の恐怖心をあおった。後悔からか、梓は森主の妖気の入っていたペンダントを握った。
作品名:見えない 作家名:神田 諷