小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

その手は自由

INDEX|1ページ/1ページ|

 
「あなたはいつも人気者だ」
「そういう君は陰気モノだね」
「まったく、ねたましい」
 私はそう言って彼の瞳から目を逸らした。すると彼は心底困ったように「機嫌を損ねた」と呟くので、私は少し控えめに彼の左の手のひらを握った。
「あなたはなんでそう、人から好かれるの」
「好かれたいからだよ」
「なんでそう、人から好かれたいの」
「自分の価値を知るために」
「なんでそう、価値を知るの」
「君にはわからない」
 彼はぐっと堪えたような表情で見つめてきた。私は少しむっとしたので、そっぽを向いてしまった。
「わたしは、わかりたくもない」
「じゃあどうして、一緒にいてくれるの」
「まったく、ねたましい」
「僕は、誤った感情を作り出す手のひらを持っているのかもしれない」
「嘘だろ」
「僕は、血を流すためだけに腕を取り付けられたのかもしれない」
「嘘、だろ」
「嘘じゃないかもしれない」
「まったく、ねたましい、よ」
 彼の言葉を耳にして、脳味噌に届くまでの時間が酷く気味が悪く、しかも何故か中毒性のあるもので、耳から入る麻薬でもばらまいているのかと思うくらい彼の言葉は殺人的だ。私はだんだんと恐ろしく胸が痛くなっていくのを感じて、彼の指先から手を離して、両手で顔を覆った。
 「泣いているの?」と彼が心配そうに訊くので、私は顔を上げて彼の瞳を見た。
 すると、そこには私が映っていないかもしれない、そんな不安が胸の痛いところにザアザアと寄せてきたのだ。
 深くて殺伐とした冷やかな瞳に、温もりが見つからなくて、怖くて涙が溢れてしまう。彼はそんな瞳で、人を愛してるって抱きしめるように言う。
「いつか僕を嫌いになるよ」
 彼はそう言って、私の頬に手を伸ばしては息を殺した。彼はまるで虚しさが滴り落ちるような笑い方をしていた。私はその冷たい手のひらの感触から世界の終わりを探すように目を閉じた。
「どうか、どうか」
 彼の小さな悲鳴は何時になっても鳴り止まず、私の心をかき乱すのだ。

作品名:その手は自由 作家名:らた